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絶賛、嫉妬中の私とあなたの話
登場人物一覧
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は可愛くて皆の人気者だ。だから、華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はとってもとっても嫉妬しているのだ。
皆と仲良くしているのは嬉しいことなのだけど、何だかとっても面白くない。この前だって華蓮とお揃いの水着でココロは、他の皆といちゃいちゃ水かけっこをしていた。それに、華蓮は睨むようにココロの唇を見つめる。
(あぁ、私だって大好きなのだわ)
そうだ、そうなのだ。大好きだから、ずるいと思ってしまう。唇に触れたいとか、触れたくないとかそういうのではなくて。華蓮は唸り、頬を膨らませる。仄暗い感情がぐるぐると回って、そろそろバターになるのかもしれない。
(私とも、もっと仲良くしてほしいのだわ)
大好きだからもっと傍にいてほしいと。いや、私と一緒にいることを選んでほしい。
我儘なのは分かっている。でも、誰よりも大切にしてほしくて。誰よりも私を好きでいてほしくて。ココロが誰と何をしているのか、それを思うとなんだろう。むっとし、心がピリピリする。ココロを見つめれば、彼女は美味しそうにケーキを食べている。ショートケーキはココロのお土産だった。シャイネン・ナハトで食べた思い出のショートケーキ。苺は甘酸っぱくて、スポンジはふわふわ。生クリームたっぷりのケーキは甘く、あの時の思い出が蘇る。
可愛くて、大切で、特別なココロ。大好きな友達以上の相手だ。イレギュラーズとしても
「華蓮ちゃん、まったりタイムですね」
ココロの言葉に華蓮はハッとする。ココロを見つめながら、ココロのことを考えていた為か、あろうことか僅かに反応が遅れる。ココロは練達製のエアコンを見つめ、「とっても涼しいです」と華蓮に身体を寄せながら視線を、華蓮に合わせるのだ。青い瞳がしっかりと、ただ、華蓮だけを映している。それが、華蓮には嬉しかった。だけれど、華蓮はすぐにこう思うのだ。騙されないぞと。ええ、そう、私はずっと嫉妬しているのだ。ぱああああっと癒されそうになる心を、きゅっと引き締め、心を鬼にする。あなたに甘やかしてもらうまでは許さないぞと。
「え、ええ。此処は涼しくて快適なのだわよ」
ショートケーキを食べながら、にっこりと笑うのだ。吹き出す不機嫌の欠片をほんの僅かに滲ませながら。
「ええ、隣に座っても暑くないですしね。こんなに近いのに」
ココロは頷きながら、すぐにあれと華蓮の顔をまじまじと見つめる。華蓮は白色の羽をぴくりとさせ、眼差しに期待を込めた。
(もしかして、ココロさん。気付いたのだわよ?)
ココロの視線から口を開かなくとも、華蓮が何を思っているか理解しているような表情をココロはしている。ココロのことだ。嫉妬と華蓮の寂しさを同時に感じ取ったのかもしれない。むしろ、わかってほしいと思った。じっと見つめるのは、そんな私の心をあなたに分かってもらいたい。いや、あなたになら分かってもらえる。ココロはそんな華蓮の心を知っているように、いつものように微笑む。
「華蓮ちゃん、あーんをお願いできますか?」
その瞬間、華蓮は身体に電気が走ったかの如く、心が跳ねた。シャイネン・ナハトのあの日とは、逆。
「……あーん」
嬉しそうに目を細めながら、口を開ける。ショートケーキがのったフォークがそっと唇に向けられる。華蓮は息を吐き、さっきよりも、もっともっと美味しくなったショートケーキを口にするのだ。
「美味しいです?」
「うん、美味しい」
すぐにココロを見つめる。頬が熱くなって、心臓が高鳴る。華蓮は目を細めた。嬉しくて、愛おしくて、もう一度、ほしいと思った。与えられるほど、欲しがりになる。期待してしまうのだ。
「ココロさん」
名前を呼び、噛み締める。ああ、大切なあなたの名前を呼ぶことが好きだ。大好きだ。だから、何度だって呼びたいと思ってしまう。それこそ、用事もなく。
「うん? 華蓮ちゃん、どうしたんです?」
ココロは小首を傾げ、華蓮を呼んだ。ああと目を細める。名前を呼ばれることも嬉しかった。華蓮はココロの服の袖口を指先でちょんと摘み、真っすぐ、ココロを見た。指先に熱がこもっていく。
甘やかして欲しい。よしよしして、ぎゅっとして誰よりも、私の名前を呼んで。私だけを見て。あなたに大好きだって言ってほしくて。ほっぺにキスをしてもらいたいのだ。ああ、止まらない。夜は一緒に手を繋いでぴったりと寄り添い、あなたの温かさを感じたいと願う。そして、私はあなたの夢を、あなたは私の夢を見るのだ。
「あのね……ココロさん、私」
我儘な声を吐き出す。寂しくて、羨ましくて、ずるいと思っていた。私に嫉妬させるあなたと、あなたといちゃいちゃする人たちが。一番なのに。特別なのに。知っていても、嫌なのだ。だから、そんな気持ちにさせたあなたには私を甘やかす使命があって、私にはあなたに我儘を言う権利があるのだ。華蓮はティーカップに入ったアールグレイで喉を潤し、唇を尖らせる。
「今、嫉妬モード中なのだわよ、と~っても!」
はっきりと告げるのだ。
「うん」
ココロは驚かなかった。ただ、どうして嫉妬しているのだろうと思っている、そんな表情が読み取れた。その無自覚さが何だか面白くなくて。気が付いてくれたことが嬉しくて。好きだから、大好きだから、少しのことで反応してしまう。でも、もっと私を理解してほしくて。そして、ずっとずっとそばにいて。
「だからね」
ココロを優しく、ねめつける。袖口を掴んでいた指を下にずらし、熱のこもった手でココロの手を掴んだ。
「うん」
「ココロさんに今日、一日甘え倒すのだわ!」
触れた手に力を込め、宣言するのだ。
あなたなら、私の我儘を静かに受け入れてくれる。あなたが私を拒絶しないことを、私は知っているから。今日は、子供のようにあなたに、恋人のように甘えるのだ。『母性』もお休みにして、あなたの瞳に私だけを映す。
「ふふ、いいですよ。なら、もっと」
優しい声とともにケーキが口元に何度も運ばれ、ひな鳥のように華蓮はケーキを頬張る。幸福が瞬く間に広がり、尖った心をまあるくしていく。
「あ」
穏やかな表情をするココロが何かに気が付いたように目を僅かに大きくさせた。
「え?」
発せられた声に驚いた瞬間、華蓮はもっとびっくりしてしまった。
「ふえっ!? え、え?」
目を細め、ココロが顔を近づかせてきたのだ。キスされる。そう思った。それはまるで、恋人同士のワンシーンのようだった。そう意識した途端、「〜〜!?」
頬が燃えるように熱くなり、喉の奥が震える。ココロの金色の美しい髪が揺れ、ココロの匂いがした。心拍数が急速に上がる。
「コ、ココロさん?」
予想外の動きに、はわはわと慌ててしまう。恥ずかしくて、嬉しくて、ぎゅっと重ねた手に力を込めてしまう。大好きで私の愛しい人。華蓮は目を閉じた。
「──っひゃあ!?」
変な声が飛び出た。熱い。ココロの舌先が、柔らかな唇が、華蓮の唇のすぐそばの頬をゆっくりと撫で、すぐに離れていく。
「あれ?」
キスじゃなかった。目を開ける。
「華蓮ちゃん、生クリームが頬に付いていました」
へへと照れたように笑うココロに、華蓮は何だろう。安堵するような、拍子抜けするような。色のついた感情がごちゃごちゃと混じりあい、欲望に似た感情がぐつぐつと沸き立つ。キスをしてほしいと思った。
「ね、ココロさん。キス、して抱きしめて」
息を吐き、頬を指さす。目は何だか潤み、ココロを求めている。
「華蓮ちゃんの望むがままに」
言いながら、ココロはいつもと逆だなと思った。普段は広い心でわたしを優しく包み込んでくれる華蓮を今日はココロが甘やかす。
(しかし、なんで嫉妬モードに入っちゃってるんだろう? ユニットを組んでいるのだから普段もよく一緒にいるのに、わからないこともありますね)
でも、それが新鮮で何だろう。感情をぶつけてくれるのが何だか嬉しかった。ココロは唇を頬に寄せ、親愛を込め、大好きの気持ちを込め、何度もキスをする。
「あっ……くすぐったい」
華蓮の身体が震え、羽が大きく揺れる。
「ふふ、そうですか?」
ココロは微笑み、身悶えする華蓮を可愛いと思ったのだろうか、華蓮を抱き寄せ、額に、瞼に、首に、熱心に唇を落としていく。
「んっ、あっ……」
華蓮はココロにしがみ付き、目を潤ませる。ココロが触れる度に、彼女の吐息が華蓮の身体を敏感にするのだ。
「んっ、ココロさん! 大好きなのだわ……」
伝えたくて。でも、それはあなたが想像している以上に大きな感情で。
「ありがとう、わたしもとってもとっても大好きですよ」
ココロの手が、ゆっくりと華蓮の頭を撫で、また、頬に、髪にキスをする。
「……ほんとに?」
「はい、わたしの一番の理解者、一番の親友──ですから」
耳元で囁かれるココロの言葉に、華蓮がうんうんと頷く。
それから、ココロは華蓮が「熱くなってきたのだわ」と恥ずかしそうに笑うまで、ずっとずっと抱きしめ、時折、頭を撫で、キスをしてくれたのだ。ココロと華蓮は、ハッとしたように遅い夕食を食べ、一緒にお風呂に入った。湯船につかりながら、手を繋ぐ。今日はひと時も離れたくなかった。
「あ~、温まりましたねっ」
ココロが言った。
「良いお湯だったのだわ」
脱衣所で真っ裸のまま、笑い合う。何気ない日常が愛おしかった。
「あ、華蓮ちゃん、拭きますよ」
「え、え? 拭く? 何を?」
「何って、華蓮ちゃんをです」
ココロは裸のまま、取り出した分厚いバスタオルを広げ、後ろから華蓮に思いっきり抱き着く。
「え、わっ!」
「動かないでください、華蓮ちゃん」
大真面目なココロに、どぎまぎする。羽が無意識にばさばさと揺れる。
「じ、自分で拭けるのだわ……ちょっ!? あっ!」
声が震える。だって、バスタオル一枚で、こんな。落ち着いていた心臓がバクバクと鳴りだす。ココロは身体を密着させ、華蓮の身体を、羽を一生懸命拭くのだ。ココロの手が、バスタオルが、華蓮の身体を這いまわった。恥ずかしくて、どきどきして、華蓮は顔を真っ赤にする。
「──ッ!!」
華蓮の背に、ココロの柔らかさを感じ、びくりとした瞬間、パッとバスタオルが離れ、ココロが華蓮の髪を拭き始める。
「髪を乾かして、パジャマも着せてあげますから」
ココロは得意げだ。華蓮を甘やかすつもりでいるのだ。
「~~~……ココロさん!」
(え、え? 下着もってこと!?)
動揺してしまう。華蓮の身体も髪も、お風呂場では洗わなかったのに、どうして。
「え?」
きょとんとするココロ。
「し、心臓に悪いのだわよ! それに自分で出来るのだわ……!」
脱衣所に華蓮の叫び声が響くのである。嬉しいけど、嬉しすぎるけど、好きだから必要以上にドキドキしてしまう。
抵抗したのだけど、結局、髪を乾かしてもらった。それに
「あれ、眠いです?」
彼女の声にハッとする。ベッドの上で談笑していたが、いつの間にかうとうとしていたようだ。
「ココロさんに髪を乾かしてもらえて何だか眠くなったのだわ……」
「へへ、嬉しいです。華蓮ちゃん、寝ましょうか」
うんうんと大きく頷きながら、華蓮はじっと、ココロを眺めた。ふわふわする。尖った心はもう何処にもなかった。
「ココロさん」
「はい」
「あのね、手を、繋いでほしいのだわ……」
「ふふ、勿論ですよ」
嬉しかった。ココロはにこにこと笑い、ぎゅっと華蓮の手を握った。
──おやすみなさい。
電気が消える。明日も、また、あなたを独り占めできる。