PandoraPartyProject

SS詳細

初めの一歩。ネミアディアの仕事碌

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
キドー・ルンペルシュティルツの関係者
→ イラスト
キドー・ルンペルシュティルツの関係者
→ イラスト


 フェデリア総督府、5番街。
 リトル・ゼシュテルの酒場は今日も朝から世界各国からやってくる観光客や商人たちで賑わっていた。
 レトロスタイルの建物で、鉄の装飾が施された壁や古びた看板が目を引く。中は海洋と鉄帝の交易の影響を受けた内装だ。真鍮の照明器具が暖かな光を放ち、壁には海の風景や船舶の絵画が飾られてる。
 そんな酒場のバックヤード近くで、話し込む3つの影があった。
「なぜこのぼくが、こんな低俗な場所で、こんな服を着て、こんなことをやらねばならないんだ」
「コンコンコン。ネミアディア、テメェはキツネか」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が、くわえた葉巻をヒョコピョコ揺らしながら人差し指で、清掃服を着た【小鬼狩り】ネミアディアの胸をつく。
「うちの制服、似合ってんじゃねえか。しっかり働けよ」
 とたん、ネミアディアは上品な顔を不快げに歪ませた。
 手にしていたものを振り上げてキド―の脳天に叩きつけようとし、それが『時に燻されし祈』ではなく、清掃道具のモップであることを思い出す。
 このまま叩きつけてやろうか、それとも柄を回して止め金具がついた方で殴ってやろうか。
 1秒にも満たない思考が仇となった。
 振り上げていたモップを横から掴まれて、強引に引き下ろされる。
 やったのは、ネミアディアと同じく派遣会社ルンペルシュティルの清掃服を着たスキンクだ。
「何をする、離せ」
「お客様に当たったら大変です。何かあった時に先方に頭を下げるのは、社長とあんたの異母兄弟おにいさんなんですよ」
 ネミアディアはぐう、と喉の奥で唸った。
 ゴブリンが頭を下げる分にはなんとも思わないが、誇り高きエルフにして聖樹を守る3つの名家のうちの1つを継ぐラゴルディアに、自分のせいで、どこの馬の骨とも分らない者に頭を下げさせるわけにはいかない。
「そういうこった。くれぐれも騒ぎを起こすんじゃねえぞ。それからな、スキンクはテメェの先輩だ。俺様はお前の雇い主だ。もっと敬意を払え、口の利き方には気をつけろ」
 ネミアディアはまたキドーの頭の上にモップを振り上げようとしたが、しっかり柄を掴んだスキンクが頑としてさせなかった。
 落ちつき払った声でスキンクが、キド―に「社長、そろそろ約束のお時間じゃありませんか?」という。
「お、もうそんな時間か。一度、社に戻る。後は頼んだぜ、スキンク」
 人の波をかき分け遠ざかっていく小さな背中に、ネミアディアは槍で突き刺すような視線を送る。
 そんなエルフを横目にして、スキンクはやれやれといった風に小さく首を振った。


 活気溢れる賑やかな酒場の雰囲気と換気の悪さによる空気の澱みが、ネミアディアの気分をささくれ立たせ、イラつかせる。
 掃除は嫌いではない。ネミアディアもまた彼の世界ではエルフ3大名家の1つを継ぐ者ではあるが、自らほうきやはたきを手にすることを厭わない。
 海洋で女海賊に捕らわれていた時には『雑巾がけ』なるものもやったことがある。魚類の女に命令されるのは剛腹だったが、ピカピカになった廊下をみると不思議と心が晴れたものだ。
 だが、ここは――。
(「例えでもなんでもなく、ゴミ捨て場だ!」)
 フェデリア島は混沌中から金と人が集まってくる。中には品位と素行に著しく問題がある者も少なくない。とりわけ酒場はアルコールの勢いも手伝って、旅は恥のかき捨てとばかりに羽目を大いに外す無作法者が集まりやすい。
 齧りついたあと骨だけになったチキンや、根元まで吸い終えた煙草、鼻をかんだ紙などなど。わざわざゴミ箱を探すようなことをせず、店員を呼んで片づけさせるでもなく、そのまま床の下に落とすアホのなんと多いことか!
 心中で悪態をついていると背中の後ろで大きな音がした。
 振り返ったネミアディアが、今しがた拭きおえた床を見て舌打ちする。
 盛大にぶちまけた酒とゲロの上に、髭面で樽のような腹をした男が大の字になって倒れていた。男の服装と腕に掘られた見事なクラーケンとドクロの刺青から、船乗りだと推測する。それもかなり下品な……海賊船のたぐいに乗っているような感じの。
 ネミアディアはモップの柄をきつく握りしめると、体をナワナワと震わせた。
「エルフ以外はすべてゴミだ。ゴミは全て排除する」
 怒りで狭くなった視界をさらに塞ぐように、スキンクが目の前に回り込んできた。
「ここはおれがやります」
 スキンクは、あっちの掃除をお願いします、と優しくネミアディアの肩をカウンター方向へ押しやった。
 代わりにゲロまみれ男の始末をしてくれるらしい。
 そういうことなら、と渋々足をカウンタへ回しかけて、ふと、何か裏があるんじゃないかと思った。「ずいぶん優しいですね、
「優しさで代わったわけではありません」
 そういったスキンクの目は仄暗い。
「もめ事を起こされるとおれが社長に叱られるので。あと、おれのほうがキレイにできますから」
 ムッとしてスキンクに詰め寄ろうとしたとき、ゲロまみれ男が床から体を起こした。頭をふらつかせながら体を横むけて、ゲロと酒のカクテルの上で四つん這いになる。
「お客さん、立てますか」
 スキンクはためらうことなく汚れた床に膝をつくと、慣れた手つきでゲロまみれ男の肩と腰に手を置き、立ち上がりに力を貸した。
 スキンクはこの酒場の店員ではない。派遣会社ルンペルシュティルから仕事を請け負い、今日はこの酒場に清掃員(兼、用心棒。そして指導員)として勤務しているだけだ。にも拘らず、嫌な顔ひとつせず、丁重にかつ親切に客と接している。
 ネミアディアはスキンクの行動を素直に称賛した。ちょっとなにを考えているのか分からないところはあるが……。
「酔い覚ましにちょっと潮風に当たりましょう。さあ、こちらへ」
 肩を回した巨漢に寄りかかられながら、スキンクは酒場の入り口へ向かう。ネミアディアと擦れ違いざま、ちらりと視線を寄越した。
(「後を頼むってことか……結局、この床はぼくが綺麗にするんだな」)
 むしゃくしゃしたが黙々とモップで床を拭き始める。熱くなるなと自身に言い聞かせ、懸命に感情を抑え込んだ。
 あの腐れゴブリンとラゴルディアには命を助けてもらった恩がある。それよりも、こんな簡単な仕事も満足にできなかったのかと、2人に馬鹿にされるのは耐えられない。くだらない内容だが、初仕事で失敗するのは嫌だ。
 2人と一緒にいれば、いつか元の世界に戻った時にラゴルディアが所持する家宝でありエルフの至宝である『時に燻されし祈』を手に入れることができる。それまで我慢だ。
 ぶつぶつ独り言を呟いていると、怪しげな雰囲気の男たちが長い袋を肩に担ぎ、ネミアディアのすぐ横を通り過ぎていった。
 ゲロまみれ男がいたテーブルの斜め後ろで飲んでいた客たちだ。身のこなしに隙がなく、観光客や商人というよりも手練れの刺客と言った方がしっくりくる。
 さりげなく目で追いかけると、男たちは釣りも取らずに急いで店から出ていく。 
 そういえば、彼らはゲロまみれ男が倒れる前からチラチラと、斜め前のテーブルの様子を伺っていた。怪しい連中だと思っていたが、ゲロまみれ男をつけ狙っていたのか。
 双方の間に何かとんでもないトラブルがあるのだろう。いま出ていった男たちか、その雇い主が、密売品の取引でゲロまみれ男に偽物をつかまされたか、または何か秘密を握られ脅されているのか。     
(スキンクが危ない)
 人間がどうなろうが知ったことではないが、スキンクはだ。見棄てるわけにはいかないだろう。
「クソ!」
 モップを乱暴に壁に立てかけると、ネミアディアは急いで店を出た。


「どっちへ行ったんだ?」
 潮風に当たらせるといっていたが……。
 左に行けば波止場に、右に行けばビーチに出る。どちらにしても、酒場から波止場、もしくはビーチまでは距離がある。
 ネミアディアは迷ったあげく、足を左に向けた。
 スキンクもまたゲロまみれ男を船乗りではないかと考え、そのまま船へ送っていったのではないか。
 この判断が間違っていれば、最悪、スキンクはゲロまみれ男と一緒に殺されてしまう。
(「こんな時に手飼いのゴブリンたちがいれば! 手分けして探せるのに」)
 混沌で少しずつ手なずけた異世界のゴブリンたちは、豊穣に渡る途中で女海賊に襲われた際に失っている。いまは自分の感を信じるほかない。
 蹄鉄の色が濃く出ている裏道を駆けていると、横から「おい、待て!」と聞き知った声で呼び止められた。
「テメェ、なに仕事サボってやがる。どこへ行く気だ、スキンクはどうした?」
「腐れゴブリン! いいところに」
「殺すゾ、テメェ。よく聞け、俺様のことを腐れゴブリンと呼んでいいのはラゴルディアだけだ。いや、別に許しているわけじゃないが、アイツとは――お、おい!?」
 ネミアディアはキドーの手を引いて走りだした。
「待て、待て、待て。一体なんだ、どうした」 
「スキンクを探しながら説明します!」
 事の顛末を語り終える頃にやっと、狭い路地の突き当りで男たちに囲まれるスキンクとゲロまみれ男を見つけた。
 すぐに状況を察したキド―が、お前は下がってろ、と腕を横に出してネミアディアを制する。
「オイオイオイ、多勢に無勢、穏やかじゃねえな」
「お呼びじゃねぇ、失せろ」
「アンタたちの事情は知らんし首をツッコむ気もサラサラねぇが、そこにいるハゲはうちの従業員なんだよ。ソイツを開放してくれりゃ、すぐに消える」
「悪いがそれは無理な話だ。こいつはナイフをオレたちコーザノストラトゥに向けた。そこのファルコーネの手下と一緒に死んでもらう」
 キドーは腰をかがめると、男たちの足の間から、路地の突き当りをじぃっと見た。
 薄暗くてはっきり分からないが、ゲロまみれ男の腕から血が流れ出ているようだ。十中八九、コーザノストラトゥと名乗った男たちがやったことではないだろう。
「おい、ネミアディア。あの酔っ払いの腕に凝ったタトゥーがあったか?」
「はい、ありました」
 なるほどな、とキド―が独りごちる。
 スキンクがコレクションにくわえんと凶行に及んだ瞬間、追いついた男たちに囲まれ、ついナイフを向けてしまったというところか。
 脱力しきったキドーがいう。
「誤解だ。ソイツはアンタたちにナイフを向けるつもりなんかなくて、たまたま……なんというか、その……」
「たまたま持っていたナイフをタイミングよく抜いてオレたちに向けたと? そんな話、誰が信じるか。もういい。面倒だ、まとめて始末する!」
 コーザノストラトゥの男たちが二手に分かれた。一方はスキンクと未だに酔いが醒めていない様子のゲロまみれ男、もう一方は出口を塞ぐキドーとネミアディアに襲い掛かる。
「面倒くせぇってのはコッチの台詞だ、まったく」
 飛びあがったキドーのこぶしが、ライフル銃の底で殴りかかろうとした男の顔面を強襲した。肉と骨がつぶれる不気味な音に、男の悲鳴が被る。
「続け、ネミアディア!」
 言われるまでもない。ネミアディアは乱闘のまっただなかに飛びこんでいった。


「社長、すみません」
 スキンクは、破れた服を気にしているキドーに深々と頭を下げた。
「まったく、どうすんだコレ。またマリアンヌに怒られるじゃねえかよ。てか、ネミアディアのお目付け役のオメェが騒ぎを起こしてどうする」
「彼はルンペルシュティルの清掃員として真面目に働いていました。少しなら目を離しても問題ないと思ったんです」
「1人でも真面目に働けた?」
 ネミアディアはキドーの疑惑に満ちた視線を無視して、スキンクの傷の手当を続けている。
「てか、問題はそこじゃねぇ!」
 コーザノストラトゥの男たちは憲兵に突きだした。
 ゲロまみれ男は洗浄のために海で泳がせている。フカのエサになる前に酔いが醒めれば、生きて島から出られるだろう。たぶん。
「ったく。会社でトラブルがあるわ、新調したばかりの服は破れるわ。ろくでもない日だぜ。おい、なにをしている。2人ともさっさと酒場に戻れ」
 スキンクとミネラルディアは黙って立ちあがり、肩を並べて酒場へ戻る。
「助けに来てくれてありがとうございます」
「別に。ぼくは当然のことをしたまでです。仮雇いとは言え、君とは同じ仕事仲間ですから」
 不貞腐れたように言ったエルフの横で、スキンクがふっと笑った

おまけSS『厄災来襲』


 アリアンヌ・バタンデールがノックもせずにいきなり部屋に入ってきた。
 ラゴルディアは帳簿から顔をあげて、軽くキドーの島を管理する執行官を睨みつける。
「客が来たよ」
「来たよ、じゃない。だいたいなんでここにいるんだ。キドーの島の仕事はどうした?」
「は? アタシがどこで何をしていようとアンタには関係ないだろ。それより客だ。さっさとそのデカい尻をあげな」
 胸と尻が豊満で魅力的なこのエルフは、どうしてこんなに口と態度が悪いのだろう?
 特別自分が嫌われている様子はないので特に問題にはしていないが、自分は派遣会社ルンペルシュティルツの経営コンサルタントだぞ。
 物申したい気持ちをぐっとこらえる。
 1秒、2秒、3秒……。
 なんとか笑顔を作った。
「手紙で社長に面会を申し込んでいた蹄鉄の客? たしかアルさんだったか」
「そうだよ」
「社長は?」
「アンタの弟にスキンクをつけて、フェデリア総督府の5番街に行ってる」
 そうだった。
 今日は異母兄弟おとうとの初仕事の日だった。
 当初は自分やキドーと一緒にローレットの仕事を受ける予定だったが、昨今の混沌情勢を鑑みて、ルンペルシュティルツの仕事をさせることになったのだ。
 混沌各国からさまざまな人が集まるここフェデリア島は、他種族への理解を深めるのにも適しているだろうというキドーの判断だった。
 ラゴルディアは普段、自分の領地から必要に応じてルンペルシュティルツ島に渡り、本社に顔を出しているのだが、今日はフェデリア事務所の帳簿を監査するという名目で、フェデリア島にやってきている。
 ……というのは表向きの名目で、本当はミネラルディアのことが心配だったからだ。
 まあスキンクが一緒なら大丈夫だろう。
「戻ってくるまで場を持たせておいて。アンタならできるだろ。アタシはお茶の準備をするから」
 ドア枠に肩を持たれつつ、腕を組んだアリアンヌが面倒くさそうにいう。
「おい、なんで貴様が私に命令を――」
 腰を浮かせたときには、アリアンヌの姿はとっくに消えていた。
 しかたなく身なりを整え、客が待つ社の応接間に向かうことにする。
 腐れゴブリンが興した派遣会社ルンペルシュティルツは、シレンツィオ・リゾートのフェデリア島を中心に人材派遣業を営む企業である。『清掃』や『軽作業』を名目にカジノや風俗店の用心棒を派遣するのが主な業務だ。仕事の内容が内容だけに、依頼をしてくる客の中には怪しげな者が結構いるので、ラゴルディアもキドーから請われれば商談の席につくこともあるが……。
「前情報がほとんどない。どんな客かもどんな依頼かもまったく分からないのに、社長抜きで話を進めるわけにはいかんしな。さて、どうしたものか」
 これについては社長のキドーもほとんど情報をもっていない。ただ一方的に大量の手紙を送りつけてこられ、面会を申し込まれただけらしい。
 自分の意を通すまで粘り続ける、しつこい人物ということだけが解っていた。
 何とかなるだろう、とさして事態を深く受け止めず、ラゴルディアは応接室のドアノブに手をかけた。


「お待たせいたしました――」
 振り返った白いディスコファッションの老人の顔を見て、ラゴルディアは固まった。
 この老人、エルフの里にも何度か怪しげな発明品を持って押しかけて来たことがある。
「ヨッ、ラゴルディアクン。久しぶりだネ! かれこれ数百年ぶりかナ」
 アルさんことRがサングラスを額にあげて、ニカッと笑う。
「き、貴様も混沌にきていたのか……」
「アレ? キドークンから聞いていない? まあいいや、早速だけどボクの発明品を見てくれないかナ」
「やかましい。なにも見せるな、何もするな。さっさと出ていけ!」
 Rが持ち込んだ発明品は大抵が試作品で、お披露目の場で何度暴走したことか。あやうく死者が出そうになったこともある。
 キドーもアルさんの正体がRだと解っていたなら、絶対に面会の約束などしなかったはずだ。即刻、叩きだすに限る。
「なにも見せるな、何もするなったって、見ないといくら投資するか決められないだろ」
「金貨はおろか銀貨1枚たりとも出すか!」
 トチ狂ってキドーが出資を決めたとしても、経営コンサルタントとして強権を発動してでも断固止めてみせる。
「まあまあ、ユー、そんなに熱くならないで。ちょっと見てみなヨ。それ、ポチっとな」
 ラゴルディアが制止する間もなく、Rはポケットから取り出した、携帯起爆スイッチによく似たボックスの赤いボタンを押した。

 どっかーん!!

「アラ?」
 派手な爆発音のあと、一瞬の静寂を挟んで事務所の中が騒然としだした。
 やれ、敵襲だ。やれ、武器を取れ、等々。物騒な怒号が飛び交う。ここで雇われているのは、もともと海賊上がりの、血の気が多いものが多い。中でも――。
「ナニやらかしやがった!!」
  鬼の形相のアリアンヌが応接室のドアを蹴飛ばして、駆けこんできた。
「おい、いくら何でも特定が早すぎるだろ」
 ラゴルディアが頭に落ちた埃を払いながら怒鳴る。
 爆発音で耳がまだよく聞こえないためだ。
 アリアンヌも怒鳴り返してきた。
「特定するも何も、このジジィが玄関に置いていった変な猫型ロボットが爆発したんだよ。事務所の玄関を負っ飛ばした犯人はこのジジィしか考えられないだろうが!!」
「は? 猫型ロボットだと」
「左様。腹の異次元ポケットから役に立つ道具を――」
「ストップ! それ以上の説明はよせ。怖い人たちから警告が来るぞ」
 そこへ五番街から戻ってきたキドーが文字通り飛び込んできた。
「なにがあった!? 客は無事か!?」
 ラゴルディアとアリアンヌが同時に応接間の奥へ親指を向ける。
「テメェは……Rじゃねぇか。さてはテメェだな、うちの事務所を壊したのは」
「ひどい決めつけダ。ボクのハートは傷ついたヨ」
「決めつけも何も、貴様の仕業だろうが!!」
 キドーとラゴルディアが同時にRに飛びかかる。
 年寄りのくせして意外と敏捷な動きを見せて、Rは2人の手を逃れた。ソファーを回り込んでドアに向かったが、そこには仁王立ちするマリアンヌがいる。
「逃がさないよ」
「あ、そう。じゃあ、ボクは窓から失礼するヨ」
 キドーたちが飛びかかる前に、Rはスーツの内ポケットから黒いマントを取り出して広げた。
「ボクの発明品、蝙蝠マントダ。これがあれば空をちょっとの間飛べるんダ。欲しかったら金貨1000枚で売るヨ」
 Rは黒いマントをひらりと纏うと、二階にある応接室の窓を開いて飛んだ。
 キドーとラゴルディアが急いで窓に駆け寄る。
「おい、あのバカを撃ちおとせ!」
 キドーに命じられたスタッフたちが、高笑いしながら飛んで行くRへ向けて一斉に弓や銃を撃つ。
「もう届かん。弾の無駄遣いだ、やめさせろ」
「チッ。Rの野郎、今度会ったらただじゃおかねぇ」


「あ、しまった」
 Rが転送魔法を得意とし、生を受けた世界から弾きだされ、自力で世界から世界へ渡り歩いていたことをキドーが思い出したのは、玄関の応急修理をすませ、ミネラルディアの仕事ぶりを確かめに酒場に戻る道の途中だった。
「……ま、いいか。当面というか、戻る気ねぇしな」
 俺もラゴルディアも、この混沌でてっぺんにのし上がるまでは。

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