静かな夏の日

登場人物一覧

　明煌が廻を連れてシレンツィオに出かけると言うから、随分と心配をしたけれど、どうやら体調も良さそうなのでそのまま送り出したのが昨日のことだ。
　二人が居ない煌浄殿は心なしか寂しい空気を纏う。主が居ないのだから無理もない。
　代理の自分ではその空気を覆す事も出来ないのだと、海晴は肩を竦める。
　ミアンと共に朝ご飯を作ってみれば、やはり作りすぎてしまうのだ。
「海晴、疲れてる？」
　首を傾げるミアンの隣には詩乃が同じように顔を出す。
「いや……大丈夫だ。作りすぎた分は、まあ眞哉が食べるやろ」
　育ち盛りである眞哉ならば、きっと平らげてしまうだろう。
　調子が出ないと頭を掻く海晴は、明煌と廻へ思い馳せる。

　口下手で人付き合いが苦手な従兄弟が廻には心を開いていた。
　最近では暁月と仲直りをして、更には友達と呼べる少女まで見つけたという。
　長年、明煌の面倒を見てきた海晴にとっては喜ばしいことであった。
　子供の巣立ちはこんな気分なのだろうか、と思わずには居られない。

　けれど、少しだけ。
　自分は何もしてやれなかったと一抹の悔しさが残った。
　蝉の鳴声が遠くで響く――『静かな』夏の日の溜息が、やけに大きく聞こえたのだ。