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冷たい石室の中で
冷たい石室の中で
登場人物一覧
夏の日差しが照りつける地上とは違い、燈堂家の地下は涼しかった。
紫桜は慣れた足取りで階段を下りる。封印の扉の向こう、奉られたる蛇神繰切に会うためだ。
「おう、紫桜久しいな」
「……繰切どうかな。去年は見せられなかったから着てきたんだ、浴衣」
昨年の夏は封印の扉から分体を出すことすら出来なかった繰切だが、今はその闇の力が強まり出てこられるようになった。
「ああ、似合っているぞ」
紫桜が身に纏うのは青みの強い紫色の浴衣だ。
浴衣といえば本来であれば袖が付いているものだが、紫桜の浴衣にはそれが無かった。
その代わりに薄く透けたレースを被っている。
「腰に巻いてある飾りは我のものに似ているな」
「あ……へへ。ちょっと似てるかなって」
「揃いというやつだな。愛い奴め」
口角を上げた繰切は紫桜の頭を撫でつける。
「我も貰った浴衣を着てみるか」
白と濃紫の片身替りの浴衣を一瞬の内に身に纏う繰切。
紫桜は何時もとは違った繰切の姿に目を細めた。胸の奥が何だかむず痒くなるのだ。
「お酒持って来たから一緒に飲もう」
「ああ、浴衣で飲む酒も悪く無いだろうからな」
薄暗い地下の石室であろうとも、繰切と飲み交わす酒は極上の味になるのだと紫桜は微笑んだ。