PandoraPartyProject

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花冠とお友達のプレゼント

登場人物一覧

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣


 夜の闇のような髪の上、色とりどりの小さな花が散りばめられた花冠を乗せられて、嬉しそうに笑う君に、僕は胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます……ううん、ありがとう、だね!」
 可愛らしい花のたくさんの花の中、両手に一杯に積んできた花束を抱えて綻ぶように笑みが溢れている。
 どきりと胸が波を打ったのは、その笑顔と照れたようにそれに顔を埋めるその姿。
「どういたしまして!」
 どこかこちらまで照れてしまいそうになりながら、はにかむように僕も笑みをこぼす。
 どうしてこんなところにいるのか、それは数日前まで遡る。


 その日、セシルが天義にある兵舎に訪れたのは全くの偶然だった。
 泊まり掛けで出仕していた父親に荷物を持っていって欲しいと母にお願いさせた程度の、ほんの些細な用事。
 ざぁ、と降る雨の音が聞こえる中、用事を終わらせたついでに少しだけで顔が見れたりしないかな……ぐらいの気持ちだった。
「フラヴィア」
 閉め切られなかったのだろう扉を挟んだ向こう側から、声だけでも覇気のある武人のそれと伝わる声がする。
「セヴェリン卿? どうかなされたんですか?」
「そう緊張しなくても構わないよ。ほら、近々、君の本当の誕生日だろう」
 そのセリフに驚いたのはセシルだけではなさそうだ。ドアの向こうで誕生日の本人が驚いた声がしていた。
「……フラヴィアちゃんの誕生日?」
 ぽつりと呟いてから、セシルは改めてドアを叩いて入室の許可を求めれば。
「セシルさん!」
 再び目を瞠るフラヴィアがちらりと隣の偉丈夫を見やる。
「座学もいいが、友と遊ぶのも勉学だ」
 そう語った偉丈夫が頷けば、フラヴィアがほっと胸を撫で下ろす。
「では、私は少しばかり席を外しておこう」
 偉丈夫はそれだけ言って2人を置いて部屋を後にする。
「フラヴィアちゃん、何か勉強してたの?」
 机の上に広げられた教材らしき物には難しそうな内容が並んでいる。
「うん……まだ知らないことが多いので」
 そう言ったフラヴィアがそっと席から立ち上がる。
「そっか! フラヴィアちゃんはすごいです!」
 セシルの言葉に不思議そうに首をかしげるフラヴィアへと笑いかけてから、セシルは少し深く呼吸をする。
「僕がここに入る前、扉が開いてて聞こえたんだけど、フラヴィアちゃんは……もうすぐ誕生日なんですか?」
「聞こえちゃってました? 実は……」
 そう言ってフラヴィアは頷いた。
「本当はもうすぐ誕生日なんです。7月の……」
 そう言うと、フラヴィアは少しだけ緊張したように笑う。
 セシルはその様子に少しだけ引っかかるものを感じ、首をかしげた。
「あっ、いや。何でもないです!」
 そう緩やかに笑ったフラヴィアは話題を変えるようにセシルの誕生日も聞いてきた。
「11月15日だよ」
「それなら、その日はちゃんとお祝いしないと、ですね?」
 頬を綻ばせて、フラヴィアが楽しそうに笑う。
「それじゃあ、愉しみにしてるね――って、そうじゃなくて! 今はフラヴィアちゃんのお誕生日ですよ!
 そうだ、僕、綺麗な花が咲くところを知ってるんです。せっかくだからちょっとお出かけしませんか?」
 笑みをこぼすフラヴィアが立ち上がったセシルへと驚いたように顔を向ける。
 そのままちらりと時計を見て――手を取ってくれる。
「一応、セヴェリン卿に言ってからでもいいですか?」
「もちろんです!」
 2人は立ち上がり、外へ向けて歩き出す。
 日付を改めて2人が花畑に足を運んだのは、7月の10日ごろだ。


 花畑の中にシートを敷いてぺたりと座り込んだフラヴィアは普段の黒騎士衣装とは違う。
 とても可愛らしいワンピース姿。
「普段は凛々しい感じだけど、私服を着てると可愛いです、ね」
 子供心に褒めてあげようとしたセシルも、やっぱり気恥ずかしくて少しばかり声を呑む。
「ふふ、ありがとうございます。セシルさんも、素敵なお洋服ですね」
 笑みをこぼす少女にセシルは少しだけ心臓の音が高鳴るのを感じながら、お礼を返せば。
「……ところで、今日はどうしてここに連れてきてくれたんですか?」
「フラヴィアちゃんのお誕生日だから……プレゼントしたいものがあって……」
 きょとんとするフラヴィアを見ながら、セシルはプレゼント用の花冠の制作に取り掛かっていく。
「フラヴィアちゃんは、普段どんなことをしてるんですか?」
 手持ち無沙汰になりそうなフラヴィアへと問いかけてみれば、フラヴィアは不思議そうに首を傾げ。
「えっと、何が好きなのかな……とか」
「お花は好きですよ。後は、アドラステイアにいた頃は、旅が好きでした。
 私達の部隊はアドラステイアにいることの方が珍しくて、殆どずっと、各地を渡ってました。
 だから、そういう旅の中で沢山の物を見るのは、好きでした」
 微笑みながら、フラヴィアが言う。
(……アドラステイア)
 セシルは出てきた単語に少しだけ手を止めた。
(フラヴィアちゃんが、かつていた場所)
 子供達を捨て駒のように使って、未来ある子供達からそれを奪っていた場所。
 セシルは目の前で笑っている女の子がそんな場所に居た子であると知っている。
(……僕が、守らないと)
「セシルさん?」
 不思議そうに首をかしげるフラヴィアへ、セシルは「他には?」と笑ってみせる。
「他には……そうですね。あんまり可愛くないけど、勉強とか、訓練とかも好きです。
 私なんかでも、前に向いて歩いていけるって実感できるから」
 微笑むフラヴィアはどこか遠い目をしているようにも見えた。
「フラヴィアちゃん、昨日の晩御飯はなんだったの?」
 何となく空を見て日差しの傾きを見やり、セシルは話を切り替えるためにもそう問いかけた。
「昨日ですか? えっと……セヴェリンさんが誕生日当日は難しいだろうからって、食事に連れて行ってくれました。
 お魚とエビとホタテを入れたムニエルがとても美味しかったです」
 振り返りながら語るフラヴィアから、その時くるるると可愛らしい音が鳴る。
 驚いたように目を瞠るフラヴィアが少しだけ頬を赤めているのが見えて、セシルは笑みをこぼす。
「先にお昼ご飯にしよう……家から持ってきたんだ」
「そうですね…とても美味しそうです」
 サンドイッチの詰まったバケットを取り出して言えば、少女が年相応に目を輝かせる。
 それに少しだけ嬉しくなりながら、セシルはそっと籠を2人の前に置いた。
「……美味しい」
 一口分を食べたフラヴィアが目を瞠り、そのままぱくぱくと食べ進んでいく。
「これはセシルさんのお母さんが?」
 首を傾げたフラヴィアに頷きセシルも食べてみれば、食べなれた味が口の中に広がっていく。
「これがお母さんの味……」
 ぽつりと呟いた少女はどこか懐かしそうに言う。
「懐かしいなぁ……」
 そう呟く少女の声はどこか嬉しそうだ。
「……ベルナデッタさんにも、作ってもらってたんですか?」
「うん、お母さんも作ってくれました。家庭料理より、夜戦料理? の方が上手でした」
 懐かしそうに笑って答えたフラヴィアに、セシルは気になっていることを聞いても良いのか、と思いつつあった。
「……ご両親のこととか、聞いてもいいですか?」
 自分が緊張しているのが、声に震えに出ているのが解る。
 フラヴィアの両親が死んでいること、そして『遂行者』と呼ばれる者達の1人がフラヴィアの母親の身体をした『致命者』を部下のように扱っていることは解っている。
 フラヴィア自身、死んだはずの両親と遭遇したことがあるらしいことも知っている。
「もちろん。今も、あの人達は私の憧れなんです。
 誰かを守るために剣を振るえるように、自分を守るために剣を振るえるように。
 常にそう私に言い聞かせてくれました」
 フラヴィアは嘗てを思い出すように笑い、そしてどこかで切なそうに目を伏せた。
「もちろん、お祝いをしてくれる人がいることは嬉しい。
 今こうしてセシルさんと一緒に遊べているのも、嬉しいです。
 でも、やっぱりどこかで私にとっての誕生日は、両親の命日とほぼ同じだから……って思う気持ちがあるのも、嘘じゃないんです」
 そう呟いた。
 冠位強欲と呼ばれる大戦をセシルもうろ覚えながらに覚えている。
 あの頃はフラヴィアと同じようにただの一天義国民だったイレギュラーズではなかった
 すぐ傍まで近づく実感ある死を覚えている。
 その大戦の中で両親が戦死したというフラヴィアは即ち誕生日が両親の命日にも等しい。
「――なんて、嘘じゃないですけど、もうそこまで気にはしてないんですけどね?」
 小さく笑うフラヴィアは本当に気にしてないようにも見える。
(……力になりたいな)
 その様子に思わずセシルは手を握り締めた。
(もっと仲良くなりたいし、まもりたい……)
 花冠を作る手に力が入る。
「あっ、そうだ! 私も花冠、作っていいですか?」
 そう首をかしげてせっせと花を摘まみに行こうと立ち上がるフラヴィアの手を引いた。
「……フラヴィアちゃん」
 立ち上がった少女が不思議そうにセシルを見下ろしている。
「僕とお友達になってほしいです」
 少しでも力になりたいから、仲良くなりたいから。
 そう、見上げて言葉にすれば、驚いたように目を瞠ったフラヴィアが、次いで不思議そうに目を瞬かせた。
「――もうお友達でしょう?」
 ひとしきり不思議そうなリアクションをしたフラヴィアが、首を傾げる。
 今度は目を瞠ったのはセシルの方だった。
「あっ、でもお友達に敬語っておかしい……ですよね。
 それじゃあ、あの……ため口でもいいです……いいかな?」
 視線を合わせるように膝を着いたフラヴィアにセシルは頷いて。
「も、もちろん! 僕もため口でいいです……いいよね」
「うん、これからも仲良くしてね」
 笑うフラヴィアの手を逆に取り、セシルは立ち上がる。
「それなら、花冠におすすめの花がこっちにあるんだ」
 セシルはフラヴィアを連れて花畑の中を歩いていく。
 目を瞠って驚いたり、首をかしげながら、楽しそうに笑って花を摘むフラヴィアを見ながら、セシルはこっそりと別の物を作っていく。
(……これをプレゼントしたら喜んでくれるかな?)
 視線を映したのは、サンドイッチとは別にこっそり持ってきていたバケットの中身。


 手渡したプレゼント、綺麗な花束はハーデンベルギア。
 時期からは随分と遅くなってしまったが、お礼の為に事前に花屋にお願いしてもらったものだ。
 綻ぶ笑みに喜んでいると、フラヴィアが顔を上げて、「あっ」と呟いた。
「セシル君にも、プレゼントをあげる」
 立ち上がったフラヴィアがそのまま作られたばかりの花冠をセシルの頭に乗せる。
「お揃いだね?」
 楽しそうに、リラックスした様子で笑うフラヴィアに、セシルは少しだけ照れくさくなった。


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