PandoraPartyProject

SS詳細

暗く、そして晴れやかな

登場人物一覧

ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん
ヴィルメイズ・サズ・ブロートの関係者
→ イラスト

 閻・陽明(えん・ようめい)。そう呼ばれる女が産声をあげたのは……どれくらい昔であっただろうか。
 亜竜集落ウェスタ。その性質ゆえに水の気の強い者が集まるが、同時に色々と七面倒くさい事情を抱えた者が集まりやすいのは……まあ、流石にこれは偶然だろうけれども。
 そのウェスタの旧家、閻(えん)家にて陽明が産声をあげた日。その日は、不思議なほどに霧の出る日であったという。
「おお、恐ろしい……」
「なんという。まさかの四本角とは」
「四本角が生まれれば間引く決まり。しかし奥方様が産気づいたことはすでに方々に知られている」
「殺せばすぐに露見しよう。しかし間引かぬわけにもいかぬ」
 閻(えん)家は死魂を死の国に送る呪術舞踊を生業とする家柄である。
 しかしながら旧家であるが故か、薄暗い事情の類も存在していた。
 それが「四本角」の逸話である。
 閻家には四本角の子が家系に生まれたら生者の魂さえ死の国に送ってしまう、という古くからの言い伝えがあった。
 そして生まれた場合はすぐに忌み子として間引く決まりがあったという。
 かつて祖先にそのような者がいて、人々に恐れられたと伝えられていたのだ。
 だが、今時は「殺したい」「はい殺しました」が通じる時代ではない。
 特に閻家はその性質ゆえに、かなり厳しい監視の目もあった。それをかいくぐるのは少しばかり、面倒だ。面倒だが……だから間引かない、という選択は閻家にはない。
 だからこそ閻家は、一人の侍女に赤子誘拐の罪をかぶせることにした。
 後々家族も含め充分報いると言い含めた上で、地上の、かのピュニシオンの森へと向かわせたのだ。
 帰らずの森とも呼ばれる場所に消えた閻家の忌み子とそれを誘拐した……ことになっている侍女。
 そうして全ては闇に葬られた……はず、だった。
 しかし、ここでの閻家の誤算は、侍女がさほど閻家を信頼していなかったことだろう。
 閻・陽明。そう名付けた赤子の名と、経緯を記した書面を侍女は赤子を包む布に忍ばせていた。
「どうせ私は死ぬ。あの閻家が約束を守るはずがない。ならば、このことを武器にするしかない……!」
 ひとまずは閻家の手の届かない場所へ。そう考えながら侍女は走り……そして亜竜に襲われアッサリと死んだ。
 そうして投げ出された赤子を亜竜が続けて殺そうとした、その時。亜竜の首が、切られて宙を舞う。
「フン、何かと思えば虫の赤子か。くだらん」
 その金髪の男は亜竜種にも見えたが、亜竜種が見れば脅えと共に「違う」と叫んだだろう。
 それほどまでに男はその身から溢れる力を隠してはいなかった。
「さて、放っておくのは簡単だが……」
 男が思い出すのは、少しばかり知っている「とある男」のことだ。
 もしこの場にあの男がいれば拾って帰るかもしれないと、そんなことを思ったのだ。
「ふむ……まあ、持って帰ってみるか。興味を示すモノもいるかもしれん」
 そう決めると、男は翼を広げ空へと飛び立っていく。
 行先は、ヘスペリデス。男の名はオズバーン、といった。まあ、文字通り「拾っただけ」に近いオズバーンのことを、陽明は間違っても父などとは思ってはいない。
 それから、相当の年月が経って。力を得た陽明は様々なものを見た。
 同じように捨てられた四本角の死骸、逃げ延び生き延びた者の、殺された四本角。
 それが閻家の仕業であることはすでに陽明は侍女の手紙で知っていた。
 多くの竜種たちと同じように、愛というものをあざ笑っていた。
 魔種になったのは、ヘスペリデスを作ったという男に会ってからしばらくのことだろうか。
 どうしようもないくらいに簡単に「反転」した陽明は「ああ、やはりな」という感想しかもたなかった。そのくらいに、陽明の人間性というものは魔種寄りだったのだ。
 そうして魔種になってみれば、陽明は「とある踊り」を天啓のようにひらめくに至った。
「……こう、じゃな」
 ヘスペリデスにてその踊りを踊っていた陽明に、たまたま昼寝に来ていたオズバーンが口を開く。
「随分と妙な踊りだ。虫くらいから殺せるだろうな」
「虫……ああ、人間か」
「ああ。お前の生まれた巣穴もお前を捨てた結果伝承通りのものを生み出したんだ。さぞ満足だろう」
 生者を死へ至らしめる邪術舞踊。それは確かに自分を連れていた侍女の手紙の通りのものだった。
 閻家。自分の生家だというその家については、陽明は薄暗い感情を抱いている。
 だが長年生きていく間で、陽明は「愛」というものをついに理解できなかった。
 同時に、その愛を反転させた「怨」についても理解できなかったのだ。
 あるのはただただ、激しい怒り。自分がこんな生き物に生まれついてしまったが故の、同様の現象に対する激しい怒りの感情だ。
 だから、だろうか? その日、ヘスペリデスで出会った「生きている四本角」の『竜は視た』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)に陽明はなんとも言い難いものを感じた。
「そこの。名前は?」
「私ですか? ヴィルメイズ・サズ・ブロートと申します」
「くくっ、なるほどのう。お主もまた我のあったかもしれぬ姿か。となればまあ、うむ。もう良い」
 ヴィルメイズ。そう名乗っているということは、やはり閻家は何一つとして変わっていない。
 変わらず四本角が生まれれば捨てているのだろう。
 しかし、しかしだ。このヴィルメイズとかいう四本角はどうにも「愛を知っている」顔をしている。
 どういう経緯でかは分からないが、それをたっぷりと与えられる環境で育ったのだろう。
 それが羨ましいかどうかは、陽明には分からない。
 陽明はいつでも閻家を滅ぼせるだけの力を手に入れたし、ヴィルメイズは恐らくそこまでの力は持っていない。
 ならば、いつでも復讐を果たせる陽明のほうが上と考えることもできるからだ。
 そう考えてみると……陽明としては、女神の欠片を探しているとかいう人間については「どうでもいい」以外の感情は浮かんでこなかった。
 何故? そう、何故ならば。こんな場所で、もう1つの自分の可能性を見ることができたのだ。
 その上で、自分のほうが良いという確信を得た。
 こんな素晴らしい日は、何処かで踊るに限る。
 ああ、ああ。素晴らしきかな。自分は恵まれている。この恵まれた力で、なんでも出来る。
 やはり自分はこうあるべきだったのだ。
 そう考え、陽明は踊る。踊る、踊る。
 その先にあるものが何かは……今は陽明にも分からない。
 だが、ひどく晴れやかな気分であった。

PAGETOPPAGEBOTTOM