PandoraPartyProject

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しあわせのありか

鷹親子の正月

登場人物一覧

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
カイト・シャルラハの関係者
→ イラスト
カイト・シャルラハの関係者
→ イラスト

●はじめに
 これはとある海洋王国の新年の一幕を映したものである。
 しかしながら、海洋王国の新年がすべてこのような一日から始まるわけではないことを理解していただきたい。
 というかこれはレアケースだと思う。

 あ、そうだ、中継先と繋がっています。
 現場のジェンナさーん?
 って、え? 取材のオファー忘れた?
 そんなぁ困るよーーーー!!!

●鷹の羽根つき
 皆、明けましておめでとうございます。
 私はジェンナ。カイトの母よ。
 今日は私が新年のシャルラハ家の様子を、少しだけお伝えするわ。
 普段は天気予報の“お姉さん”って言われたりするんだけど、これじゃあニュースキャスターみたいね。少しわくわくしちゃうけれど!
 そもそも、一富士二鷹三茄子っていうくらいなんだもの、鷹はめでたいことの象徴なのよね。
 私はシロフクロウだけれど、カイトや夫は鷹なの。それも、真紅の!
 ふふ、今年も素敵な一年になりそうね。

「お袋! そっちで何やってんだ?
 親父と俺の羽根つきバトル、審判頼みたいんだけど!」

 あら、庭にいるカイトが呼んでいるわ。
 あの子ったら、新年も元気みたいね。ふふふ、流石自慢の息子だわ。
 私も折角素敵な着物を選んで着付けたんだもの、いってみましょうか。

「あらあら、ちょっと待っていて頂戴ね」


「ジェンナ。練達では羽根つきというものがあるみたいでな。
 折角カイトが土産に持ってきてくれたから、見ていてはくれないだろうか」

 ……大好きなあなたにそんなことを言われたら、断れるわけがないわ!
 白い着物だし、汚すわけにもいかないから丁度いいもの。

「ふふふ、わかったわ」
「あと、これも!」

 そう言って私の手に渡されたのは……墨汁?
 何に使うのかしら、そう思って首を傾げていたの。すると、カイトが得意げに胸を張って教えてくれたわ。

「負けたらこれで顔に絵を描くんだ!
 ぐるぐるとか、バッテンとか、なんでもいいみたいだ!」

 ペットボトルいっぱいに入った墨汁が怪し気に煌めいて、思わず苦笑してしまった私。
 もしもあの人が負けたら、私が罰ゲームをしちゃうのかしら? ふふ、それはそれで面白そうね。

「……ジェンナ、もしかして」
「私はあなたもカイトも大好きですから、平等に応援しますよ」
「……うむ」

 ならばいいのだが。あの人は少し不満げに呟いていたけれど、大好きな夫と大好きな息子、どちらかを選べだなんてできる筈もないわよね。困っちゃうわ。
 でも、これが幸せなら、ずっと続いていたらいいのに。
 愛しいカイト、あなた。頑張ってね。

「それじゃあやるぞ、親父!」
「うむ。かかってこい!」

 シャルラハ家の羽根つき大会、開始よ!

●一戦目 若き鷹のターン
「先行はどっちからにする?」
「ならば、カイトからで構わん」

 二人の手に握られた羽子板に描かれた絵は、私が描いたのよ!
 ふふ、どちらにも幸運が訪れるように占ってから描いたの。うまく描けて嬉しいわ。

「なら遠慮なく! いくぜ、親父!!」

 カイトが遠慮なく空に向かって羽根を投げてから、

「カイトスマーーーーッシュ!」

 カキィン!

 あらあら、これじゃあ野球みたいね。
 カイトも特異運命座標イレギュラーズになってますます強くなったみたい。ほら、あんなに威力が上がっているんだもの。嬉しいわ。

「!? フッ、侮っていたが手を抜くのもこれでは失礼というものか。
 ならば俺も全力で戦おう、カイト!!」

 カコォン!

 木の板、凄く頑丈ね。凄い音がしているんだけど大丈夫かしら?
 けど私が描いた面を傷つけないように裏面で戦ってくれているの。ふふふ、嬉しい。

 カコン!
 バコン!
 キィン!

 あらあら、凄い音ね。ラリーというよりかはホームラン合戦みたい。
 そろそろ目で追うのもしんどくなってきたわ。

「お袋の前でかっこ悪いところ見せたくねぇから、そろそろ決めさせてもらうぜ、親父!」

「それは俺も同じだ、カイト! かかってこい、受け止めてやるわ!」

 シュウウン!

 この音、CMのカーレースみたい、と思ったのは私だけかしら?
 カイトったら、大きく飛び上がって。それから、

「カイトスマッシュ改!」

 得意げに言うんだもの。
 地面に埋まった羽根からは白い煙が出ているんだもの、あらあら、凄い対決が始まる予感だわ。

「……クッ」
「はっはー! お袋、親父の顔に罰ゲームを頼むぜ!」

 喜々として近づいてくるカイトと、項垂れるあの人。
 ふふふ、負けちゃったのが悔しかったのかしら。あの人は負けず嫌いだけど、カイトもあの人の血を受け継いでいるものね。
 母親としても妻としても、この試合はわくわくな予感がするわ!

「それじゃああなた、こちらへ」
「……はぁ。敗者になったのだ、何も言うまい」

 渋々といった様子で近付いてきたあなたは、拗ねた子供みたい。いつかのデートを思い出してしまったわ。

「それじゃあ罰ゲームね。あなた、少ししゃがんでくれる?」
「……」
「……あなた?」
「……」
「あ・な・た!」

 少し頬を膨らませた私が、大きな声で呼んだの。まったくもう、あなたったらいつもなんだから。
 悔しいときに真剣に戦略を考えるのは良いんだけど、デートのときもそうだったわよね。
 何年たっても変わらないんだから。
 ともかく。
 渋々しゃがんだあなたのおでこに、ぐるぐるぐる。
 じゃじゃーん、渦巻き模様を!

「ふふ、次は頑張ってね、あなた?」
「……ああ。もう負けんさ」

 そう言ってあなたは私の頭を撫でたの。あぁもう、ほんと、大好きだわ。

「お袋、俺の応援も頼むぜー?」
「ふふふ、勿論よ。カイトも頑張ってね!」
「おう!」
 
 次はあなたに勝ってもらいたいけれどどうなるかしら。

「あぁ、そうだ、カイト。
 飛行もありなのか? 俺は詳しくないのでわからないんだが」
「そりゃありだろ! 俺たち飛行種なんだしさ、飛ばないと勿体ないじゃん!」

 ふふふ、空を飛ぶのは気持ちいいものね。納得だわ。


●二・三戦目 隻眼の鷹のターン
 さて、息つく間もなく二戦目よ。
 私はお茶を用意してまったり。二人は元気いっぱいね。

「それでは次は俺から行こう。行くぞ!」
「おう、かかってこい!」

 ビュン。

 風を斬る音がひとつ。

「!? み、見えねえ……」
「羽根つきといえど、もう負けるわけにはいかんのでな。
 ここからは本気で行くぞ、カイト!」

 地面に突き刺さった羽根は土を抉っているの。まぁ、怖い。
 あの人はパワータイプだから、力任せに打つとそれなりにスピードもでるみたいね。
 誇らしい夫だけど、少し手加減というものを覚えるべきなのかも。

「カイトも罰ゲーム、だな。ふっふっふ」
「んがー、悔しい! あとで受けるから、今は羽根つきやろーぜ!
 もっと親父と戦いてえ!」
「なら構わんさ。俺も血が騒いで仕方ない」
「よっしゃぁいくぜ、親父!!」

 びゅーんと空高くまで飛ぶ二人。あらあら、お日さまのせいで真っ黒にしか見えないわ。

「二人とも、あんまり高く飛びすぎちゃダメだめよー!」
「大丈夫! 俺も 特異運命座標イレギュラーズになって強くなったんだ!」
「ジェンナ、そこで俺の勇姿を見ていてくれ」

 あらあら、二人に声は届かないみたい。
 楽しそうだから構わないけれど!

「うおりゃぁぁぁっ!!」
 カキィン!
「ハァッ!!」
 パコォン!
「せぇぇぇぇぃっ!!」
 シュゥゥッ
「フンヌゥッ!!」
 カーーン!

 気合いの入った声に続くように、色んな効果音が響いているわ。
 二人とも、着物が乱れるのも気にしないで戦うんだもの。ご近所さんの目を気にしてほしいものだわ?

特異運命座標イレギュラーズのカイトさんじゃん!? 羽根つきでもすげーんだなぁ」
「! ヘヘッ」

 自分を褒める声に気が緩んだカイトは思わず隙ができてしまったの。
 だから。

「カイト、戦場で気を緩めることのないように」

 シュゥゥッッ。

 弾丸にすら思える高速スマッシュが決まったの。あなた、大人げないわ。

「ガガーン!?」
「ふっ、まだまだだな」

 カイトは罰ゲームを受けに地上へ戻ってきたの。

「お袋、俺にも罰ゲーム……」
「ふふ、見ていたもの。次は頑張ってね?」

 左目のところに丸と、おでこにバッテン。
 カイトは悔しそうに地団駄を踏んで、あの人のところへ飛んでいったわ。
 あらあら、しばらく続きそうね。
 でも二人とも休憩が足りていないと思うの。

「二人とも、ご飯にしない?」

 お腹が減ったら、戦はできぬって言うもの!
 二人とも勢いよく急降下してくるから、ついつい笑っちゃったわ!

●家族のかたち、愛のかたち
「お袋のお雑煮じゃないと満足できねえんだよなぁ」
「同感だ。あったかくて、美味い」
「ふふふ、それならよかったわ」

 シャルラハ家の家族のかたち。

 ただの漁師──否、その正体は海洋王国の精鋭部隊『レッドコート』が長、“コールドストリームガーズ”。
 冒険者時代は赫嵐とも恐れられたクマタカの父、ファクル。

 航海の祈り手、白夜占としても名を馳せる占星術師。
 ヒーラーとしての腕前でも有名なシロフクロウの母、ジェンナ。

 そしてその二人が愛し合い産まれた彼らの愛の結晶、愛しい最愛の子。
  特異運命座標イレギュラーズのカイト。

 三者三姿、各々違う側面を持つ彼ら。
 そんな彼らが一堂に集い、同じご飯を食べられるのは新年くらいのものだ。
 海洋王国は絶賛大荒れ中。
 絶望の青へと進撃しようとしている最中でもあった。
 だから。

「────カイト。海はすべてを喰らう。
 飲まれるなよ」

 父親の激励。

「あらあなた、カイトなら大丈夫よ。
 だって私と、あなたの子なんですもの。
 海にも星にも愛されているわ。だから、きっと大丈夫」

 母親の愛情。

 二人の愛を受け、育った愛しい子カイト

「あぁ、きっと大丈夫だ!
 たまに怪我しちゃうけど、俺だってもう二年も特異運命座標イレギュラーズやってるんだ。
 そう簡単に飲まれるわけにはいかねえもん」
「……そうか。なら安心だな」
「ふふ、でしょう?」

 熱ィ! と餅を食べつつ言うその姿に締まりはなかったものの、我が子らしさに安心する二人であった。
 そしてつかのまの静寂。お雑煮を食べる音だけが響く。
 耐えきれなくなったのか、或いは。
 ファクルは口を開いた。

「ここはお前の帰る場所だ。どんなことがあっても、俺たちはお前を愛している。
 いつでも帰ってこい」
「あらあら、あなたったら。
 でもカイト、私も、お父さんもそう思っているの。
 だから、元気な姿をたまには見せにきて頂戴ね?」

 あと、彼女さんもね。
 ふふふ、と悪気のない笑顔を見せるジェンナとは反対に、驚いた顔で見つめるファクル。
 うっかり器を落としそうになるカイト。
 こんな日々は、いつまでも続くものではないと知っている、だから。

 どうか我が子に、海と星の加護があらんことを。

●いつまでも
 ご飯も食べて元気チャージが済んだ二人は、それから白熱した戦いっぷりを見せてくれたわ。
 お庭にたっくさん抉られたみたいな跡が付いたのは少し困っちゃうけれど、二人が楽しそうだったからそれもよし、だわ。

「は~~~、やっぱ親父には敵わねえな!」
「まだ俺も動けるってことだ。次も負けるつもりはないけどな」

 ぽんぽん、とカイトの頭を撫でるあの人は少し嬉しそう。
 あなたはカイトの活躍を聞くと、少し複雑そうだったものね。
 この子が元気に動けるのが嬉しいのね。
 もちろん、私もとっても嬉しいのだけど!

「二人とも、お疲れ様。今日はたくさん遊んだわね」
「お袋も手伝ってくれてありがとうな!俺の顔は真っ黒だけど……」
「俺も顔にうずまきがあるのは少し恥ずかしいな」
「親父は俺よりマシだろ、ひとつなんだから!」

 ギャァギャァと言い争う二人。だけど楽しげなのはきっと、こんな日も悪くないって思っているからなのかしら。

「空も夕焼けに近付いてきたし、晩御飯の支度をしなくっちゃ。
 カイト、お風呂を沸かしてきてくれる?」
「わかったぜ!」
「あなたはお庭の手入れを」
「えっ」
「お願いできますか?」
「……うむ」

 あぁ、この幸せの色をした日々が。
 どうかいつまでも、末永く続きますように。

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