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或る計画報告書

登場人物一覧

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠


提出日:××年××月××日
宛 ルイス=フェドー
主題:"器"の顕現に向けた計画の最終確認

 ××年10月31日は、我々にとって一個の転機を齎した日であることは皆の知るところであろう。
 我々、『渡り鳥』には"器"と言う名の秘された伝承が存在する。
 一族の中に在りて生まれたその存在は、伝承では比類なき白の象徴であると同時に、神の如き力を有しつつ一族に莫大な恩寵を齎す者として知られている。

 一方で、これは強大な厄災と共に生れ落ちることも伝承に在る。
 今現在こそ平穏を保っている我々『渡り鳥』が、しかしこれから先どのような未来を迎えるかは観測しがたい。
 ともすれば、伝承に在る厄災の側が"器"より先に顕現、乃至襲来する恐れがある以上、我々は"器"の人為的な創出を目的として行動すべきだと言う結論に達した。これが今回の顛末である。

 "器"の候補として挙げられるのは、先述した年月日に生まれた白い翼の小児である。(人物詳細は付属資料を参考されたし)
 同年代の子供達に比べても知能や精神年齢の発達は遅れており、身体能力も高くは無いものの、此方で観測した限りの内在魔力に関しては一族の術師と比べても明らかに一線を画している。
 先んじて、遅れている知性を利用して認識の擦り込みを行い、その後に適正な教育を施していく。具体的なプランについては先日送付した報告書の通りである。
 計画は一週間後の××日に開始する。各員の責務が果たされることを期待する。

送付者:(黒く塗りつぶされている)




提出日:××年××月××日
宛 (黒く塗りつぶされている)
主題:計画の進捗について

 計画が始動して一か月が経過する。最初に要旨を説明すれば、計画の進捗は現在までにおいて順調と言えるだろう。
 ジョアン・シルヴェスタが主導し、"器"候補と共に行っていた周囲の子供達との交流(通称「歌遊び」)から当人を隔離し、また周囲の子供達に関してはその保護者からの言いつけによって接触を断った。
 こうして孤立したところで、当人には躾――要は自己認識の変革を促す。その内容は"器"としての正しい在り方として、自我の封印と他者への奉仕精神、翻って言えば「自己犠牲」の精神の植え付けだ。

 既に伝承の内容を皆は理解していることだろうが、"器"と厄災の性質は凡そ対極にあると推定できる。
 このことから、"器"は厄災に対抗するための存在として活かすことが第一に優先すべきであり、であるならば"器"は厄災への対抗を「良し」と出来る精神状態に形成していかなければならない。
『渡り鳥』のための存在として、その身を犠牲に出来るよう。最上の結果は此方の指示に完璧に従う道具(ツール)としての在り方だが、最低限でも此方に反抗、または疑念を抱くことが無いよう調整していきたい。
 とは言え、育成……躾は未だ開始したばかりの段階である。
 精神状態の完成を流行り、"器"候補が瑕疵を負うことが無いよう注意されたし。

送付者:(黒く塗りつぶされている)




提出日:××年××月××日
宛 メルヒオール=フロイント
主題:計画の修正について

 計画の進行が性急すぎると感じている。少なくとも彼の少年に対し、孤立と自我の抹消を促すような方針は停止、若しくは最低でも一時保留とすべきだ。
 計画の立案時、個人の犠牲を基として一族全体を救うためのそれに私は反対の意を示したが、現状行われている「これ」に対する反対意見はそれとは方向性が異なる。
 今現在、彼の少年に対する躾……教育方針は、一般的な過程で言うところの虐待、否凌辱と言っても過言ではない。
 言動や自己意志の発露の一切を封じ、ただ指示に従うことを良しとする彼らの方針は、ともすれば少年に『従順』ではなく『反抗』の意思を植え付ける可能性もある。
 強大な魔力量を持つ彼が後者の意思を以て我々に相対した場合、其処に生まれるのは"器"ではなく厄災の側であることは想像に難くない。
 計画については最終的に凍結し、少年と一族内での強固な関係を構築しながらその魔力量を活かす術を模索していくことが、"器"としての彼が形成されるに最も効率的な方法ではないだろうか。
 これに関しては、後々ジョアン=シルヴェスタとも連携して進めていきたいと考えている。

送付者:ルイス=フェドー




提出日:××年××月××日
宛 ルイス=フェドー
主題:計画の修正について

 内容を確認いたしました。計画の修正についてですが、現時点では私からは何とも言えません。
 計画を主導している派閥(以下、「主導派」と仮称します)が定義した"器"の適正率は、彼らの基準では遅々としながらも上昇の一途を辿っています。この適正率が何処まで信憑性を持っているかは兎も角として、実際計画が開始されるまでと開始されて以降の魔力量の伸びは後者の方が確実に高いのです。
 このペースで行けば、彼が××歳を迎えるころには正しく伝承に在る「神に等しい」力を有した存在と成るでしょう。
 ですがそれと同時に、貴殿が懸念される精神状態についても大いに理解できます。
 先に記しました膨大な魔力が一族に向けられた場合、彼我の純粋な実力差に於いて我々が抗する術はほぼ無いと言って過言ではありません。
 彼個人に大なり小なり、何らかの変化が起きるまで、現状は経過観察に留めるべきだと言うのが私の意見です。

送付者:メルヒオール=フロイント




提出日:××年××月××日
宛 ルイス=フェドー
主題:計画進行の妨害に対する抗議

 先日、"器"候補に貴方様の息子が接触したことにより、"器"の適正率が少なからず低下したことは我々の記憶にも新しい。
 "器"はその存在を一族の為に消費されるべき存在であり、生まれついで手にしたその強大な力を当人の意思のみで扱うことなど決してあってはならない。これは"器"候補に与えられた責務だと言っても良い。
 ルイス=フェドー。先日一族の長としてその座を受け継いだ貴方様ではあるが、これに関しては我々から厳重に抗議させていただく。これは厄災に我々の一族が滅ぼされぬための大義であり、一代の長が個人の権限を以て干渉すべき事案ではない。
 以後、ルスティカ=フェドーと"器"候補はその接触を禁じてもらうよう要請する。また"器"候補を完全に此方の管理下に置き、以降本人の自由な行動は一切許可しないことも提案する。

送付者:(黒く塗りつぶされている)




提出日:××年××月××日
宛 ルイス=フェドー
主題:「主導派」の解体について

 今代の長にご挨拶申し上げます。
 前回貴方様が提示した計画の危険性と、それを基とした反対案が可決されて以降沈黙しておりました「主導派」が先日強硬策に移りました。
 "器"候補であった少年の拉致を働こうとしたようですが、私との「交渉」により彼らは手を退いて下さいました。今後計画に干渉することは無いと思われますが、彼らが一族に帰属することも恐らくは無いでしょう。
 また、彼らは貴方を始めとした計画の反対派閥には隠れて拠点を構築しておりました。拠点内にはこれまでの計画の方法とそれに伴う結果がデータとして詳細に記されたものと、今後の予定だったであろう計画の更なる方法を記した資料が在りました。
 これらに関しては人道的な観点から、私が責任を以て廃棄いたしました。今後彼の少年に累が及ぶことは無いと、私も信じております。

送付者:メルヒオール=フロイント

  • 或る計画報告書完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別SS
  • 納品日2023年06月12日
  • ・チック・シュテル(p3p000932
    ※ おまけSS付き

おまけSS


提出日:××年××月××日
宛 メルヒオール=フロイント
主題:計画資料についての確認

 報告を確認した。先ずは主導派(この呼称にも慣れてしまったな)との交渉に感謝を。
 彼らがこうした可能性に出ることを予測してもいたが、動きの早さに後れを取ってしまったのは私の責任だ。
 また、主導派が隠し拠点としていた場所も確認した。これについて質問が在る。
 主導派がこれまで、また今後の計画に利用を考えていた資料に関してだが、貴殿がこれを処分せず、個人で持ち出したと言う報告を挙げている者が居る。
 前回の報告書で、貴殿は此方を廃棄処分にしたと記しており、私としてもこれを信用したいと思っているが、これを報告したのが私の信頼のおける部下であるため、どうにも疑念を捨てきれない。
 これに関し、何か「報告」が在るのならば、今度私の元へ来てほしい。連絡を待っている。



送付者:ルイス=フェドー

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