PandoraPartyProject

SS詳細

雨の庭、お部屋の日

登場人物一覧

リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

「雨、酷くなってきましたね」
「きゅう」
 篠突く雨が辺りを曇色に染めている。
 ひんやりと冷たい窓硝子に掌を置いたリスェン・マチダの声に羽リスのナルが短く同意した。
 雨が続くと動物たちが教えてくれたため、今日は何の予定も入れていない。
 トレードマークである魔法使いのとんがり帽子と外套マントはコートハンガーでお休み中だ。

 リスェンの家にはたくさんの動物たちが暮らしている。
 今日のような雨の日には雨宿りをしにリスェンの家を訪れる動物たちもいた。
 そういった動物をリスェンは受け入れる。家を訪れる動物たちは皆、リスェンの大切な友人だからだ。
 花ウサギの兄弟は騒がしくカーペットの上で追いかけっこをし、障害物にされてしまった鉱石カピバラは気にした様子もなく昼寝を続けている。
 ヒートアップすることもあったが、タイミングをみて飼ドラネコのマンツァオが止めているようだった。ソファの上で眠ったふりをしながら見守る面倒見の良さは誰に似たのか。
 部屋のなかには動物たちが持ち込んだ白い野花や、野イチゴが散らばっている。美しく花瓶に活けられた紫陽蛍花と露眠草は、雨の庭で遊ぶ霧狐や雨獺たちから渡されたものだ。
 どれも薬効がある草花だ。もしかしたら、かつてリスェンに治療されたことを彼らは覚えているのかもしれない。
 リスェンが窓辺に立っていることに気がついたのか、遊んでいた霧狐たちが淡水色の尻尾を振った。
 リスェンは手を振って応える。出会った時には歩けないほど衰弱していた二匹だが今は随分と回復したようだ。
「へくちゅっ」
 くしゃみをした拍子に矢車菊色の髪が揺れた。羽織った淡いミルクティ色のカーディガンはこの季節にしては厚着になるのかもしれないが、病弱な幼少時代を過ごしたリスェンは自分の体調を把握することに長けている。
「きゅ」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、ナルちゃん。少しむずむずしただけですから。さあ、皆のところに戻りましょう」
 己の体温を分け与えるように頬に寄り添った羽リスが安堵した様子で小さな身体を離す。感謝を示す為に顎の下をくすぐってやると気持ちよさそうにナルは目を細めた。
 動物たちと戯れるのも良いだろう。新しく手に入れた薬草の本を読んでもいいかもしれない。
 動物たちも一緒に食べられるお菓子を焼いてみようか。それとも雨が止むおまじないを作ろうか。
 雨の日の過ごし方をリスェンは知っている。

おまけSS『てるてる。』

「これは『てるてるぼうず』と言うんですよ」
 丸い紙人形をつくりながらリスェンは言った。
 外の世界では晴れを願うおまじないだそうだ。
 生き生きとしている水属性の動物たちには申し訳ないが、三日も雨が続くと晴れ間が恋しくなってしまう。
「そうそう。お上手です」
 ナルが見本を見せるべく、ころころと紙を丸くする。
 すると見ていた兎三兄弟が同じように前足で紙をころころと丸めはじめた。
 ネコたちは様々な色のペンや紙を咥えてリスェンの元へとやってくる。
 見事な共同作業だった。
「吊るしてしまうのは、少し可哀想な気がしますね。これはわたしですか? ありがとうございます」
 窓辺に座る動物たちの紙人形。そんな彼らに囲まれているのは、皆が大好きなとんがり帽子の女の子。


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