PandoraPartyProject

SS詳細

そのキールは二人きりで

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

●バッカスと勇者
『トゥデイ・トゥモロー』は一見をまず寄せ付けない幻想の高級バーである。
 それ相応の力の持ち主や、後ろ暗い関係の男女も御用達にする知る人ぞ知るこの店は防音性が抜群だ。
 騒がしさとは無縁の空間は『悪い大人』に愛好される特別な場所である。
 そりゃあ騒がしいのも悪くない。
 賑やかな人の営みの内にいる事は疲れた大人にとってはまるで活力を貰うかのようだ。
 そりゃあ騒がしいのは――そう、嫌いじゃないが、時と場合は選びたい。
 賑やかなローレットとは似ても似つかない大人の時間に身を浸すのも良いものだ。
 空気に酔い、相手に酔い、場所に酔い、美酒に酔う――
「……うふふ、早かったのねぇ?」
 ――カウンターのスツールに浅く腰掛け、ロックで琥珀色を傾ける彼――レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)の姿を認めた時、シックな暗色のドレスを身に纏ったアーリア・スピリッツ (p3p004400)の唇には、この日もっとも艷やかな微笑みが浮かんでいた。
「この混沌で最も御機嫌な酒精バッカスの登場だろう?」
 店に合わせて選んだのか珍しくジャケットを羽織ったレオンはカジュアルながらもフォーマルといったいでたちだ。グラスを置いた彼の所作に合わせ、氷が涼やかな音を立てた。
「さあ、どうぞ。そうね、『他国の』お姫様――」
「――あら、どうも。ありがとう、『他国の』王子様」
 スツールを引き、隣の席を勧めたレオンにアーリアは如才なく受け答えていた。
 皮肉と瀟洒の入り交じる言葉遊びは年相応のコン・ゲームである。
「約束より前の時間に居るタイプだったのねぇ」
「意外かい?」
「うーん、だらしなく遅れてもそれはそれでそれっぽいかも。
 でも、こうして待っていてくれてもレオンくんらしいかも知れないわねぇ」
 着席し「まずは同じものを」と頼んだアーリアは小首を傾げてみせた。
 答えているようで答えにはなっていない――何とも茫洋とした、やはりこれも言葉遊びである――その返しにレオンはやはり少しわざとらしく肩を竦めてみせる。
「実際の所は、相手次第かな」
「あら。思ったより期待してくれてたのね。嬉しいわぁ」
 今夜の約束の発端は幾ばくか前のとある対決の結果に遡る。

 ――ひとつ、オマエ達が勝っても負けてもアーリアは俺の酒に付き合う――

 蒼剣教導なるイベントはローレットのギルドマスターと有志八人によって行われた対戦ゲームだったのだが、要するにこのアーリアは無理を言ってレオンを付き合わせたイレギュラーズに突きつけられた『最低条件』であった。
「……でも何だか悪い気もするわねぇ?」
「何が?」

 享楽的で華やかで幾分か意地悪な笑みを浮かべた美女のかんばせに浮いたのは、間違いなき二人の共通認識、つまりの顔である。
「そういう男って分かってると思うがね」
「駄目よぉ、レオンくん。んだから。
 あー、でもこれお釈迦様に説法って言うのかしら。レオンくんって分かってやってそうだしねぇ?」
「おいおい、一杯目から酔っ払ってんな?
 ……いや、オマエ最初から出来上がってきただろ」
「御名答! ……と、言うより何時も酔いたいのよね、私の場合」
 時間に、お酒に、今日は貴方に――と。切れ長の瞳が流し目の視線を送る。
 十代の男女ならばこんな雰囲気で夜に逢引めいた時間を過ごすのはもう少し重大事に捉えられそうなものだが、彼方にしても此方にしてもその辺りは些か不遜なタイプなのは間違いあるまい。
「オマエこそ、お相手に悪いでしょうが。『他国の姫』がさ」
「あら? レオンくん、私を口説いたりするのかしらぁ」
「絶対安全圏に居るって確信してるタイプは目にもの見せてやりたくなるかな。
 それで、その辺どうなのさ? 不良酒飲み」
「女の子はそれでいいのよ。お生憎様、レオンくんでも相手が悪いと思うけどねぇ?」
「いい性格してやがる。遊び方も、戦い方も」
「あら、ありがとう。誘って頂けたのだから、今夜は当然奢って貰えるのかしら」
「……………飲み方も。高いんだぜ、ここ」
 美味しいお酒が無ければ、口が滑って今夜が外に漏れかねない。
 そんな冗談は冗談として、やはりレオンは如才なく。
 
 その証拠に二人は揃って「もう一杯」とグラスを進める。
 燃える琥珀をカッと飲み干し、また一杯。ペースは全く落ちてこない。
「酔い潰してやろうか……ってのはちょっと相手が手強いな」
「潰れるのがレオンくんじゃ格好がつかないものねぇ」
 実際の所、打って響くようなやり取りは大人の社交そのものだ。
「言ったな? ま、潰れても安心しなよ。一夜の浮気位は黙っておいてやるからさ」
「その言葉そっくりお返ししておこうかしら? 負け負けなレオン君は多分見たくないでしょうしねぇ」
 カウンターの上のアーリアの手に上にレオンの手が重なった。


「あらあら?」
「悪い?」
「別に、ねぇ?」
 何せ隣で飲んで触れない方が失礼だ、とまで言う男が相手なのである。
 織り込み済みのアーリアは慌てる事すらない。
 レオンはアーリアが靡かない事を分かっているからこんな風なのだし、アーリアはアーリアで彼にその気が殆どない事を(少なくとも自身を誘った時、目を白黒させて青褪めていた二人の女の子よりは)理解している。
「……ま、夜は長い。オマエみたいなのはじっくり攻略するに限る」
「本当に悪い人よねぇ」
「そうか? オマエ程じゃねぇよ」
 浴びる程呑んでも潰れぬ二人だ。呑み休みのように甘味カクテルを頼む。
 白ワインと黒スグリの共演は、月を呑み干すアーリアのイメージに最も似合うと彼は言う。
 カチン、と響くグラスの音色は涼やかに。
 酒と美女とこんな時間に、きっと――

 ――俺の調子の良さなんて、そこの美人の刺激キール・ロワイヤルの何分の一にも満たないさ。

「……素面で言うから怖いのよねぇ」
「何杯も呑んでるだろ?」
「……でも、レオンくん、全然酔ってないでしょう?」
 今夜初めてアーリアが苦笑して、レオンは一番滑らかだった。
「むしろ褒めろよ。こんなに自重出来る――紳士的ないい男、他にそうは居ないと思うぜ?」
「出来れば初々しい頃が見たかったかなー、なんて」

 この台詞ばかりは僅かに自嘲めいていた。
 どうあれ、今日という夜はそれ自体がこんな時間の為にある。
 戯れに、彼が、彼女が全ての可能性を否定しないのはこの夜を彩る飾りに過ぎない。
 宵が明けて酔いが覚めれば、無かった事になる一幕だ。些細な、実に些細な演出である。
 無数に交錯する数多の世界線が仮に存在するとするならば、何処かで違う結論はあるかも知れない、無いかも知れない。きっと無い、そんな程度の――まぁ、今夜はそんな与太話に違いないけれど。
 笑う男はきっと承知の上で遊んでいる。
「だが、まぁ――この一杯は二人きりで」

  • そのキールは二人きりで完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2020年01月23日 20時55分
  • 登場人物2人

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