PandoraPartyProject

SS詳細

Singin’ in the Lying

登場人物一覧

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

 雨は天からの恵み。故に濡れることは、自然の摂理。
 それを避ける為にわざわざ片手を塞ぐなど、本来はせずとも良い苦労である。
「然し乍ら偶然見かけた傘職人の仕事に対して敬意を覚え、そして購入に至った一個人の意見としては買ったばかりの傘を今すぐ使ってみたいと思うのは至極当然の流れ。即ち、私は手っ取り早く雨を降らせるために君たちをこの場所に集めたのだよ。ご理解頂けたかな。十把一絡げで依頼を出されていた犯罪者諸君」
「阿呆なこと言ってないで俺たちを自由にしろーーッ!!」
「人の犯罪をを野菜一盛り百ゴールド感覚で纏めるなァーー!!」
 両手を黒い蝙蝠傘の柄に添え歩行杖のようにした仮面の医者が朗々と告げれば、地面に這いつくばっていた人々から一斉にブーイングが上がる。彼らは鼻腔より侵入した薬効に依って身体の自由が奪われているのか、口は動けど誰も立ち上がろうとはしなかった。
 破落戸風の輩もいれば泣きそうな顔の町人もいる。何故自分が此処にいるのか理解できない者から、顔を絶望に染める者まで様々だ。
 関連性の見え辛い多種多様な人物たちの前で仮面の医者は一度頷いた。やけに満足気な頷き方だった。
「血の気が多くて大変結構。しかし先ほどの君。己の犯罪を野菜ではなく花束に例える位の洗練さは無いのかね? もっと自分の創った作品に対して愛情と誇りを抱いて欲しい」
「人殺しが何か言ってる」
「そうだとも。私は人殺しだ」
 喧騒がピタリと止まる。
 腕利きの医者であると同時に、ヒルのぬいぐるみを持ち歩く貴人でもあり――……スラムの廃教会を囲った特異運命座標として知られている人物、ルブラット・メルクライン。その堂々とした言葉の中には微かな苛立ちが混ざっていた。
「そうだとも。私は生命の営みに感謝しながら殺人を行っている。ただ命を無駄に浪費するだけの君たちとは違う。そう、君たちには死者に対する敬意が圧倒的に足りていない」
 不可避の殺意が空気を澱んだ物へと変化させていく。
 本人としては明白に公言しているつもりであるがルブラットは人の生死に対して一般平均より並外れた興味と好奇心を持つ快楽殺人鬼でもある。
「そう云う訳で今日は君たちに見本を見せようと思ってね」
「雨を降らせに来たんじゃなかったのかよ」
「そうだとも」
 握る傘の柄から餓狼の如き刀身が愉し気に顔を覗かせる。
「如何すれば『雨に近い』散血が出来るのか。実に興味深いと思わないかね」

おまけSS『ダイジェストでお届けします』

「通常の落下はダメだな。これでは食肉の血抜きと変わらない」
「雫……放物線……頸動脈……やはり頸動脈か……?」
「近いがやはり違う。距離と量が重要なのだろう」
「やはりあれか? 道具を使った方が再現性が高くなるのか? しかし材木粉砕機を屋上まで持ってくるのは骨だぞ」
「最初に血の雨と形容したのは誰なのだろうな。比喩ではあるがその状況を参考にしたい」
「おや君の殺人には創作性が少しはあったのだな……安心したまえ。君の罪過は重いが君の家族に罪はない。その証拠に此処にはいないだろう? まあ私に依頼が来なかっただけかもしれないが、おっと」
「今のは近い。とても近い。恐らくは。君の犠牲を無駄にはしない。安心したまえ」
「貯水槽を赤く染めるには何人分の血液が必要なのだろうか。いや、ビルのオーナーに迷惑をかけるのは心情に反する。この案は無しだ」
 旦那ー、昼飯持ってきたよーー。
「此処は教育上よろしくない。いま下に降りていくから、そこで待っていなさい。ああ、その線からこちら側には来ないように。服が汚れる」
 はーい。


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