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赤が散る
登場人物一覧
- キドー・ルンペルシュティルツの関係者
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太陽が眩しいと思ったのは、砂漠の桜──
「まったく、馬鹿野郎どもだな」
キドーは口元をにやつかせながら、天井に煙を吹く。
ちなみに馬鹿野郎どもは今も事務所をめちゃくちゃにしている。
「どうよ!」
「まだ軽いな」
猫耳男のアッパーを爬虫類顔の男が受け止めているところだった。本当に血の気が多い奴ばかりだ。スキンクは視線を馬鹿野郎どもに向け、「そろそろやめてください」
男達の肩を強く掴んだ。瞬間、スキンクはよろけ、顔をしかめた。鼻の奥から赤い液体がスプレーのように吹き出す。そう、猫耳男の頭突きを鼻にくらったようだ。
「喧嘩はやめてください……」
息を吐く。猫耳男を引き寄せ、スキンクは頭突きを返した。凄まじい音に爬虫類顔の男は立ちすくみ、猫耳男は床に転がっている。
「……スキンク、社長にはオレが報告しようか? 痛そうだしよ」
スタッフの女が鏡を見せた。スキンクは見た。鼻血が流れ、切れたのだろう。唇も歯茎すら赤い。
「ほら、派手にやったろ?」
「……そうですね。ただ、おれが仲裁したんでおれが言います」
スキンクは手の甲で鼻を拭い、手の甲に伸びた鮮やかな赤を見た。見た目ほど痛くはなかった。ただ、血は顔を汚し、いつもの服に赤い染みを作った。スキンクはうんざりしながら指で鼻を圧迫し、社長室の扉を叩く。
「入っていいぞ」
キドーの声に頷き、スキンクは社長室に入った。白く煙った部屋。キドーは椅子に座り、勧誘チラシに目を通している所だった。
「仕事中、すいません」
真正面に立てば、「おまっ」
キドーが驚き、スキンクの赤を指差す。
「すいません、喧嘩の仲裁をしたら頭突きをくらいました」
小首を傾げる。いつもなら冗談のひとつでもあるはずなのにキドーは静かだった。
「社長?」
鼻血が指の隙間から流れ、唇に赤が触れた。赤い味が口の中で溶け、スキンクはうんざりする。自分の意思で止められないことがとても面倒に思えた。
スキンクの声が遠い。
「ん? ああ……」
赤にぐらあぁとキドーの意識が吸い込まれる。スキンクの息すら美味そうに思えた。
(嫌だねェー)
キドーは苦笑する。赤に焦がれ、喉の奥が震えている。スキンクを見れば、平静を装っているが、止まらない血に苛立っているようだった。
(なら、俺が飲んでもいいじゃねェかよお)
ふと、そんなことを考えてしまう。ぼりぼりと頭を掻き、キドーは目を見開いた。溢れ出した赤が手首を伝い、絨毯を濡らしたのだ。
「こんなにも垂れて可哀想じゃねェか……」
吐き出した声がねっとりと湿っている。キドーはスキンクの腕を掴み、涙を拭うように手首を舐め、服に染み込んだ赤い液体を吸った。途端にスキンクが深く息を吸う。
「はは、やっぱ、あめェな」
はっきりと感じる赤。もっと、飲みたくなってキドーは机を蹴り飛ばした。立ち竦むスキンクをソファに叩きつけ、むわりとした血の匂いに涎を垂らす。
「社長?」
重い身体を感じる。ソファに押し倒されていた。押しのけようと四肢をばたつかせるが、キドーは全く動かない。汗が滲む。キドーの瞳孔が獣のように大きく動いている。鼻血が頬を流れる。キドーは汗を流しながら何かに耐えているのだ。
「黙ってろよ……スキンク……」
キドーの声がスキンクの中に響いた。キドーの汗が、涎がスキンクの頬に、唇に落ちていく。スキンクは激しく動揺した。何が起きているのだろうかと。だけれど、赤い液体はそれでも止まらなかった。
「おい、勿体ねェって……」
キドーはスキンクの顔を両手で掴み、唇を寄せたのだ。
「社長?」
スキンクはキドーの顎先を強く押す。だが、動かない。獣じみた力を感じるだけだった。キドーの唾液がスキンクの唇を執拗に濡らす。
「あぁ、クソ……ワインみてェだな……」
キドーは赤を夢中で舌ですくい、今度はスキンクの赤い唇をべろべろと舐めている。スキンクは声を漏らした。キドーの熱い舌を感じたのだ。
「はは、うめえわ……」
キドーは唸り、目を細めた。
こんなに美味いもんは初めてだった。青いはずの舌が真っ赤なかき氷を食ったかのように染まりだす。口の中が甘ったるくてすぐに酔っちまう。
キドーのぬるぬるとした舌と唇が、スキンクの顔を、鼻を、顎先の血を追いかけていく。だから、気が付いた。キドーは血が欲しいのだと。スキンクは途端に瞳を輝かせ、にたにたと笑ったのだ。
「社長、欲しいですか?」
キドーの前に血がこびりついた指を向ければ、たちまち、キドーは指を熱心にしゃぶりだす。
「赤ちゃんみたいですね、大人なのに」
べちゃべちゃと爪を、指を、手を、手首を、熱心に舐めている。湿った息にスキンクは喘いだ。
「歯、当てないでくださいよ……」
スキンクは昂っている。何故だろう。気持ち悪いことが
「社長、こっちもどうですか?」
鼻を指差す。
「あぁ……」
垂れてきた赤をキドーは顔を上げ、べろりと犬のように舐めた。
「はー、美味くて笑っちまう……」
キドーは震え、ぼんやりとスキンクを見た。
「なら、もっとあげます」
スキンクは舌を噛んだ。赤い液体が滲んでいく。
──欲しいですか?
スキンクは舌を出し、笑った。舌から血液が流れる。痛みはなかった。
「煽んなよ、スキンク……」
舌打ちと弱々しい声が聞こえる。
「要りませんか?」
「うるせ……くれよ……」
喘ぎ、強引にキドーは唇を重ねたのだ。舌が生き物のように動き回っている。スキンクはゾクリとした。嬉しかったのだ。でも、これは、愛なんかじゃない。汗だくでソファをゆっくりと揺らしている。ただ、それだけだ。汗が流れる。息が上がり、涎が零れた。キドーはスキンクの舌を舐め、歯茎を舌でなぞりはじめる。
「あぁ」
スキンクは支配欲に笑った。優越感でぐちゃぐちゃだった。だからだろう、無意識にキドーの硬い尻を両手で掴み、舌を絡める。
「え? えぇ?」
暫くして正気に戻ったのだろう。キドーは唇を離し、スキンクの上で怯えた顔をしている。自分が何をしたか知っている。でも、信じたくはない。そんな顔だった。唇の端から唾液が糸のように伸びている。
「社長、おれは美味かったですか?」
スキンクはソファに寝転がったまま、言った。瞬く間にキドーが青ざめる。
「スキンク……」
「はい」
「ス、スキンクくんは今、何が欲しいのかなぁ〜〜?」
「社長」
「な、なんだよ? 俺はヤらねェぞ……」
「別におれは何も要りませんし言いません」
「へ? なんでだよ……」
「今ので満たされましたから」
「いや、は? 何が……クソ、めちゃくちゃ聞きたくねェな……」
キドーは苦々しい顔で、楽しそうなスキンクを見つめたのだ。
- 赤が散る完了
- GM名青砥文佳
- 種別SS
- 納品日2023年06月01日
- ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
・キドー・ルンペルシュティルツの関係者
※ おまけSS『小競り合いのふたり その後』付き
おまけSS『小競り合いのふたり その後』
「いててて……スキンクさんの頭突きマジ効いたわぁ……」
「あぁ、あれは痺れたねー! かっこよかった! てか、お前さ……スキンク氏に何、頭突きしてんのよ?」
「え? ま〜な! すげぇだろ!」
「いや、駄目だろうよ」
「え、なんでだ?」
「推しに頭突きとかありえねーって……逆だったらご褒美だけどよ」
「推し? ご褒美? なんだ、それ? もしかして、お前、スキンクさんのこと……」
「ばっ、ちげぇって! 推しは推しだからよ!」
「ふ〜ん? まぁ、スキンクさん、クールだしな。分かるわ」
「だろ?」
「てかさ、遅くね?」
「あ? 何がだよ?」
「スキンクさん、社長室から出てこね~なぁって。何してんだ?」
「何ってそりゃあ……二人で仕事の話でもしながら煙草でも吸ってるんだろうよ。あー、良いなぁ! 混ざりてぇ!」