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供える感情の行き先は

登場人物一覧

ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い

 ジョシュアは白い花束を抱えてそこに立っていた。まだ寒さの残る鉄帝のとある森の中、目に前には何かしらの跡地。ジョシュアが生まれ育った場所、月硝の集落の跡地だ。

 この場所を故郷というのは彼には少し難しい。確かに生まれ育った場所であるのだからそうなのだろうが、結局のところこの場所は毒の要素を持った彼を認めてはくれなかったのだから。
 仲間になりたかった、認めて欲しかった、そのために一生懸命努力した。言うことを聞いて、できるだけのことをした。でも仲間にしてもらえることはないまま集落は滅んだ。

 じっと集落のあった場所を見つめる。
 ジョシュアは知っている。自分は集落の仲間ではなかったと。だからこうやって再度訪れるのは彼らにとっては喜ばしいことではないのだろうことも。
「僕が来ても嬉しくないでしょうけど、仕方ないじゃないですか……」
 彼らの声が思い出されて微妙な顔になりながらも花束を入口へそっと置く。この場所を知っているのは自分以外に二人程度。その二人が来るとは限らない。供養しないとかな、と思ってしまったら足は止まらなかった。

 目を閉じて、想う。
 彼らが死んでよかったとは思えない、そう言うことはできない。けれど彼らにされたことはどうしても辛かった。
 誰かと触れ合うあたたかさを、誰かの優しさに触れる喜びを、一人では作れないぬくもりを、知ってしまってからは余計にそう思う。
 でも死んでしまっている以上、憎んだところで、恨んだところで、何になるのだろう?
 生きてさえいたら感情をぶつけることはできた。溜めこんだ感情を怒りにでも悲しみでもどんな感情にだって変えて放ってしまえばいい。感情の整理とはそうやって行われるものだろう。
 けれどこの跡地に叫んだところで彼らはおらず何にもなりはしない。だからといって辛かった思い出もなくなりはしない。整理がつくわけもなく、ただ残った許せない気持ちだけを抱えて立ち尽くすだけ。
「辛かったんですよ」
 零れた言葉を聞くのも花束だけだ。いっそ花束と同じく気持ちすら置いていけたらいいのに。

 考えを振り払うように首を振る。考えたって答えは出まい。帰りが遅くなる方がきっと心配されるだろう。
「皆様に月の導きがありますように」
 だから、祈りを捧げ背を向ける。
 と、急に強い風が吹いて花束を転がした。そして花束の中からハナニラの花だけが風にまかれて空へ飛んで行く。月を飾る星のように。


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