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花の乱 ~七変化~

登場人物一覧

一条 夢心地(p3p008344)
殿


 しとしとたたんと、雨が庭の石を叩く季節がやってきた。
 朝の目覚ましの濃い緑茶を頂きながら庭へと何の気無しに視線を向ける一条 夢心地(p3p008344)の頭上には今、赤い鬱金香チューリップは咲いていない。普通の鬱金香同様、花の時期が過ぎればはらりと散ってしまったのだ。
 散った後どうなったか? 勿論、普通にちょんまげが生えてきた。これに家臣たちは大喜び。矢張り見慣れた姿が一番だと、我が殿が奇病に掛かった訳では無かったのだと、鬱金香が生えたことなぞ春の長夢だったのだと記憶を消去する者まで現れたほどだ。
 ――しかし。
「と、殿……」
「む。なんじゃ?」
 またも家臣たちは震え声を発しながら『はわわ』みたいな表情をする羽目になった。
 まさか、そんな。また何か起きるなんて思わないじゃん?
 でも、起きてしまったりするのが異世界と旅人ウォーカーの不思議。
「鏡持て!」
「ハッ」
 このやり取り、記憶に新しいぞ……なんて夢心地が思っている間に、俊敏に動いた家臣によって鏡が用意され、そっと姿が映された。

「此度は紫陽花か」

 既に一度我が身に起きたこと。「あなや」の一言も無く鷹揚に頷く夢心地に、家臣等から「殿、ご立派でございます!」の声が漏れる。麿の家臣、最近涙脆い気がする。なんで?
(麿はほぼディルク・レイス・エッフェンベルグであるからして)
 そう。一条 夢心地は、ほぼディルク・レイス・エッフェンベルグである。何を言っているのか解らないとは思うが、殿である夢心地が『そう』と言えばそうなのだ。
 そしてディルク・レイス・エッフェンベルグと言えば、この世界――無辜なる混沌においてイケてるメンズランキング上位者である。つまりほぼディルク・レイス・エッフェンベルグである夢心地も『そう』であると言える。イケメン上位者ならば、季節の花を愛でるのは当たり前。花も愛でられる為に生えてくるのだろう。
 ふうと溜息をひとつ。濃い茶の口直しに、白湯を口にした。
「と、殿……」
 すると、また家臣等が『はわわ』になっている。
「ぬ?」
 麿、何かした?
 不思議に思って鏡へと視線を向ければ――なんと、紫陽花の色が変わっていた。
 お茶を飲む。――紫に変わる。
 白湯を飲む。――白に変わる。
 では、この吸い物は――桃色に変わった。
「成る程」
 どうやらこの紫陽花、口にした物で七変化をするらしい。
 これもまた、庭師でも侍医でもお手上げだろう。


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