PandoraPartyProject

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華やぐおとめたち

登場人物一覧

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

 満点の青空に、桜の花弁が舞っている。
 抜けるようなブルーと桜の淡いピンクの色合いを眩し気に見上げ、ああ、と蜻蛉は言葉を漏らした。

「今日はほんにええ天気やねえ。お花見日和で、お誘いした甲斐がありました」
「突然呼び出したから何かと思えば、お花見だったのね。――最近バタバタしてたから、こういうのも久し振りに感じるわ」

 蜻蛉にならって眩し気に空を見上げたコルネリアは、散る桜に何を感じているのだろうか。
 蜻蛉は彼女の何処か鋭利な横顔を見ながら、持ってきたお弁当の包みを開く。
 春の暖かさが心地良い。風は僅かに冷たくて、だからコルネリアは思わず、

「酒を飲むにはいい天気だな」

 なんて、呟いてしまって。

「あら。お酒ですか?」
「……あー、いや、つい。風が冷たいとな」
「大丈夫、お酒も勿論ありますよ。米酒やけど、よかったやろか」
「わを! 勿論いいよ、全然オッケー。でも其の前に……お弁当頂こうか」
「ええ。腕によりをかけて作って来ました。お好きなものがあったらええのんやけど」

 蜻蛉が持って来たのはなんと、お重である。
 しかし、中身は控えめ。そんなにぎゅうぎゅうに詰まっている訳じゃなくて、余裕を持たせて華やかに見せるためにスペースが必要だったのだ。
 だから最初は目を丸くしていたコルネリアも、お重が一つ一つ開かれていくのを見て成る程、と納得した様子で。

「アタシは思わず、蜻蛉が『お腹空いてますのん』とかいってパクパク食べちゃうのかと」
「な、何ですの! うちはそんな大食漢じゃあらへんよ!」
「あっはっは、判ってるよ! 其れじゃ、頂きます」
「もう……はい、どうぞ」

 そうして暫し、二人はもくもくと蜻蛉手製の料理を食す。
 コルネリアは昆布巻きが気に入ったようで、2回に1回はそちらへ箸を伸ばしている。
 そうして頃合いを見て、蜻蛉が持ってきた小さめの米酒の瓶を開けて、風情ある盃に注いで渡して。

「……あー……最高だわ。この……昆布巻きってやつ。酒に最高に合う」
「お気に召してもらえたならよかったわぁ。――……」

 二人、そよ、という音につられて桜の木を見上げる。
 そう言えば、桜の木の下でお花見しようと言ったのはどちらだっただろう。盃に花弁が落ちるのを見ながら、ぽつりと蜻蛉が呟いた。

「――これまで色々あったけれど……こやってお友達と一緒に見上げる桜は、やっぱりええもんやねぇ」
「友達?」

 きょとん、とコルネリアが蜻蛉に視線を向ける。其れはとてもとても意外そうに。
 あら、と蜻蛉は微笑んで首を傾げて。

「コルネリアさんはうちのお友達やよ。気付いとられんかったん?」
「いや、……気付いてなかったっつーか……友達、か。そっか、あたしは友達でいいのね」
「勿論よぉ。そうやなかったら、お花見に誘ったりもしません」
「……そっか。あはは、良いもんだ」

 くすくす、と淑やかに笑う蜻蛉と。
 あはは、と笑うコルネリア。
 二人は一見対照的だけれど、其れでも、友達になってしまえばそんなものは気にならない。

「ねぇ、コルネリアさん」
「んー?」
「――此処に居てくれて、ありがとう」
「……うん」

 其れはこっちの台詞、とコルネリアは笑っていた。柔らかな笑みだった。

「ありがとうな」
「……あら。そういう時は素直に受け取るんやね?」
「あ? うっさいな、人がいつもは素直じゃないみたいに!」
「やって素直やないんやもの。気付いておられんかったん?」
「気付いてませんでーしーたー!」

 拗ねたように言って、コルネリアは再び箸を伸ばす。えい、と最後の昆布巻きを取って、ぱくりと食べてやる。

「……あ! それ、うちが置いといたやつ!」
「知らない」
「もう、コルネリアさんたら……」
「いやでも、本当に美味いよ。昆布巻きだけじゃなくてさ、この卵焼きとか、煮つけとか……ねぇねぇ、たまにウチに作りに来てくれない? 駄目?」

 其れでも友達が己の料理を褒めてくれるというのは嬉しくて。
 うーん、と蜻蛉は考え込むフリをする。

「どうしようかなー。コルネリアさんがお酌してくれはったら、考えようかなー」
「お酌? するする、めっちゃする。ほれほれ蜻蛉さん、あんたも飲みなされ」
「……なあに、それ。うふふ」

 桜の花がぽんと開花するのは一瞬で。あとはこうして散りゆくだけだけれども……桜の下で交わした会話は例え季節が変わろうと、ひととせが過ぎようと、いつまでも記憶に残るのだろう。

 ああ、来年は昆布巻き、いっぱい作らんとあかんねえ。
 たくたくとコルネリアにお酒をお酌して貰いながら、蜻蛉は目の前でご機嫌な友人を思うのだった。


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