PandoraPartyProject

SS詳細

春風チョコレヱト

登場人物一覧

リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

●大好きなあなたへの贈り物

 ──某日。

 そわり
 そわり

 そわり。

「Uh……」
 普段はギフトで絶対隠している耳をピコピコと動かし、尻尾が右へ左へゆらゆらと揺れ落ち着かないのは旅人ウォーカーの『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だ。こんなにリュコスがあちらこちらと視線を巡らせながらソワソワしているのも理由がある。それは大切な友達の為にと頑張って自分で作った苺を乗せたブラウニーをプレゼントしようとしていたからだ。

 リュコスがこの思いに至った経緯──それは灰色の王冠グラオ・クローネなるイベントがキッカケである。

 元々は異世界文化とも言える『友チョコ』を知り、練達探求都市国家アデプトにある再現性京都にある深道本家『煌浄殿』でリュコスが手に持つブラウニーを制作した様子だった。リュコスは料理に関しては素人だったが、たくさんの大好きな友達に囲まれながらともあって自身の頑張りを誇りに思う程には上出来だったようだ。
「ステラ、よろこぶかな……」
 想像するのは大事な友達でこれからこのブラウニーを渡す相手である『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)の喜ぶ顔。
 彼女とは沢山の事を共に楽しんできた仲だ。二年と少し前のシャイネン・ナハト辺りから去年のシャイネン・ナハトも一緒に過ごした。それは当然今回の灰色の王冠グラオ・クローネも同じ話である。その時々に味わったお菓子達……特に彼女の作るバウムクーヘンはリュコスにとっても思い出深い一品になっている。だから。
 だからリュコスは今回彼女に喜んでもらいたい一心で新たな挑戦に挑んだのだ。
 故にソワソワしてしまうのも致し方のない事だった。
「リュコスさーん」
「!」
 聞き親しい声が聞こえたリュコスは慌てて耳と尻尾を引っ込める。金髪に天色と唐紅のオッドアイの彼女が見えてリュコスは目を輝かせて嬉しくなってくる。
「ステラ、ステラ!」
「はいこんにちは! 拙に何か御用達とか? どうされましたか?」
「えっと、えっとね……」
 ステラなら喜んでくれると解っていてもこう言った瞬間は誰でも緊張するものだ。リュコスがモジモジとしているとステラは見兼ねて近くまで歩み寄りリュコスと同じ目線になるように屈んだ。
「慌てずゆっくりで構いませんよ、拙はここにいますから」
 そう優しく笑いかけてくれるステラに、リュコスは決心したようにプレゼント用にとラッピングしたブラウニーをそろりとステラの前に出した。
「これね、ぼく、ステラにって作ったんだ。グラオ・クローネの、プレゼント! 友チョコ! はい、どーぞ!」
「これを……拙に、ですか?」
 その返事にコクリと頷いて、その瞬間感情が高ぶり耳と尻尾を再び揺らしながらまるで『待て』中の大型犬のように反応を見守るリュコスにステラはぱぁっと花が開いたかのように満面の笑みを見せてくれた。
「嬉しい……とっても嬉しいです!」
「がんばって作ってみた。ステラの為にって……ステラのバウムクーヘンの方がおいしいと思うけど……」
「何言ってるんですか。こう言うのはリュコスさんが拙の為に作ってくれたと言う事がとっても嬉しいのですよ」
「ステラの為に……うん、ステラの為にね、たくさんがんばって作ったんだ!」
「はい! それが拙はとっても嬉しいです!」
 どうやらリュコスからのグラオ・クローネプレゼントは大成功したようだ。
 自分の予想よりもずっとずっと喜んでくれた彼女にリュコスは温かな気持ちになる。

「さて、こんなにも素敵なプレゼントには全力でのお返しをしなければなりませんね」
「へ?」
 思いもよらないステラの言葉にプレゼントをあげて満足していたリュコスは呆け顔。そんなリュコスにステラはクスリと微笑みながらその手を自然に引く。
「さぁ行きますよ!」
「あ、あわ……っ」
 強引に、けれど決して乱暴ではない彼女の優しい手にリュコスは戸惑いながらも着いて行こうと思った。
 リュコスにとってステラは大事な大事な友達だ。それは彼女に何かあって傷つけられたら凄く怒るくらいには特別大切と言う様子。
 ステラにとってもリュコスは大切な友達である。それはリュコスを手を出し傷付ける手合は、泣いたり笑ったり出来なくしてやりましょう! とにこやかに殺気力の強い気概を抱く程の事。
 お互い大事に、大切に思い合う友人……それがこの二人なのである。
「こちらですよリュコスさん!」
「わ、わぁ……!」
 ステラの優しい手に導かれて訪れた場所は、混沌の中でも屈指の桜の名所だった模様。特異運命座標イレギュラーズである二人は空中庭園を経由してこの場所まで来たようだ。
「そろそろここも見頃だと思いまして依頼ついでに視察したらいい感じだったのでリュコスさんに見てもらいたいと思いまして……」
「きれい! きれい!!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表すリュコスに、ステラは徐ろに持ってきていた荷物を下ろす。
「ステラ?」
「さぁお花見といきましょう、こんな事もあろうかとキャンプ道具は準備してありますので」
「すごい、すごい!」
 準備万端なステラにリュコスは感情が高ぶり耳と尻尾をひょっこり出して揺らしてしまう。
「拙のお返しを楽しみにしてて下さいね?」
 ステラはそう言うと手際よくタープを張り、テーブルやチェア諸々を設えて……リュコスへのおもてなしの準備を始める。
「umm……」
 そんな準備をしている間もリュコスは子犬のように落ち着かない様子で、けれど彼女の邪魔にならないようにと耳と尻尾を揺らしながらその様子をソワソワとした様子で眺めていた。ステラも準備の横目でリュコスの様子を見ては微笑ましく思えた。

「こんな感じでしょうか」
「!!」
 ソワソワしていたリュコスはステラのふとした言葉に彼女の方へ勢いよく振り向く。
「ふふ、出来ましたよー」
 笑顔でリュコスを呼ぶような声にまた耳と尻尾が揺れてしまう。
「いいにおい……」
 周囲に広がるお菓子の匂い。リュコスにはもう心当たりがあった。
「ステラのバウムクーヘン!」
 目の前にあるのはステラが得意とする焼き菓子、バウムクーヘン。リュコスも彼女の作るバウムクーヘンが大好きだった。
「今回はグラオ・クローネのお返し、と言うことでチョコレイト風味です。材料が揃っていたので丁度良かったですね」
「チョコレイト!!」
 リュコスの目はキラキラするばかり。
「どうかゆっくりお過ごし下さいな」
「うんっ!」
 あんなに緊張して渡したグラオ・クローネのお返しがこんなの早く来るなんてと驚きながらも、リュコスはステラの焼き立てバウムクーヘンが嬉しくて夢中で食べており、ステラもその様子を見ながら微笑んでいた。

 開花していた桜がサラサラと揺れる。花弁は風に乗り宙を踊るように揺れていた。穏やかな時間が流れる。
 春の感謝の一時はきっと二人にとって掛け替えのない思い出として刻まれることだろう。
 幸福なる思い出として。

「Uh……」
「どうしましたか、リュコスさん?」
「なんだか、お返しの方がすごい……ステラの方が、すごいっ」
「それはどう致しまして?」
「ぼくも、もっともっとステラによろこんでほしいよ!」
「拙はリュコスさんの作ったブラウニーとても嬉しかったですよ?」
「もっと! ……だって今日はぼくの方がうれしいから!」
「そうなんですか?」
「そうだよ! だから……もっとがんばるっ!」
「はい!」


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