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はじめの一歩

登場人物一覧

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
祝音・猫乃見・来探の関係者
→ イラスト

 悪い事をしてきたわけではなかった。お腹が空いて、空いて堪らなかったから――拾われたばかりの悪性怪異・夜妖<ヨル>は子猫のようだった。
「祝音、祝音」
 走り回るのは火車の娘だった。彼女は『火車の子供』と言うべきなのだろう。それ程に力は無く存在している事が不思議な程の娘である。
 火鈴かりんはぴょこぴょこと猫の耳を揺らして祝音の元へと飛び込んだ。
「ねえ、入学式なんでしょ? 祝音! 制服って言うのはどうやって着るの?」
「みゃー。火鈴さん、制服はね……」
 希望ヶ浜学園のセーラー服を手にしていた火鈴に祝音は一枚一枚着用方法を教えてやる。希望ヶ浜学園では尾を隠す必要も無いため、火鈴もご機嫌だ。
「なじ姉から教えて貰ったの。祝音とはクラスメイトになれないのよね?」
「うん……。火鈴さんの方が年上――」
「ううん、わたしは夜妖だもの年齢なんて関係ないわ! 名字だって用意して貰ったし、年齢だってそれにしてもらえばいいじゃない!」
 踏ん反り返った火鈴は と書いてあった願書の年齢の欄を睨め付ける。14歳と記載したが、間違いだったことには出来ないだろうか。
 いや、屹度出来る。まだ3月、澄原家に夜妖である都合や彼女の知能的な状況についての見解を記して貰えれば祝音と共に《クラスメイト》になる事は出来るだろう。
 怪異である事を隠しきれるか妖しい火鈴には世話係が居た方が良いというのは皆の見解だ。其れが祝音だったのだろう。
「早速行きましょうよ! ここで祝音とクラスが違うから、廊下でお別れね、って言われたらわたしはどうすれば!」
「うーん……うん、聞いてみようか。みゃー?」
「みゃー!」
 嬉しそうに歩き出す火鈴に手を引かれてから祝音は肩を竦めた。火鈴曰く、ブレザータイプの制服とそのスカートを改造してチェックのズボンにしたを着用して祝音と学園に通いたかったらしい。お揃いの鞄とベレー帽下用意したいのだと張り切っていたとは聞いていたがこだわりが強い。
 曰く――彼女は非常に臆病な夜妖だ。出来るだけ自分が安心できるようにと周辺を固めたかったのだろう。
「良いですよ」と主治医であった晴陽の言葉が添えられてからと言うものの火鈴は張り切ってになる為の準備を始めた。

 作戦会議に訪れたのは美しい桜を窓辺に眺めることの出来る猫カフェである。開花宣言が出てからと言うものの、その場所は混雑していた――が、火鈴自身にも猫のかけらが在るためにこの場所は落ち着くのだと祝音を伴ってよく訪れている。
「祝音、あのね、ペンケースに入れる消しゴムを買ったのよ。じゃーん、肉球なの!
 それからね、文房具も揃えたの。お金は一応澄原病院の看護師さんの手伝いをして居るから、お給料として貰っているのよ」
 お小遣い程度だけれど、と告げる火鈴は買い物の仕方などを澄原病院の看護師達に教わってきたのだという。これからは学園生活を送り、少しのお小遣いでやりくりすることを覚えていくそうだが――
「あの、ね、コレは相談なんだけど……学食って場所は行く?」
「え……?」
「お弁当か学食か……祝音がいいなら、学食に一緒に行って欲しくって……」
「火鈴さんが行きたいなら、いいよ……?」
 ぱあと明るい笑顔を浮かべた火鈴が「ありがとう!」と祝音に飛び付いた。その勢いで猫たちが慌てて離れていったことに気付き「あ、ごめんなさい」と慌てて猫を振り返る。
「猫ちゃんたちを驚かすだなんて! りんのばか!」
「大丈夫、みんな少しビックリしただけ、だよ……?」
 微笑みかければ猫たちがそろそろと祝音に近付いていく。その様子を見学していた火鈴は「りんにもできるかしら」とそわそわと身を揺らした。
 その仕草だけで尾がゆらゆらとしているのは猫も火鈴も同じ。可愛らしい友人に祝音はついつい笑みを零した。
「うん、大丈夫。みゃー」
「みゃー!」
 やったあと手を上げるのはだけは控えなければまたも猫たちを驚かせてしまうだろうけれど――
 作戦会議では火鈴がこれからどの様に生活するのかと言う話を彼女が楽しげに教えてくれた。きらきらと輝く瞳はへの期待が込められているのだろう。
「わたし、祝音との学校生活が本当に楽しみだったのよ。だって、だって、一人は怖かったし、お腹も空いちゃうし、うまくできるかわからないもの。
 だからね、りんと一緒に行ってくれるって言うだけですっごくすっごくうれしいの!」
 精神的には未だ未だ幼い少女だ。祝音よりもうんと幼く見えるのは彼女がだからというのもあるのだろう。
 外見的にはお姉さんだけれども、妹が出来たような気がして祝音はにこりと笑った。
「学校生活、楽しみだね。みゃー」
「みゃー。そうね、とってもたのしみ。入学式は一緒に行きましょうね! りん、いっぱいおめかししちゃうんだから」
 嬉しそうに猫を抱き締めて笑った火鈴に祝音はこくりと頷いた。


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