SS詳細
埋め火を焚く
登場人物一覧
●炎獄
赤い赤い、炎が揺れている。
人々の悲鳴が渦巻き、揺らぐ炎とひとつになる。
壁を舐めていく赤が人々へと赤を移り、人々は狂ったように踊る。やがて赤が黒へと成り果てるまで。
――熱い、熱い、熱い、熱い、あつい熱い熱いあついあつい、あつ……
どうか、誰か。
おかあさん、どこ?
熱いよ、助けて。
ああ、苦しい。炎で息が……。
いっそのこと――
――殺してくれ。
「――――ッ」
たくさんの人々の悲鳴で頭の中がいっぱいになり飛び起きれば、そこは見知らぬ部屋だった。
見知らぬ天井に、見知らぬ壁。知った顔はひとつもない。
「ぐ、っ」
身体のあちらこちらが痛んだ。ずきりと突き抜けるような痛みよりも、ジクジクと熱が身体を焼いているようだった。痛みとともに思わず瞳を閉ざせば――燃え上がる、炎。
(そうだ、俺は……。くそッ……)
僅かに断線していた記憶が繋がった。
あの料亭で炎に焼かれたこと。
敵の首領、焔心と対峙したこと。
全力で挑んでも勝てなかったこと。
翻る花嫁衣装の白は煤に汚れ、炎に飲まれた。水色の彼岸花のように舞う髪は、炎に焦がされた。たくさんの血を流し、血を焦がし、それでも前進していく小さな体を庇い、支え――そこで耀 英司 (p3p009524)の意識は途絶え、今に至る。
(確か……)
最後に見たのは澄恋 (p3p009412)に肩を借りた視界で。
天井からは炎に飲まれて崩れ落ちてきた梁、そしてまるで黄泉の国の口が開くように崩れ落ちた床――
(……ッそうだ、澄恋――!)
「ッ」
飛び起きれば、腕が痛んだ。腕に針が刺さっていることに気が付き、手を伸ばす。
(……壊したら怒られそうだな……)
その頃には此処がどこかの察しがついていた英司は、引っこ抜こうと伸ばしていた手を引っ込める。
ぽたん、ぽたん、ぽたんと、
最後に見た記憶を再度呼び起こす。
崩れた床に落ちる、赤と黒に染まった白。咄嗟に抱き寄せて抱え込み、これ以上傷を着けさせるものかと強く思った。命が助かるように頭部を守ろうと抱え込んだつもりだが――あの状況で確りと出来ていたかどうかの確信はない。
次に呼び起こされるのは、赤い記憶。炎に包まれた料亭は、ほんの少し前まで無辜の民たちの笑顔で溢れていたはずだ。いい店だからとお洒落をして訪れる男女、節目のお祝いにと連れてこられた子どもたち。一生残る良い思い出が出来ると信じてやまずにいた者たち――そう言った者たちが為す術もなく炎に飲まれた。
イレギュラーズたちは焔心から選択を突きつけられたのだ。
『俺様を
そうしてイレギュラーズたちは個々で選択をし――澄恋をアシストすると決めていた英司は焔心を追った。
(俺にもっと力があれば……)
力があれば、もっと出来たはずだ。澄恋が傷つかないで済むようにもっと上手に立ち回って庇うことも、火災の犠牲者を出さずに済むことも――それがどれだけ難しいことかも知りながら、『最善』を望まずにはいられない。それを成すための力を持たない自分が許せない。耀 英司はそういう男だ。
目の奥が熱くなった。目が、脳が、顔が、腕が、全身が――怒りの熱で煮えたぎる。焔心と己に対しての強い憤りと怒りが爆ぜそうになり、ぽたぽたと低間隔で音を立てている点滴へと意識を集中させた。
(身体は……動く。問題ない)
傷自体も『表面的には』は治癒魔法で塞がっているはずだ。骨の幾つかは折れているようだが、脚が動き、手で物が掴めるのならば問題ない。悪い仇に殴りかかれるし、澄恋を抱えて駆けることさえできればそれでいい。
点滴は、残り半分。だが、もう良いだろう。充分治療は受けた。『医者』は怒るだろうが、それは『見つかってしまったら』の話だ。見つからなければいい。英司は点滴の針を引き抜くと、自身の普段着を探した。几帳面で真面目な医者のおかげだろう。三つ揃えのスーツは皺が入らないように棚の中に吊るしてあった。
入院着を脱ぎ捨てるとシュルと音を立ててスーツへ腕を通し、ネクタイを締め、手袋をし、仮面をはめる。小さな洗面台に備え付けられた鏡に『
一刻も早く、英司はあのニヤケ面を拝んでやりたかった。
●医者と患者
赤い炎が人々を飲み込んだ。
誰もが
仲間たちとともに先へ進むことも出来た。その背を追いかけ、彼等が負う怪我を少なくすることが出来た。
けれど聖霊は、そうしなかった。
沢山の負傷者が出ている場において、聖霊は『医者』である。聖霊が大事にすべきは患者であり、まだ救える命。こと命に関しては、悪人も善人も関係ない。悪も善も救えるだけ救う。命さえあれば、悪人には然るべき罰が下るのだから。
足元に敷かれた見えない境界線と、踵を返した己の行動。それら全ての行動に後悔なんてしていない。聖霊はやるべきことをやったし、事実、沢山の命が聖霊によって救われた。処置が遅ければ助からない命が山と出てしまうところであった。火災が恐ろしいのは、豊穣でも深緑でも同じだ。火が禁忌とされている分、深緑の方が安全なくらいだ。
――後悔はしていない。けれども割り切れないことはある。
「ったく、無茶しやがって」
「すみません」
苛立ちを隠さない言葉に、直ぐ様しおらしい声が返った。
が、騙されてはやらない。こいつは何度も無茶をする愚か者その1、名前は澄恋だ。
「左目を使うなと俺は言ったはずだが?」
「すみません、聖霊様」
とある依頼で傷を負った澄恋の左目は、必ず俺が治すと告げてある。
使わないように気をつけること。清潔を保つこと。定期的に見せに来ること。
幾つかの注意点はどれも簡単なはずなのだ。なのに澄恋は無理矢理左目を開こうとし、悪化させる。医者からすれば何してんだ? とキレる他あるまい。
「余計に怪我も火傷も拵えやがって」
「申し訳ありません」
「謝るだけじゃ意味ねえんだぞ」
行動が伴わねば、それはただ言葉を発しただけだ。
解っておりますといつも通りの明るい笑みを浮かべる澄恋は、怪我が絶えない。前衛であるため多少の怪我は致し方ないが、最近はすぐに治らない怪我ばかりを負い、治る前にまた新たな怪我を負うものだから増える一方だった。左目から始まり、脚の腱。そして今回は火傷に骨折、
そんな怪我に慣れっこな彼女だが、今回は心までは元気と言えなかったようだ。
(……無理してんの、バレバレすぎんだろ)
空元気の作り笑顔。患者の機微に目を光らせる医者が見抜けぬ訳もなく。
けれど、それを真っ直ぐに指摘はしない。
この松元診療所へ連れてきてすぐの彼女の状態は、とても酷いものだったから。
『わたしよりも、英司様を! 聖霊様、お願いです! 英司様を助けてください!』
火傷だらけの傷だらけ。そんな状態で彼女は聖霊にすがり、涙ながらに頭を下げた。英司の治療を終えるまで自分は治療を受けないと、頑なだった。
疲れ果てた身体は意識を手放したいだろうに、治療を終えるまで休みたくもないと、身体に余計な負荷をかけてまで耐えようとする
慌てて澄恋に駆け寄り処置を施したところまで思い起こし、少し、引っ掛かった。
(……ん、何か)
(まあ、自分のせいでって責めることはままあるよな)
……聖霊は医者として見抜く力はあるくせに、恋愛方面の機微が全く理解出来ない男である。――まだ先の話ではあるが、治療の関係で幾度も顔を合わせている雫石の恋心に気付かないくらい、松元 聖霊という男は鈍感だ。彼の瞳に彼女は患者としてしか映っていないことを彼女は理解しており、告げること無く彼女は『外』で覚えた初めての想いを胸にこの先を生きていくのだろう。
つまり、其れほどまでに鈍ちんな男なのである。処置を終えて目覚めた澄恋が櫛を握りしめて物思いに耽っていても、悲しげに自身の髪を撫ぜていても、『髪は女の命って言うもんな。澄恋も髪が大事だったんだな』と思って彼女の髪が早めに元通りになることを陰ながら祈る程度で、そこに男女の機微があるとは露ほどにも思わなかった。
「なんでまたお前ら無茶して傷ついてんだ」
ふたりは重傷だ。医術と魔術のお陰で見た目は取り繕えても、失った血肉は戻っては来ない。そのためにも体は休息を欲し、短い起床時間をおいて聖霊の眼前で澄恋は眠りに着いている。
体は常に生きようとする。生きるのに必死な体を見ては、聖霊はいつも安堵した。生きようとしていることが嬉しい。まだ救える命であることが嬉しい。
だというのに。
「……俺の居ないところで怪我、するなよ」
すぐに治してやれないじゃないか。
軽い問診の後に眠った澄恋の顔を見下ろして、聖霊は拳を握りしめる。
医者にとって、傷や病を癒やす者にとって、自身の健康状態は大切だ。病気や怪我をすれば治療に差し支える。――そう解っていても、自分が無傷なのに仲間が知らないところで傷つくというのは、どうにもやるせない気持ちを抱かせる。
医者である以上、割り切らねばならないと理解している。
けれどもどうしたって、聖霊は医者である前に『人』なのだ。
溜息をひとつ零し、聖霊はカルテを手に澄恋の病室を後にした。
●
炎の中に、大事なもの消えていく。
ごうと燃え上がる炎の中に、仮面の男が飲み込まれた。
慌てて手を伸ばすと、懐からポロリと櫛が転がり落ちて、それすらも炎に飲まれた。
(焼けていく、焦げていく、燃えていく、わたしの大事なものが――!)
伸ばした指先が炭化して、ぼろりと崩れていく。苦労していた時よりも随分と綺麗になったのに――喪われた。
特有の嫌な香りに気付けば、水色の髪がチリチリと焼けていく。大切にしようと決めて、毎日時間を掛けて椿油と櫛とで手入れをしていた髪。大きな手のひらが掬って、いい香りだといい手触りだだと、褒めてくれるのを少しだけ期待していたのに――喪われた。
「ぁ……っ、ああ、ああぁぁぁあ!」
大切なものは、全部失われる。奪われる。
人も、者も、思いも、在り方も、信頼も、自分自身の価値さえも、全部。全部、全部、全部!
嫌だと首を振れば赫が散り、手で触れると目と口から血が溢れていることに気がついた。誰かが見たら、般若と思われる姿をしているかもしれない。――それが、わたし。
(いいえ、違う。わたしだって、わたしだって)
愛される努力をした。獄人と嗤われようが、心まで鬼となったつもりはない。
(――わたしがもっと強かったら)
失うことはないのかもしれない。
(あなたが庇う必要がないくらいの強さがあれば)
あなたを守れ、怪我をさせず。
仲間からの信頼を失わず、嫌われず、求められ。
そうしてずっと愛されて――……
――力をやろうか?
「――わたし、は……ッ!」
溺れかけていた水面から顔を出したように、澄恋はハッと目が覚めた。視界に入るのは、異国の天井。すぐに夢を見ていたのだと気付き、苦しげに握りしめていた掛け布団から力を抜いた。
奪われる前に全部殺してしまえば良いと囁くような声が耳に残っている。幻聴だ。
まなうらで赤が揺れている。あれは夢だ。
手の甲で瞳を覆い、嗚咽を零しそうな唇を歪めわななかせる。
あれは夢だ。しかし、半分は本当のことだ。
(英司様、ごめんなさい)
彼に、酷い火傷を負わせてしまった。櫛まで贈ってもらったのに、髪も傷めてしまった。
信頼できる医者――聖霊が治療をしてくれたから、彼は大丈夫なはずだ。
けれど。
(会わせる顔がありませんね……)
痛みに眉を寄せながらものそりと起き上がり、サイドテーブルにある手鏡を手に取った。映り込む、酷い顔。暗い表情に、涙の跡。顔にもガーゼが貼られ、髪はボサボサだ。数日前までは日々髪が綺麗になっていっているようで、手鏡を覗き込むのが楽しかったはずなのに――見る影もない。
手鏡を戻し、脚を曲げて膝を抱く。落ちてきた髪をひとつまみすれば、ぐっと胸底から悲しみが込み上げてきた。
(わたしがもっと強かったら……)
何度だって同じ思いが湧いてくる。涙が滲みそうになり、澄恋は膝へと顔を埋めた。
――コンコン。
木を叩く音。誰かが扉を叩いたのだと気付き、飛び跳ねそうになりながら顔を上げ、慌てて目元を擦る。しかし視線を向けた先の病室の扉は既に開かれていて、見られていたかもという羞恥が――驚愕で消し飛んだ。
そこには、普段通りの『彼』がいた。
「英司さ――」
「ここは、どこですか? アンタは一体……なーんてな。よう、無事か?」
彼が、立っている。痛みも無さそうな様子で歩いている。普段通りの軽い口調で話しかけてくるその姿に、澄恋の胸に安堵が広がった。
「英司様傷は……も、もう歩いても大丈夫なのですか? 聖霊様は……」
「ああ、この通りだ。聖霊? 見ていないな」
つまり、動いたら駄目とは聞いていない。直接は。
まぁるく見開かれた菫色が、英司の頭の天辺から爪先までを何往復もする。いつも通りの仮面に、いつも通りのスーツ。歩く姿に大きな違和感は感じず、「見た目ほど酷くなかったんだぜ?」と肩をすくめてみせる彼に「流石は聖霊様ですね」と眉を下げて聖霊の医術に感謝した。
「英司様、わたしは、わた――」
彼にはたくさんのことを謝らなくてはならない。庇ってもらったのに、協力してもらったのに、仕留められなかったこと。櫛まで貰ったのに髪を駄目にしてしまったこと。己の不甲斐なさを謝らなくてはと口を開き、焦げている箇所を隠すように髪を握りしめる。体は強張り、言葉も詰まる。けれども言わなくてはと、申し訳無さと
「澄恋」
ぽん、と頭に手が置かれた。
軽くぽんぽんと弾んでから、手はするりと髪を撫でていく。
(……守りきれなかった)
澄恋の状態の悪さは、己のせいだと英司は思う。彼女が気にしてくれていることへの愛しさと、守りきれなかったことへの悔恨。そしてやはり、原因となった焔心への怒りが燃え上がる。
「俺はアイツを追う」
小さく澄恋が息を飲んだ。
「誰かが終わらせなきゃいけない。その誰かは、俺達だ」
内緒話をするような小さな声は、怒りもあってか低い。
「英司様」
澄恋が手を伸ばし、英司の袖を握る。
「止めても無駄だ」
「いいえ。いいえ、英司様」
ふるふるとかぶりを振れば、焦げ目の目立つ髪が大きく振られた。
「わたしも連れて行って下さい」
約束、したでしょう?
澄恋の瞳が色を変えた。弱気な色から、強く勝ち気な色へ。
野に咲くすみれは、踏まれておしまいなだけの花ではないのだから。
澄恋の病室の扉が開いていた。英司の様子を見に行く途中だった聖霊は、不思議に思って覗き込む。
(――英司、お前!)
絶対安静なはずの英司が歩き回っていることに怒りが浮かんだが、咄嗟に怒鳴り声を引っ込めれた自分を聖霊は褒めてやりたい。英司が目覚めてすぐに澄恋を案じたことと、そしてしょげているであろう澄恋を励ましに来たのであろうことが解ったからだ。
しかし、それはそれだ。絶対安静なはずの患者が動き回るなど到底許せる話ではないし、英司自身も状況を理解しているはずだ。早めに病室内に飛び込んで、英司を病室に連行し――それでも動こうとするのなら魔法でも何でも使ってベッドに括り付けねばなるまい。医者の言うことを聞かない患者を好む医者なぞ居ない。清潔、安静、治療専念、は絶対だ。
お前らー! と怒鳴り込もうと一歩前へと足を踏み出した――足が止まった。
(…………ん?)
英司が、まるで慈しむような手付きで澄恋の髪に触れた。
見上げる澄恋の表情も、聖霊の『知らないもの』だった。
時折自身が向けられ、気付いたとしても無視を決め込む――
(…………?)
既視感を、覚えた。つい最近、似た気持ちを覚えた気がする。
疎外感を、覚えた。ふたりの関係と聖霊、病室の中と外で線が引かれている気がする。まるで仲間はずれにされたような、そんな気持ちが近い。
――その戸惑いがいけなかったのだと、数分後の聖霊は思うことになる。
澄恋に顔を寄せた英司が何事かを囁き、澄恋が微笑み何かを告げる。
澄恋の両腕が持ち上がり英司が身をかがめて彼の首へと回されれば、澄恋の体は英司の両腕によってベッドから浮かび上がった。
「――ッ、英司、お前!」
「あ、やべ」
今度は我慢せずに声を荒らげた。
「澄恋を置け! 病室に戻れ! 点滴もまだ終わっていない時間の筈だ!」
ズカズカと大股で病室を横切り、ふたりへと近付く。
「点滴ぃ? 何だったか、それ。ああ、あれか? 腕に刺さってたやつ。もう終わってたぜ」
「嘘をつけ! 俺は医者だぞ、騙されるか! 大体お前らはな」
澄恋を抱えた英司が窓際へと移動し、聖霊は掴みかからん勢いでふたりに寄る。
英司の動きは、本調子とは程遠い。傷を庇った動きに、聖霊の眉がきりりと跳ね上がる。こみ上げるのは心配ではない、怒りだ。痛いはずだ。つらいはずだ。安静にしていなくてはならないはずだ。英司自身もそれを解っているだろう。それなのに――!
「治療、サンキュー。助かったわ。そーいう訳で、ちょっと行ってくるわ」
「聖霊様、お土産、期待していてくださいね」
両手が塞がっている英司のかわりに澄恋が窓を開け、英司が素早く窓枠へと飛び乗った。
「ッ、待て!」
聖霊が手を伸ばす。
手は、届かない。
「……素直に痛いって助けてって言えよこの馬鹿野郎」
小さな呟きと舌打ちも、ふたりには届かない。
まるで
(次に会ったらただじゃおかねえぞ)
矢張りああいった医者の言うことを聞かない患者はベッドに括り付けねばなるまい。拘束具付きのベッドがお似合いだ。探し出して捕まえたら覚えておけよと、聖霊は窓枠を強く握りしめる。
ふたりの姿は既に見えなくなっていた。
春が近付くある日、澄恋は本懐を遂げることとなる。
その時また聖霊は、腕の中に残された打ち掛けに絶望し、叫び、そうして本懐を遂げた澄恋を怒鳴りつける日が来ることを、まだ知らない。何度叱りつけたって、この命知らずの愚か者たちは何度だって無茶をし、此方の胃が痛くなるのも構わず死に体になる。死地を高らかに笑いながら闊歩してしまうのだ。
命知らずの愚か者たちに効く薬が無いのだと認めた時、医者はきっと実力行使に出るだろう。
覚悟しとけよ、この大馬鹿野郎ども!