PandoraPartyProject

SS詳細

今井さんの出張の日

登場人物一覧

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

 今井さんがいなくなりました。
 いえ、いなくなった、というのは何とも違くて。
 もともと、今井さんがどういう存在なのか、私にもわからないのです。
 精霊みたいなものなのか、魔術的な使い魔なのか、本当にそういう人がいて召喚しているのか。
 誰に聞いても「よくわかりません」と答えますし、今井さんに聞いてみても、笑顔でごまかされるだけなのです。

 そんな今井さんが、いなくなりました。出張届け、というような書類を、私の部屋に突然送ってきて。
 諸々のスキルアップのための研修に参加してまいります。
 シンプルですけど、何か説得力のある文書でした。

「研修、かぁ……」
 ふと、私も呟きます。スキルアップのための研修、というのがビジネスマンのようでクスッとしてしまうのですけれど、これは要するに、修行、というようなことなのでしょう。
 そうなると、私も何か――頑張らないと、という気持ちになります。
「今井さんが出張から帰ってきたときに、私がのんびりしていたら呆れられちゃいますよね」
 それに……今井さんが頑張っていた間に、私もちゃんと頑張れたんだって、伝えてあげたい。
 今井さんとは奇妙な関係です。武器、ということになるのでしょうか。攻撃だけの後腐れのない関係、という触れ込みで契約しました。
 ……でも、それだと、なんだかさみしくて。
 お話ししたり、お仕事のねぎらいを兼ねて、お食事をしたり。
 ……私は、戦友というか、友達みたいなものだと、思っているのです、が。
 今井さんがそう思っているのかは、解らないところがあります。ミステリアスなので。
 でも、今井さんが、研修に行く、と言ったということは。
 ……私と一緒に、頑張りたいって、思ってくれてくれているのだと、うぬぼれてもいいのでしょうか。
 だからこそ、私も頑張りました、と、伝えたいのです。
 肩を並べて、一緒に仕事をする。同僚として。
「……まずは、今井さんなしの戦い方を会得しないといけないかもですね……」
 ふむ、とうなってみます。どんなことができるのだろう。私は、何ができるのだろう。
 そんな悩みも、今は、楽しく思えてきます。
「……また、お会いしましょうね、今井さん。その時は、私もずっと、成長していますから!」
 出張届けの書類に、私はそういってほほ笑みかけました。
 今井さんとの、少しの間だけの別れ。
 それは、素敵な再開に、私たちを導いてくれるはずです。


PAGETOPPAGEBOTTOM