PandoraPartyProject

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華開ク、死ノ呼ビ声

登場人物一覧

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

 五月二日。うららかな午後。
 世界はどうしようもなく『平和を取り戻していた』。
 無論、事件は起こっている。例えばラサでの事件であったり、幻想での事件であったり。
 でも、その直前、鉄帝での事件は無事に解決を見、間違いなく、かの国は平和を取り戻したといえる。
 だからひとまず、『平和を取り戻した』と、そういって間違いない。
 だから今は、そんな平和の中に、ブランシュはいた。
 ……戦いは終わった。革命は終わった。
 クラースナヤ・ズヴェズダーの一員として戦った日々。それがどのような結果をもたらしていくのかは、解らない。クラースナヤ・ズヴェズダーの求めるそれかはさておいて、伸ばした手に、何かを得たのは事実である。
 だが、その伸ばした手が、届かなかった人もいた。
 あの人は死んだ――空に消えた。最後に何を思ったのか、ブランシュにはわからない。ただ、漠然と――自分は命を託されたのだ、と思うようになった。
 届いたもの。
 届かなかったもの。
 穏やかな太陽に向かって手を伸ばす。黒くはない、暖かな、自然のそれ。手のひらを透かして見える陽光のまぶしさに目を細めてみれば、何か、問いかけるような、そんな声が頭の中に響くような気がした。
 何かが、ムズムズする。心の内が。居ても立っても居られないような、そんな感じ。何かを得たくて、でもその何かがわからなくて。何かを求めようと足掻き、その『何か』が具体的になんであるのかもわからない。
 嫌な言い方をすると、今から『自分探しの旅に出ます』とか言っちゃいそうな精神状態!!!
 そう! 思春期であるッ!
 年頃の男女が、なんか妙な全能感とカ虚無感とかに苛まれて、痛いことをやりそうになる、そういう多感な時期ッ!
 もちろんそれは悪いことではない。大人の階段の第一歩だ。ブランシュがそういったことを今まで感じていなかったのならば、リアルト博士はお父さんとして赤飯を焚いてあげようと思います。
「うるせー! 親父面すんな!」
 脳裏に浮かんだ製作者の顔に中指をおったてながら(悲しそうな顔で博士が消えた)、ブランシュが頭を振った。そう、思春期であり反抗期である。
 じろり、と空を見上げながら、ブランシュふと、その空にあった、空中庭園を思い出した。思い出すのは、ブランシュが目覚めたとき。つまり、イレギュラーズとして召喚された、あの時――。
 世界を救う、さだめを背負った、あの瞬間。
 ぱぁ、とブランシュの顔が輝いた!
「それってつまり――ブランシュが、いや『俺は世界に選ばれた』って……コト!?」
 ろくでもねぇことを言い出したのだ! いや、これはまぁ、しょうがない。思春期だからね。こうもなる。そして、往々にしてこうなった思春期の少年少女の行動力はすごい。まずは盗んだ自転車とかで走り出そうと思ったが、やめた。
「そうなると、こんな親父に着せられた服なんて着てられねー!! もっとシルバーとかまかないと!」
 頭の中のリアルト博士が悲しい顔をした。まぁ、そんなもんはどうでもよかった。まずはファッションだった。これを変えねばならない。ブランシュは、練達の†ダーク†なお店に向かった。ダークといっても、つまりなんかそういう服を売っているお店で、別にやばい店ではない。

 行った。

 帰ってきた。

 さて、ここでもう一人(?)のキャラクターが登場する。凍狼の子犬ちゃんである。フローズヴィトニルの欠片でもあった子犬は、主人が暴れているのを氷のような目で見つめながらお昼寝していたわけだが、帰ってきた主人を見て、その目がさらに冷たくなった。
 黒かった。
 主人は黒かった。
 なんかこう……ビジュアル系バンドを誤解したバンドファンのような、そういうかっこう。
「かつての俺に、別れを告げたのさ……」
 主人が言った。
 そう言われても。
「革命の乙女は眠りについた。今、俺は――タナトスだ」
 何言ってんだこいつ、と子犬は思った。ゆっくりとタナトスさんは子犬を持ち上げると、
「今日からお前の名は――救世主メサイアだ」
 マジで言ってる? と子犬は思った。子犬は賢かった。タナトス主人が、いわゆる『中二病』に目覚めたことを、充分に理解していた。
「わん」
 メサイアが鳴いた。
「そうか……お前もこの窮屈な世界に生まれて、苦しいのか――」
 タナトスが言った。
「わんわん(何言ってんだお前)」
「俺たちは……この腐った世界に生まれた……warriorさ……」
「わわん(それはまた違う病気では?)」
「わかるさ……」
 何も伝わってねぇ、とメサイアは思った。中二病は往々にして、独自の世界観から出てこないものである。だが、これもまた、情緒の成長過程の一つである。
 ならば、喜ぼう。
 無垢なるものが、一つ、大人の階段を登ったのだ、と。
「散歩さ……メサイア……」
 と、タナトスが言ったので、メサイアは、わん、と嬉しそうに鳴いたのだった――。


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