PandoraPartyProject

SS詳細

褪紅色の君

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
琉・玲樹(p3p010481)

「琉珂」
 呼び掛けた玲樹の声に気付き、琉珂は花綻ぶように笑みを浮かべた。その手にはトートバックがしっかりと握り締められている。
 玲樹が琉珂と待ち合わせしたのは幻想王国にある桜の名所であった。分かり易い場所で合流し、のんびりと花見をしようというのが彼のプランだ。
「玲樹! こっちこっち!」
 手を振る琉珂はトートバックを揺らさないように何時もよりかは動きは緩やかに。それでも楽しみだという事を隠しきれないのか満面の笑みを浮かべていた。
 それは彼女の姿を見るだけでも良く分かった。着用して居るのも彼女が「折角のお花見なら桜色よね」と言って選んだ桜色のカーディガンである。
 里の外に出てからというもの、彼女はお洒落と食事を思う存分に楽しんでいる節がある。
 時折、玲樹も琉珂と共に食べ歩きやお洒落をしに出掛ける事がある。その際にはカラーリングの違うペアルックを選んでは外の文化を二人で楽しんでいた。
 可愛らしいカーディガンも出掛けることを決めた際に琉珂が「選ぼうと思う!」と玲樹を買い物に引っ張っていったときに購入した物だ。
 控えめなカラーリングのシャツワンピースにはレースのペチコートを逢わせているのだろう。ブーツの上でふわふわと揺らぎ可愛らしい。
 玲樹も柔らかな素材の白のスタンドカラーシャツと細身のズボンを合わせていた。カラーリングを少しに似せたのはペアルックで桜を楽しもうという琉珂の発案である。
 曰く――仲良しはペアの服を着るの、だという。
「今日のカーディガン似合うね」
「玲樹も蒼いカーディガンが似合うわ。あ、あのね、青色って、縹色っていって、えっと『花色』ともいうらしいの。
 桜色の私と花色の玲樹でお花見には完璧の装いだとは思わない? 凄く綺麗な色だもの、見る花たちも私達に釘付けよ」
「花が俺達を見るの?」
 玲樹が揶揄うように問い掛ければ琉珂は「そうよ」と自慢げに胸を張る。楽しげな彼女のトートバックを受け取ってから玲樹は逸れないようにと手を差し出した。
 手を握り締めたのは恋情や甘ったるい片恋ではない。ただ、大切な友人と逸れないためだった。
 都市は玲樹の方が3つも上になるが、外見的には琉珂の方が少しばかり大人びて見える。それは玲樹の成長が緩やかであることと、琉珂が4月に誕生日を迎えたばかりであることにも起因していた。
「琉珂は誕生日だったよね。また一つ大人になっちゃった」
「そうなの。玲樹が大人へと開花する第一歩だね、って言うから……今日はね、ちょっとだけお姉さんな格好をしたのよ」
 少しばかり照れくさそうな彼女に玲樹は頷いた。似合うよと口にする度に、彼女が朗らかに笑うのは微笑ましい。
 また一つずつ大人になる彼女は、屹度綺麗になる。玲樹の事を置き去りにして、大人の女性になってしまうのだ。そう思うだけでも寂寞がちくりと胸を刺す。どう足掻いたって、自らは幼い子供の外見の儘で緩やかに、緩やかに成長をしていく事になる。年齢だけでは上であれど外見の差が自身達の間に横たわっている気がした。
「あ、玲樹! あそこ、お団子が売ってるわ! みたらしと三色団子とどっちが良いかしら? ま、迷う……」
 ――ああ、けれど、彼女が少しばかり幼い様子で笑うから、今はその差を如実に感じず居られるのだろうか。
 繋いでいた手を離して、走り出そうとする琉珂に「お姉さんなんじゃないの?」と揶揄うように声を掛けた。はっとしたような顔をして、琉珂が照れくさそうに笑ってから「やっぱり私にお姉さんは早かったかも」と肩を竦める。
「ゆっくり大人になれば良いと思うよ」
「そんなこと言って。玲樹は屹度、いつまでも私のお兄ちゃんのように振る舞うのよ」
 唇を尖らせた琉珂に玲樹は曖昧な笑みを浮かべた。彼女は順当に大人の姿になっていく。これから歳を重ねて、凜とした『フリアノンの里長』となった時に玲樹はどの様な姿をして居るのか――自分で分かって仕舞っていた。
 彼女が大人びた姿になった時にも玲樹は未だ変わらず幼い少年の姿をして居るのだろう。彼女が徐々に年老いていく時に、自分は緩やかな変化の中で暮らしていることを実感してしまう。
(何だか、年齢は俺の方が上なのに、琉珂の方がずっと大人になって行くんだろうな。……少し寂しいような……)
 ぼんやりと店舗の前に立った琉珂を見詰めてから玲樹は首を振った。今はそうした事を考えるのは辞めよう。気が滅入って仕方が無い。
「玲樹ー?」
「ああ、ごめんね。折角なら気になる物全部買って分け合おうよ」
「そうね。そうしましょう。みたらし団子と三色団子2本ずつ下さい! それからお茶も!」
 嬉しそうに身を乗り出した琉珂に玲樹は「あ、ついでにあんこのお団子もお願いします。それからきなこも」と追加で注文する。
「食べきれるかしら?」
 顔を見合わせて笑い合った玲樹と琉珂は団子が入った袋を下げて桜並木を歩き始めた。
 ふわふわと舞い散る花びらの下を迷うことなく歩いて行く。足取りは軽やかに、何処へ行こうかと話すだけでも心が躍る。
「何処で食べようか迷うね。河川敷とかで座って桜を見ながら食べるのも良さそう」
「あっちのお日様の下のベンチもよさそうよね。あのね、今日は座るときにレジャーシートっていうのを持っていると良いって聞いたのよ」
「あ、俺も持ってきてた」
 準備はバッチリだったと顔を見合わせて笑った玲樹と琉珂はそそくさと川へと向かった。河川敷に枝垂れた花が美しく、花片が舞い散るごとにゆらゆらと揺らぎながら流れていく。
 散っていく花びらは儚いが、花筏は美しく見るだけで心を和ませる。
 団子を広げた琉珂は「どれから食べる?」とウキウキした様子で玲樹に問い掛けた。まずは、暖かな餡の掛かったみたらし団子からだ。
 一口頬張るだけでその甘さが感じられる。ほっこりとした笑みを浮かべた琉珂が「正解だった~!」と嬉しそうに体を揺すった。
「暖かいし、柔らかくて美味しいね。みたらし団子はやっぱり暖かい内に食べるのがいいかも」
「冷たくなってからもまた別の食感があって良いのよね。一度に二度美味しいって最高じゃない?」
 団子を頬張りながら、琉珂は「ねえ、玲樹」と囁くように問うた。玲樹は「ん?」と仕草だけで返す。頬は団子で一杯で、今は声が出せそうになかった。


「玲樹の一族はゆっくりと姿が変わっていくでしょう。だから、私がお姉さんになったら寂しいのかなって」
「んぐ……」
 見透かされていたのかと慌てた玲樹が団子を喉に詰らせそうになる。琉珂はくすくすと笑ってから「落ち着いて?」と声を掛けた。
「でも、それって良いことだと思うの。私がね、うんとおばあちゃんになったって玲樹はずっと傍に居てくれるって事でしょう?
 私は長生きできる一族ではないから、緩やかに、生きて。緩やかに、死んでしまう。そうした時に私の大好きなフリアノンを見ていてくれる友達が居るだけで嬉しいの」
 琉珂は里長だ。フリアノンを護る使命を帯びて、ずっと生きてきた。その決意と覚悟には変わりは無いからこそ――
「この花を見たことも褪せないまま貴方に残る。それって素敵じゃない? だからね、覚えて居てフリアノンを護ってくれる友達が居て良かったなーなんて」
「……ふふ」
 琉珂ってば、と頬を突いた玲樹に琉珂は嬉しそうに笑った。
 そう言われれば、寂しさだって少しだけ和らいだような気がしたのだった。


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