PandoraPartyProject

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献花

登場人物一覧

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ


 ピーーーーーヒョロロロロロ――………。
 高い高い上空を、猛禽と思しき鳥が飛んでいく。冬眠から目覚めた小動物を狙っているのだろう。鉄帝ではよく見られる『春の風物詩』のひとつだ。
 吹き抜ける風にあおられる髪を押さえ、見上げる山々の稜線は未だ白い。夏が訪れても白い帽子を外せないあの山々が緑になるのが見たい。そう兄に言ったのは幾つのことだっただろうか。
(確か兄様は――)
 雪解けのような優しい笑みで笑っていた。私も見たい、と。お前が大きくなるまでに見れるといいな、と。愛おしげに私の髪を撫でて。
(兄様、私が大きくなっても、あの山々は帽子を外しませんでしたよ)
 上げていた顎を下向け、地面を見る。雪が溶けて草が見えているこの場所には幾つかの石碑はかがあった。
 記名はない。カーリン家は廃された家だから、家門の墓を持てるはずもなく。
 だから、作ったのだ。そこに体がなくとも、そこに骨がなくとも、魂が寄る辺として安らかにあれるように。
 年季のあるものは両親の墓。――一応そこは今まで、兄の墓でもあった。
 兄が死んだと、ずっと思っていたから。
 しかし兄は、死んでいなかった。死の淵から這い上がり、這いずり、魔種へと堕ちていた。
 纏う空気が変わった。見目も変わっていた。少しも優しい顔も声もくれなくて、兄の心は凍ってしまったのだと、少し悲しかった。
 ――けれども変わらず真面目で、妹に甘い兄だった。
(大好きな兄様。私、生きていきますね。幸せになります)
 最期の『ダンス』と最期の『抱擁』。あの時あなたは、そう願ってくれたのでしょう?
 持ってきていた白い花束がふたつ。
 ひとつは両親の墓へ。もうひとつ新しく横に作った兄の墓の前へと供える。
(兄様、私今、既に結構幸せなんですよ)
 支えてくれる仲間たちが居て、寄り添ってくれる親友も居る。
 貴族の令嬢として家に居ることが義務付けられていたら得られなかったものが、今の手の内には沢山あった。
(もっともっと幸せになりますから)
 だから――。
「ずっと、見守っていてください」
 いつかお側に行くときが来たら、どう? と胸を張って言えるぐらい、幸せになろう。
「さようなら、兄様」
 別れの言葉と、それから「また来ます」と微笑んで、兄と両親に背を向けた。
 ふわりと柔らかな風がレイリーの髪と供えた花弁を舞い上げる。
 その風は先刻から吹く風よりも、少しだけ冷たかった――。


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