PandoraPartyProject

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お花と『たのしく』会話しよう!

登場人物一覧

サクラ・アースクレイドル(p3p007248)
平穏を祈る者

 ――植物疎通。
 弱いイメージでしか伝わらないが、なんとなく植物の言葉を理解できるスキル。
 これと自然会話や自然知識を組み合わせることで、楽しく植物と会話することが出来る。

 けれど、それは時には聞いてはいけないモノさえも受け取ってしまう。
 気づかないとソレは永遠に意識の隙間に入り込む。
 いつしか、ソレが中心となってしまうこともあり得てしまう。

 だから、気をつけなければならない。
 『ソレ』が自分の意識を奪うことがないように。


 これは幻想国で起きた平和な一日。
 ちょっぴり不穏で、とっても楽しい。
 そんなひとときの物語。



 晴れやかな日。
 幻想国では今日もいろいろな出来事が起きているが、そんな中でもサクラは外に出て、ジョウロに水を入れていく。
 ちゃぷちゃぷと音を鳴らすジョウロから水をこぼさないように慎重に、慎重に持ち運び、ガーデニングエリアまで持ち運ぶ。

 柔らかな日差しがサクラの身体に降り注ぎ、暖かな風がサクラの身体を柔らかくなでていくほどの穏やかな日。
 自宅の植物達が水を欲しがっているという『言葉』を聞いて、いくつものジョウロを用意していた。

「皆さん、おまたせしました~」

 片手で持ち上げることが出来るジョウロに、溢れんばかりの水を入れて。
 ゆっくりと、少しずつ傾けて小さな雨を植物達に降らせていく。

 今日、この瞬間だけはサクラは植物達にとっての雨の神様。
 乾いた土にたっぷりの水分を与えてくれる優しい神様。
 自分達の声を聞いて、自分達の体調を心配してくれて、自分達を守ってくれる神様。

 植物達からサクラへ向けられる眼差し(?)は、常人には気づくことは出来ない。
 けれど植物疎通を持つサクラなら、ちょっとした変化で自分に向けられる感覚が色々と分かる。
 だからこそ、豊富な水分によって植物達が元気いっぱいになっていく様子を『言葉』で聞いていた。

「あらあら、今日はいつにもまして元気なんですね、チューリップさん」
「ワタシですか? ふふふ、今日も元気なのです」
「少しだけ、■■様にお声がけを……あっ、そういえば今日のお水美味しいですか?」

 少々不穏な言葉を呟くサクラ。■■様というのは何かの神様か、それともサクラ自身が崇拝する何かか。
 どんなに会話を広げても、彼女の口からは決して語られることはない。
 ……語られることはないというよりも、『語るに至れない』と言ったほうが正しいかもしれない。

 しかも、彼女の言葉は節々に妙な違和感がある。
 それは本人が気づくことはないし、植物達も気づいても誰にも喋ることが出来ない。
 植物疎通と自然会話の両方が出来る彼女のみの、不可思議な空間が今そこには繰り広げられていた。

「あ、そういえば。新しい肥料を購入してみたんですよ。皆さん、如何ですか?」

 ふと、思い出したようにサクラは自室で買い置きしておいた肥料を植物達に見せつける。
 何処が作って何処に納品されているのやら、サクラの腕の中に「ノビノービDX」なんていう名前の肥料が一袋。
 効能的にどうなのか? そもそもそれは花用なのか? などなど、色々と気になった植物達だったが、サクラに対するツッコミが間に合うことはなく。

 ノビノービDXの袋が開けられて、少しだけ大きな粒が植物達の根本に撒かれる。
 時折、サクラが「おおきくなあれ」と呟いた直後に「■■様のために」と呟いたが、誰もその呟きに気づく者はいない。
 サクラ自身でさえも、そして植物達でさえも。

「ふう。これで皆さん大きくなれますね!」

 呟きの内容をすっかり忘れたかのような表情のサクラ。その手に残ったノビノービDXはしっかりと口を閉じて箱の中に入れての厳重保存して、倉庫に片付ける。
 植物達が勝手に使うとは思えないが、一応厳重に保管しておかないと何が起こるかわからないとはサクラの談。

 まるで、この場所には植物以外の何かがいるような。そんな物言いをしていた。



「そろそろ日差しが真上になりますね~」

 サクラがそう呟いて数分後、家に飾られている時計の針が正午を指し示す。
 種類豊富なたくさんの植物が並べられているサクラの家。正午になってもまだまだ水やりが終わることはない。

 お昼ごはんは何にしましょう? とサクラは植物達と会話を続けながら、まだ水を与えきれていない植物達に少しずつ水を与えていく。
 根腐れしないように注意深く土を見て、植物達の葉をよく見ながら作業をしていると……。

「あら……?」

 ふと、1つの植木鉢に植えられた花の調子が悪いことに気づいたサクラ。
 ごめんなさい、と一言声をかけて植木鉢を持ち上げて、くるくると花の全体像をよく確認してみる。
 その花は水を与えすぎでもなければ、肥料の与え過ぎでもないし、切られたような跡などはない。
 サクラが何かをしたわけではなさそうだ。

 それなら別の原因があるはずだと、もう一度声をかけてから葉っぱを1枚ずつ丁寧に裏返して確認してみると、その花は虫害による弱体化が差し迫っている様子だった。
 1枚の葉の裏では元気にもくもくと葉っぱを食べ進める虫がいて、サクラが見つめていることも気にせずにもくもくもくもくと葉を食べている。
 これにより花は光合成ができる箇所が減り、元気がなくなっていたようだ。

「…………」

 じぃっと、その様子を観察するサクラ。
 花からの悲鳴はちゃんと聞こえているのだろう。どうしたら良いかを思案している様子が伺える。
 だが……その思案とは裏腹に、徐々にサクラの目から光が失われていく。まるで何かに取り憑かれたかのように。

 それから数秒後に、サクラは植木鉢をテーブルに置いてから一旦室内に戻り、剪定用のハサミを持ってきた。
 しゃきん、しゃきん、と何度か刃がすんなり通ることを確認してから、サクラは件の花に「ごめんなさい」と言葉をかけた。

「せっかく元気に育ってくれたのに、ごめんなさい」
「ここの部分が悪くなっちゃってるので、切っちゃいますね」

 問いかけからすぐ、花からの返答を得られたのだろう。虫の付いた葉っぱを茎からじゃきん、と切り落としたサクラ。
 本来ならすぐに虫を排除するのが良いのだが、サクラは何故か葉っぱを両手に乗せて、虫をじぃっと見つめて呟き始めた。

 彼女が呟く言葉は植物達には聞こえない。
 けれど言葉の節々に「■■様」という単語が聞こえることから、また何かの風習のような事柄を執り行っているようだ。
 その様子はまるで、虫を「■■様」に捧げる儀式の前準備を行っているような。そのようにも見えるかもしれない。

 それからサクラは手頃な包み紙に葉っぱごと虫を包み、テーブルへと放置。
 後で捨てると言い残して、水やりの続きを始めた。

 植物達は元気に水やりを続けるサクラに「大丈夫?」と声をかけたが、サクラは何も気にする様子がない。
 むしろ先程の呟きの事さえも忘れているかのような振る舞いで、とても元気そうだ。

「ワタシはいついかなる時も、皆さんの健康を守ります!」
「虫がいても、病気になっていても、皆さんのためならへっちゃらなのです! えっへん!」

 胸を張ったサクラの自信満々な様子に植物達は何も言い返せない。
 それだけ元気そうであるならば、それだけ自信満々なら、さっきの様子は『なんでもなかった』んだと。



 そうして水やりが終わり、お手入れを終わらせたサクラ。
 次に仲間に迎える花や植物は何がいいかと思案している中で、ふと室内に飾られたある花が目についた。

 赤く燃え盛るような、赤い花。アマリリスや百合のような花弁を持っており、大きく開いた形が特徴的。
 たっぷりの水が入った花瓶に一輪だけ活けられており、時間が経ってもそのみずみずしさは保たれたまま。

 ……ただ、サクラは気づいていない。
 この花がいったい、いつからこの家にあるのか。
 そして、長らくこの花瓶に活けられているのに……枯れる素振りを一度たりとも見せたことがないことを。

 どんな花でも、土と太陽とたっぷりの水の3つが揃ってようやく綺麗な花を咲かせる。
 だとというのに……今、見つめている花は水だけでずっと咲き続け、花瓶を1つ独占している。

 もっと言えば、この花の周りだけには植物が1つもない。
 他の植物達はグループを作っていくつかの班に分けてテーブルや棚に並べられているというのに、この赤い花だけは何故か1つだけ。
 丸テーブルの中央にぽつんと置かれた赤い花。それだけが室内の中で異様に目立っている。

 普通に考えれば『おかしい』と感じるはずなのに、サクラにはその様子が見られない。
 気づいていないのか、あるいは……。

「――……」

 赤い花に目を奪われている時のサクラの様子は、またしても普段とは違っていた。
 まるでその花を信仰するかのような、言い方を変えればその花の『意志』に取り憑かれたかのような。そんな雰囲気が醸し出されている。

 けれどその見つめ合いもほんの僅かな間だけ。
 何かに気づいたサクラはぽん、と手を叩いて戸棚をがさごそと探る。

「そういえば、新しい肥料をもう1つ買ったんでした。何処に片付けましたっけ……」

 周りの植物達の言葉を聞いて、新しく買った肥料を探し出すサクラ。
 先程使ったノビノービDXとはまた違い、今度は保水力を高める肥料を準備していたのだそうだ。

「ふふ、これなら水が早く乾いちゃう方も十分お水をいただけますね!」
「ワタシもずっと見続けると言うのは難しいので……やはり、文明の利器とは素晴らしいものなのです!」

 その手に握られているのは「ミズヨシDX」という、これまたノビノービDX同様に何処が開発して何処が売り出しているのかわからない肥料。
 植物達からは「それがいい」や「ほしい!」と言った言葉を受け止めているのか、サクラは軽く首を縦に振って「明日から使いましょう!」と大きく宣言した。

「まずは今日、お水を上げた方でもう乾いてる方がいらっしゃいましたら差し上げますね。この肥料、お水を上げる前に撒かなきゃいけないみたいなのです……」

 肥料の取扱説明書を読みながら、ミズヨシDXの使い方を学ぶサクラ。
 本当にこれは効き目があるのか? とも不安になったようだが、その効果は明日以降になってみればわかること。
 今日は使い方をしっかり学び、植物達を傷つけるような間違った使い方をしないように知識を頭に叩き込んだ。



 その日の夜。
 植物達との会話を終えて、眠りにつこうとしているサクラの横で佇むのは……例の赤い花。
 これがないと寝付けない……というわけではないのだが、何故か近くに置いてから眠りたかったようだ。

「今日もいろいろなことをお話出来て、楽しかったです」
「また明日。皆さん、おやすみなさい」

 植物達に一言声をかけて、そのまま眠りについたサクラ。
 ゆるゆると夢心地に入って、安らかな寝息を立てて夢の世界へと入り込んでいく。

 楽しかった今日という一日が夢となって、夢の中でも植物達と語らい合っているのだろう。
 少しだけ、表情が嬉しそうな顔をしていた。



 ――その隣で、赤い花はサクラの寝息に合わせるようにゆらゆらと揺れていた。
 ――閉め切っている室内、風なんて入り込んでいないのに。

  • お花と『たのしく』会話しよう!完了
  • NM名御影イズミ
  • 種別SS
  • 納品日2023年04月26日
  • ・サクラ・アースクレイドル(p3p007248
    ※ おまけSS『肥料の効果は?』付き

おまけSS『肥料の効果は?』

「わあ……」

 翌日、同じようにジョウロを持って植物達の様子を見に来たサクラ。
 ノビノービDXの効果は凄まじく、一粒万倍と言った勢いで植物達は元気になっていた。

「すごいですねー! これなら、このミズヨシDXも期待できそうなのです!」
「……あっ、でも一緒に使って大丈夫なんでしょうか……それが書いてないですね……」

 もう一度ノビノービDXとミズヨシDXを使おうと思ったサクラだったが、ふとこれは一緒に使っていいのか? と疑問になってしまったようだ。
 まじまじとどちらの説明書を読み進めたが、ノビノービDXにもミズヨシDXも特に相性の良し悪しはなさそうだ。

 使っていいのかわからないサクラ。
 しかし、勢いの強い植物が「自分に使え!」と主張してきたため、使ってみることに。

「も、もし、ダメだったら……ごめんなさい……!」

 謝罪の言葉を告げて、勢いの強い植物にぱらぱらと肥料を撒いて水を撒いたサクラ。
 この時にはどんな効果が出てくるのか、それともダメなのかはわからなかったため、ダメ元の挑戦だった。


 ――なお、翌日とんでもない勢いで伸びつつ土の水分が保守されたままの植物が1つ見つかったそうだ。

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