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後記
登場人物一覧
情報:『診察は終了。
以後、診療録については五年の経過の後破棄、帳簿類等他の記録については三年の経過を以て破棄しておくこと。』
設定:
――――――ゴミ箱から微かに除くメモ書き。
『結論から言えば、彼女に寄生していたモンスターは最早その存在を失くしていた。
これは前提として喜ぶべきことではあるのだが、一概にそうとは言い切れない要素も在る。
先ず、彼女の左腕について。
件のモンスターが寄生した切っ掛けとなった依頼に於いて焼失した腕は、その後寄生したモンスターに因って元の形状を取り戻しつつあったが、この進行が完全に停止し、また復元されていた部分の皮膚が急激な劣化を見せている。
これに対し、魔術、練達化学双方の観点から検査を行った結果、復元部位は「まるで植物のような」枯死を迎えつつあり、恐らく最終的には彼女が腕を焼失した直後の状態にまでその細胞は死滅すると想定される。
……仮にも、一時とは言え取り戻された腕が再び失われると言う結論に対し、しかし彼女は落ち着いた表情のまま、その説明を聞いていた。
そして、もう一つ。彼女は人より多く睡眠時間を取ることが必要となった。
より正確に言うと、一度睡眠をとり始めた場合、仮に外部による働きかけが在ったとしても目を覚ますまでの時間が人より長くなった、ということだ。
この症状の理由はあくまで推察の範疇を出ないが……これまで彼女は自身の身を犠牲にしてでも、依頼や己の目的を遂行してきたと言う。
その過程で知らずの内に耗弱していた精神、要は脳や神経に及ぶ部分に於いても、寄生した彼のモンスターは補っていたのではないかと思われる。
症状はナルコレプシーのように「日常生活で急激な眠気に襲われる」などと言ったようなことは無く、あくまでも今までのそれより一時間程度睡眠時間が延びるものであり、またこれを根治する手段は我々には見いだせなかったため、我々はこれに対する強引な治療を行わないこととした。
万一の悪化が在った場合、無論その症状にあたることは有るだろうが……私的な意見を言えば、この症状はこれ以上進行しないと、私は思っている。
診察は終わった。
看るべき傷病は既に無く、何より、彼女は自らの症状をただ穏やかな表情でそれを受け入れていた。過去の彼女とはまるで違う表情で。
ならば、我々が交わることは、もう二度とあるまい』
おまけSS
――――――メモ書きが捨てられていた、診察室の出入り口で。
「お大事に」と、優しい声がひとつ聞こえた。