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夢渡り

登場人物一覧

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

 暗がりの中で愛無は目を覚ました。
 漂う甘い香りに引かれ愛無はゆっくりと歩き出す。

「ここは夢の中か」
 夢を喰らう獏馬が憑いている愛無は時々こうして夢を渡る。
 それは幻想的な青い花が咲く草原だったり、真っ暗な途だったりするもの。
 普通の人ならば忘れてしまうような、夢現のあわい。

 愛無は暴食の獣だ。
 だから、この先で待って居るのが誰か匂いで分かる。
 今は甘く濃密な金木犀の香りと交ざっているが、その血の匂いまでは消せない。
 守りたい家族(めぐり)の匂い。

 自分の方が長く生きて居るだろうから廻は弟になるだろうか。
 なんて考えながら愛無は視線を上げる。
 其処には木の幹に寄りかかって座り込んでいる廻が居た。
 大事そうに真っ黒な泥の塊を右腕で抱いている。
 近づいて見れば、両脚と左腕が黒く染まって動かせないようだった。

「この子は望まれない異物なんですかね」
 夢の中の廻は光の無い瞳で呟いた。おそらく愛無が誰かも認識していない。
 望まれない異物。愛無の心の奥底で妙な軋みが生まれる。
 同時に、それを廻が『受入れる』事があってはならないと本能が告げた。

 受入れて欲しい気持ちが分かるからこそ、それを拒絶し続けなければならないと。
 けれど、きっと廻はその異物すら包み込むのだろう。
 暴食の獣たる愛無を厭わない廻だから。

「……それは、望まれない異物だ」
 だから、愛無は教えてあげなければならない。望まれてないのだと。
 それを望んでいるのは『神の母』になりたいなんていう願望を持った狂った女だけだ。

 夢現のあわい。
 望まれない異物を受入れてはならないのに。
 黒い泥の産声を待ち望む、誰かの笑い声が聞こえた気がした。

  • 夢渡り完了
  • GM名もみじ
  • 種別SS
  • 納品日2023年03月31日
  • ・恋屍・愛無(p3p007296

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