PandoraPartyProject

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罪の色の瞳。罪の色の髪。

登場人物一覧

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 花が咲いた。
 赤い花だった。
 真っ暗な空間に、マリエッタはいる。
 どこなのかは分からない。
 此処ではない場所。
 現実ではないどこか。
 おおよそ非現実的な、抽象的な感覚を齎すそこは、言ってしまえば、心の奥底なのであろう、と、マリエッタは理解していた。
 マリエッタ・エーレイン。それが、自分かのじょの名である。
 花が咲いている。その赤い、赤い――血のような花の中心に、自分かのじょはいた。
 罪の色の瞳。罪の色の髪。
 もう一人のマリエッタ・エーレイン。いや、その言い方は、果たして正しいものか。
 もう一人の、といえば、あまりにも、他人事にすぎはしないだろうか。
 目の前のマリエッタ・エーレインは、マリエッタ・エーレインなのだ。そこに境界線はないはずだった。でも、どうしてもマリエッタには、目の前の自分かのじょが、まったく、自分とつながらないような気持を覚えていた。決定的な断絶が起きていて、その断絶のせいで、自分かのじょ自分わたしの間で、足跡が途切れているような、そんな感覚がずっと、付きまとっていた。
 目の前のマリエッタは、何も語らなかった。ただ――マリエッタを、嗜虐的な瞳で見つめるのみであった。
 苦しいのだろう、と問いかけているように感じた。それが、しわがれた老婆のような声にも、例えば録音して聴く自分の声のようにも聞こえた。ひどく、違和感のある声だけれど、それは自分の声なのだと自覚させられる、そのような感覚を覚えていた。
 苦しい、とマリエッタは思った。それは、強烈な、強烈な、喉の渇きに起因していた。
 烙印の開花。それは、マリエッタの体をひどく、酷く、傷つけるものであった。特にマリエッタの感情を揺さぶったものは、その、喉の渇きだった。耐えられないほどの、血を求める衝動であった。
 間違いなく、かつて別れを告げたものに違いなかったのに――。
 そう、マリエッタの脳裏に浮かんで、すぐに疑問符が浮かんだ。別れを告げた? 何に? 吸血衝動に、別れを?
 知識を総動員してみれば、すぐに自分の過去が思い浮かんだ。そうだ、自分わたし、かつて自分かのじょであったのだ――死血の魔女。その、過去。それは、断絶を伴ってマリエッタ・エーレインを生んだ。私を生んだ。だから、別れを告げた、と語るのは、自分かのじょであって、自分わたしではないのだ。でも、そのひどく共通してしまった『欲求』が、この時、自分かのじょ自分わたしを、酷く、近づけてしまっていた。
 血を欲するのは、と、マリエッタが言う。
 私なのか、と、マリエッタが言う。
 私は私であり、私とはすなわち私であった。断絶し、別れを告げた私たちが、今ここに、血という共通の罪の匂いを鎖にして、心の奥底で、こうして顔を突き合わせることとなっていた。
 何のために血をすするのか、と、私は考える。
 己が欲望のため、と私は思考する。
 美しさであるにせよ、喉の渇きであるいにせよ――血を欲するのは、欲のため。
「駄目です」
 と、は言った。
「そんなことは、いけない」
 と。はそう言った。
 そうでしょうね、良い子の良い子のマリエッタ。あなたならそういう。あなたはそういう人生を送ってきたのだから。
 でも、あなたは、死血の魔女なのですよ、マリエッタ。
 それは、間違いなく、自分わたしの声だった。普段から頭に響く、聞き覚えのある声だった。だからこれは、マリエッタが自身を苛んでいるのだ。身に覚えのない、知識だけの罪。それが、自らの体に浸透しているのだと、いい加減、『自らの罪と認めよ』と。
 死血の魔女マリエッタは何も言わない。ただ、マリエッタを、酷く愉快なものを見るような瞳で見つめ散るだけだ。開花した、赤の花に腰かけて、マリエッタが、壊れるのを見ようとしている。
 ああ、愚かなマリエッタ。目を逸らしても無駄なのに。あなたはどれだけ目を逸らしても、魔女のその先なのですから。
 自分の声が響いた。響いた……頭の中に、何度も。死血の魔女マリエッタは笑っている……。

「――!」
 ふと、ベッドから跳び起きたことを自覚した。カーテンの隙間から、朝の木漏れ日が室内に差し込んでいることを理解した。
 息が荒い。ひどくうなされていた様だった――いや、覚えている。毎夜のように見る、この夢のせいで。
 起きて一番に、喉が渇く。血が欲しくなる。それは、もう存在しないはずの記憶を想起するように、マリエッタの体をぐちゃぐちゃにかき乱すようだった。苦しい。耐えなければならない。耐えなければ。
 マリエッタは起き上がって、お気に入りのドレッサーの所へ向かった。
 大丈夫。大丈夫。私はまだ、私。
 心が、自分を維持していることを自覚しながら――マリエッタは、ドレッサーの鏡を見た。
 いつもの私だった。
 
 そう、いつもの私よ、マリエッタ。
 は笑った。


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