SS詳細
罪の色の瞳。罪の色の髪。
登場人物一覧
花が咲いた。
赤い花だった。
真っ暗な空間に、マリエッタはいる。
どこなのかは分からない。
此処ではない場所。
現実ではないどこか。
おおよそ非現実的な、抽象的な感覚を齎すそこは、言ってしまえば、心の奥底なのであろう、と、マリエッタは理解していた。
マリエッタ・エーレイン。それが、
花が咲いている。その赤い、赤い――血のような花の中心に、
罪の色の瞳。罪の色の髪。
もう一人のマリエッタ・エーレイン。いや、その言い方は、果たして正しいものか。
もう一人の、といえば、あまりにも、他人事にすぎはしないだろうか。
目の前のマリエッタ・エーレインは、マリエッタ・エーレインなのだ。そこに境界線はないはずだった。でも、どうしてもマリエッタには、目の前の
目の前のマリエッタは、何も語らなかった。ただ――マリエッタを、嗜虐的な瞳で見つめるのみであった。
苦しいのだろう、と問いかけているように感じた。それが、しわがれた老婆のような声にも、例えば録音して聴く自分の声のようにも聞こえた。ひどく、違和感のある声だけれど、それは自分の声なのだと自覚させられる、そのような感覚を覚えていた。
苦しい、とマリエッタは思った。それは、強烈な、強烈な、喉の渇きに起因していた。
烙印の開花。それは、マリエッタの体をひどく、酷く、傷つけるものであった。特にマリエッタの感情を揺さぶったものは、その、喉の渇きだった。耐えられないほどの、血を求める衝動であった。
間違いなく、かつて別れを告げたものに違いなかったのに――。
そう、マリエッタの脳裏に浮かんで、すぐに疑問符が浮かんだ。別れを告げた? 何に? 吸血衝動に、別れを?
知識を総動員してみれば、すぐに自分の過去が思い浮かんだ。そうだ、
血を欲するのは、と、マリエッタが言う。
私なのか、と、マリエッタが言う。
私は私であり、私とはすなわち私であった。断絶し、別れを告げた私たちが、今ここに、血という共通の罪の匂いを鎖にして、心の奥底で、こうして顔を突き合わせることとなっていた。
何のために血をすするのか、と、私は考える。
己が欲望のため、と私は思考する。
美しさであるにせよ、喉の渇きであるいにせよ――血を欲するのは、欲のため。
「駄目です」
と、
「そんなことは、いけない」
と。
そうでしょうね、良い子の良い子のマリエッタ。あなたならそういう。あなたはそういう人生を送ってきたのだから。
でも、あなたは、死血の魔女なのですよ、マリエッタ。
それは、間違いなく、
ああ、愚かなマリエッタ。目を逸らしても無駄なのに。あなたはどれだけ目を逸らしても、魔女のその先なのですから。
自分の声が響いた。響いた……頭の中に、何度も。
「――!」
ふと、ベッドから跳び起きたことを自覚した。カーテンの隙間から、朝の木漏れ日が室内に差し込んでいることを理解した。
息が荒い。ひどくうなされていた様だった――いや、覚えている。毎夜のように見る、この夢のせいで。
起きて一番に、喉が渇く。血が欲しくなる。それは、もう存在しないはずの記憶を想起するように、マリエッタの体をぐちゃぐちゃにかき乱すようだった。苦しい。耐えなければならない。耐えなければ。
マリエッタは起き上がって、お気に入りのドレッサーの所へ向かった。
大丈夫。大丈夫。私はまだ、私。
心が、自分を維持していることを自覚しながら――マリエッタは、ドレッサーの鏡を見た。
いつもの私だった。
そう、いつもの私よ、マリエッタ。
- 罪の色の瞳。罪の色の髪。完了
- GM名洗井落雲
- 種別SS
- 納品日2023年03月30日
- テーマ『『春の雨降る』』
・マリエッタ・エーレイン(p3p010534)