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幸せを願って
登場人物一覧
「こんな場所があるなんて……」
すずな (p3p005307)が見渡すのは果てが見えないくらい広大な花畑。
鼻に乗った花弁が風で流れていく。
さわさわ。
さわさわ。
寄ればみつばちが花粉と蜜を集めている。すずなに気づいて、花の香りを撒きながら慌てて飛び去って。
さわさわ。
さわさわ。
「こんな絶景なら、皆も呼べば良かった」
惜しむ声に呼応するかのように、風が強く吹きつのる。巻あがった髪を抑えながら、思わず閉じていた目を開け、声にならない感嘆がすずなの気分を高揚させてくれた。
先程とは比べ物にもならない花弁達が、空を舞い、包み込んで二人の来訪を祝福してくれているのだ。
さわさわ。
さわー。
さーはー。
すーはー……すーはー。
「此処でピクニックしたら楽しそう。ねぇ澄恋さん」
「すぅぅぅ⤴︎ はぁぁぁ⤵⤵」
澄恋 (p3p009412)が、すずなの尻尾に顔を埋めながら肯定すれば、すずなもにっこりと頷いて返す。
「そんなそんな。私もご一緒できたら楽しいと思っていますよ」
「すぅ⤵ はぁぁぁ⤴︎」
旅は道連れという言葉もあるだろう。
共にする者が多ければ、それだけで楽しいのだから。
「ピクニック? 良いですね、おべんと持ってきて、敷物敷いて……ふふっ、マリ屋の皆さんも一緒に?」
「すぅぅ⤵⤵ はぁぁはぁ⤵」
もさっとしていながら滑らかな感触は、手入れがしっかりとなされている証左。太陽の光をたっぷりと吸った尻尾は、浮き立つすずなの意識外で揺らめき、澄恋の肌を優しく擽ってくれる。
「えっ、澄恋さんも手伝ってくれるんですか? じゃあ二人で台所に立っちゃいますか。お互いに得意な惣菜を作って、お重に詰めちゃいましょう!」
「すぅぅぅぅ♪」
もふもふに擦れる角も、何処と無く嬉しそう。
「どうせならお揃いの割烹着を着て、皆に披露するのも楽しそうですよね。なんだか仲良しみたい」
強くなる事は今でも。
高みは今でも登り続けている。
でも今のすずなにはそれだけじゃない。上だけではなく、前を見る余裕が出てきたのだ。
これが己にとって良い事なのかどうか、菜の花畑を見つめながら思う。
此方の世界に降り立ち、数多の剣と切り結び、幾度の仲間と出会ってきたのだろうか。
少なくとも、
「すぅぅ!?」
――きゅっきゅっ。
素晴らしい磨き心地。
「そうだ、折角だし、花冠でも作っていきませんか? 帰って皆に見せたら、それを押花にしたりとか」
「あ、あの、すずな様?」
「それをお土産にして、誘うきっかけにもなるかもしれませんしね!」
これだけ磨き心地が良い物も、早々無い。
澄恋も思わず、尻尾に埋めていた顔を上げて悦びを表している。
「あの、その、角は……すずな様、聞いておりますか?」
「菜花には、小さな幸せ、という花言葉があるそうです」
快活、明るい、鮮やかな黄色に含まれる言葉はとても前向きで、戦闘で前線に出る者が多い特異運命座標には、向けられる事も多い願い。
「はい、綺麗な色に合った、素晴らしい花言葉です」
「澄恋さん、それがこれだけ咲き誇ってるなら、それは大きな幸せと言っても良いのかなって思いませんか?」
先程こっそり作った菜の花の冠。そっと澄恋の角に嵌め込んで。
「良かった、ちょうど良い大きさで」
「すずな様……」
照れ隠しでそっぽを向いてしまうも、澄恋の表情をちらりと覗き見れば、満面の笑顔を見せてくれるのだから、受け入れてくれた安堵で息をついて。
ぽんぽんと、その後も角に冠を嵌め、やり過ぎた輪投げの様になっている澄恋から、仄かに菜の花の優しい香りが風に流れる。
「今度は、皆で来ましょうね!」
――すぅぅぅぅぅ!!
戦場を駆ける彼女達、その縁は突然別れ、切れてしまうかもしれない。
だからこそ、この一時を素晴らしい時として楽しみたいのだ。
来訪の約束をして、お土産の花冠を持って二人は何時もの日常へと帰っていくのだ。
開花した大輪の花が、彼女達の背をそっと見送って。
- 幸せを願って完了
- NM名胡狼蛙
- 種別SS
- 納品日2023年03月30日
- テーマ『『春の雨降る』』
・すずな(p3p005307)
・耀 澄恋(p3p009412)
※ 一条 夢心地からの提案