PandoraPartyProject

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可憐な君の花

登場人物一覧

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと



 それは去年の幻想レガド・イルシオンはローレットの近くアンチャーテッドと言うギルドにて。
 そのギルドマスターを務める『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はご機嫌な様子で庭先にとある鉢植えに水やりをしていた。

 時は更に遡り灰色の王冠グラオ・クローネ
 深緑アルティオ=エルムはファルカウが元の伝承であるこのイベントで、フラーゴラと──その想い人であるあの人ともやり取りがあった。



アトさんへ。

 ハッピーグラオクローネ!
 大好き、です!今後ともよろしくね?
 えっと今日は結婚して、はナシにしようかな。
 こうやって過ごす時間はやっぱり楽しい。
 またどこかに行ったり一緒に冒険したり……
 ううんお喋りするだけでいいし、何だったら言葉はなくても側にいるだけで。

 えーとあのその、ゆくゆくは添い寝したい……ナ〜……。



 彼女らしい素直な気持ちを書き綴ていた手紙と、彼の為にと頑張って作ったルビーチョコのボンボンショコラを添えて。熱烈なフラーゴラに対して、あの人の態度はいつもキッパリとしたものではあるのだが年々ほんのりと見えてくるものがある。
 彼女にとってそれは解りにくい事も多いが、それがわかった瞬間嬉しくなってしまったりそうだったらいいなと願うような気持ちになれる。



ハッピーグラオクローネ。

 そうだねえ、じゃあこういうのはどうかな。
 冬にあえて花の種を蒔こう。
 春に何が咲いたのか教えてくれ。
 それを聞きながらお茶でも飲もうか。



 今年のあの人からの返事は花の種だった。
 あの人の考えている事はわからないが、その種は花壇に植えた瞬間に発芽し一般的な種とは違っていたようだった。
「すぐ芽が出た時はびっくりしちゃったけど……どんな花になるのかな?」
 フラーゴラはあの人がしてくれた事に対して考察するのも好きだった。だからこの種が何かの花と開花した時何がわかるのだろうかとワクワクした気持ちがある。それが彼女のご機嫌へ常に繋がっていた。わからなくてもこの花が咲いた時に、またあの人とお茶が出来ると思うとそれも嬉しくてたまらない。

 灰色の王冠から月日が経ちすっかり小春日和の頃。発芽してからは静かに葉が生い茂ったその種は、今ではその青い蕾が膨らませている。きっと明日明後日にでも開花しそうな、そんな予感すらしていた。このぐらいになるとフラーゴラでもこの花が何の花かわかってくる。
「この葉っぱ……やっぱりネモフィラのにそっくり」
 ネモフィラ。それは森の妖精のような澄んだブルーの花が愛らしく、春の花壇を彩る代表的な花として君臨する。調べていた花図鑑によれば本来過湿を嫌う為そこまで水やりの要らない逞しい花であったりもするが、それはこの不思議な種による摩訶不思議であろう。この無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスにおいてはそう不思議な事ではない。
 それに開花期間としては4月中旬から咲き始め、5月中旬頃まで楽しめれば良好な花である。時期としてはもう『今』に違いないであろう。
 心做しか蕾も膨らんできているような気がした。
「もうすぐ咲くかな? えへへ……」
 フラーゴラの期待がいよいよ高まってくる。開花のその瞬間が待ち遠しくて仕方がなかった。

 春の月明かり。桃色の月の元で静かで安らかな寝息が聞こえる。
 花が咲いたらあの人に会える。そしたらどんな事を話そう。どんな花が咲いたのかは勿論の事、花が咲くまでの過程も話していいたどうか? そしたらそしたら……彼女が話したい話題は尽きない。だからその時間を得る為ならば話題作りも楽しくなってしまう。
 それ故に彼女が抱くあの人への好意は正しく『好き』であり『愛している』と言う感情である事がわかる。

 それでも未だに好意を断られているどころか、その好意を知りながら他の子にちょっかいを駆けるあの人の姿にフラーゴラは怒りを見せ振り回されてばかり。途方も無い迷宮のような恋心を抱く彼女だが、その心はちゃんと幸せで満ち満ちているから強い乙女である。

 ──朝。
 フラーゴラがゆっくりと瞼を開き目覚めるとカーテンから零れ射した朝日が沁みた。
「ん……そろそろ起きなきゃ」
 ベッドから起き上がった彼女は着替えを済ませ、朝食の前にとふと窓から花壇を覗き込む。
「あれ?!」
 その時まで寝ぼけ眼だった彼女は一気に覚醒した。
 彼女が急いで花壇へ向かえば青々とした花弁が開きかかっている。あともう少し。
「水を……み、水をあげようっ!」
 花の開花は時間を要する。だがフラーゴラは気持ちが高ぶっていて応援を込めてジョウロを用意した。
「咲きますように……咲きますように……」
 彼女は念じながら花に水を与える。

 その花は不思議な種から目が出たもの。なればこれも摩訶不思議。
「わ、わぁ!!」
 水を与えられた花はネモフィラとして花開く。
「やったーー!!」
 フラーゴラはこの日一番の歓喜の声を上げたという。



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