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花の乱

登場人物一覧

一条 夢心地(p3p008344)
殿


 それはある春も近付く暖かな日のことだった。
 一条 夢心地(p3p008344)の領地では桃も愛らしく拓き、桜も綻び始め、枯山水が美しく描かれる庭へはらりと淡紅色の花弁を零していた。
 朝餉を食し、庭を見下ろしながらの濃いめのお茶を一杯。
 鶯が鳴く練習をしている遠くの声に耳を傾け、落ち着いたひととき。
 異変は唐突に訪れる。

 ――ざん、ばらり。

「ぬ!?」
 何の前触れもなく、夢心地にお別れの一言もなく――ちょんまげが落ちた。
「曲者か!?」
 家臣等がすぐさま得物を手にして立ち上がる中、夢心地は新鮮なちょんまげ(?)が畳の上に転がっているのをゆうるりと見下ろした。
 通常ならば髷が落ちれば落ち武者よろしく鬢が落ちるはずなのだ。しかし、それがない。落ちてこない鬢を不思議に思い夢心地が自身の頭部へと手を滑らせると、鬢は恒と変わらぬ様子で鬢付け油で固定されている。
「と、殿……」
「む。なんじゃ?」
 ハッと何かに気付いた様子の家臣が『はわわ』みたいな表情になって夢心地を見た。
 その声に他の家臣等も『はわわ』な表情となった。麿の家臣、どうしたの?
「鏡持て!」
「ハッ」
 ひとりの家臣の言葉で急ぎ鏡が用意され、何故だか緊張した面持ちで夢心地が己が姿を見られる形で差し出された。
 夢心地は鏡を覗き込み、そこに映った己が姿を見て仰天した。

 なんと、頭上に赤い花が咲いているではないか!

 赤い鬱金香チューリップだ。鬱金香が咲いている。
 髷の代わりに、鬱金香が咲いていたのである。
「あなや」
「殿、御匙を……」
 すぐに侍医を呼ぶと、家臣が告げた。
(いやしかし待て――)
 しかし、今の夢心地は『ほぼディルク・レイス・エッフェンベルグ』である。
 これほど心強い言葉こんなパワーワードは早々ない。
 ほぼディルク・レイス・エッフェンベルグなれば、水晶の涙も零すし花は散るし花を纏う。勿論チューリップだって開花する。何もおかしいところはない。そう、ほぼディルク・レイス・エッフェンベルグならね――。
「よい」
「殿?」
「良いと言った。今は春じゃ。さすれば麿はこの花を愛でよう」
 春の陽気のせいなのか、はたまた烙印の影響によるものなのか。
 何故咲いたのか、きっと侍医でも解らないだろう。
 ならばそれで良いと思う、夢心地であった――。


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