PandoraPartyProject

SS詳細

赤い花弁

登場人物一覧

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠

『烙印』の吸血衝動というものは、こんなにも抗い難いのかとチックは思った。
 身体の芯から震える程の情動だ。
 自分が変わってしまう恐怖で涙が出てくる。その涙さえ、小さな水晶に変わった。
 どうしたらいいのだろう。
 もし、いま目の前に血が滲んだ傷口を見せられたのなら、我慢できるだろうか。

「怖い……」
 相手を傷つけてしまうことが怖い。
 自分が血を吸ってしまう事が怖い。
 血を吸ってしまった自分はどうなってしまうのか。
 この灰色の翼は紅く染まってしまうのだろうか。
 それを試す勇気は何処にも無い。

 チックはただ手を口で塞ぎ身を潜めていた。
 家で待つカーティスとコルトの事が心配でならない。
 けれど、もし彼らの前で吸血衝動が抑えられなくなったら。
 彼らは自分を『安心して過ごせる居場所』として見てくれなくなるだろう。

 されど、刻一刻と時間は過ぎる。
 ラサの動乱も気掛かりではあるが、今まさに決戦が行われようとしている鉄帝へ赴かなければならない。
 チックは烙印を隠してトビアス達の元へ駆けつけた。

 何時もと違うチックの表情にトビアスは「体調でも悪いのか」と問う。
 見上げれば血色の良いトビアスの首筋が視界に入った。
 チックは湧き上がる吸血衝動に抗い、首を振って自分の指を噛む。
 そこから零れる赤い花弁にトビアスは眉を寄せた。
 血ではなく花弁が溢れたのだ、驚くのも無理は無い。
「何でも無い……ごめん、ね」
「そんな訳ねーだろ。それ、何なんだよ」
 応える言葉をチックは持ち合わせていない。自分だって分からないのだ。
「血が……」
 欲しいのだと、涙を零すチックの瞳から水晶が零れた。
「でも、吸いたくない……んだ」
 ネイトもこんな風に思っていたのだろう。抗い難い衝動は人の理性を惑わせる。

「いいから吸えよ。苦しいんだろ」
 差し出されたトビアスの腕を見つめ、チックは口元を押さえ歯を食いしばった。

  • 赤い花弁完了
  • GM名もみじ
  • 種別SS
  • 納品日2023年03月06日
  • ・チック・シュテル(p3p000932

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