SS詳細
縺れた糸の解し方
登場人物一覧
名前:『冬夜の
性別:男性
年齢:外見20前後
一人称:俺
二人称:お前、呼び捨て
口調:だな、だろ、~か?
特徴:
灰と空色の中間のような瞳(目隠しなし)
褐色肌に癖の強い白短髪(※生前と反転)
設定:
「アーマデルを置いて逝きたくない」という生前の強すぎる執着から、彼岸へ渡り損ねた師兄ナージーの未練の欠片がアーマデルの力の一つとして形を取ったもの。
その執着の源はナージー自身の行き場をなくしたあらゆる諦念と絶望、愛憎が複雑に絡み合い、固く結ばれてしまった感情。
厳密には本人の本霊そのものでなく分霊のような存在であるため、「ナージー・ターリク」の名は失われている。
存在の維持には特に用を為さないにも拘わらず、「アーマデルに傷を付けること」を報酬として望む。
頼まれた仕事はなんやかんやで完遂してくれる。
その刃が鳴る音は冬の雨の如く重く、冷たく。何故か甘い。
生前の彼のアーマデルに対する行いを知るイシュミルは複雑な顔をしている様子。
「だったら首を寄越せ。……命とは言ってない、首に傷を付け……ああもう、いい。手を出せ、手首でいい」
「いっそ、屍人としてお前を殺せたら……殺してくれたら、こんなには……ッ」
「今の俺が言える立場じゃないが……少しは思い通りになったらどうなんだ」
おまけSS『或いはそれも傷痕として』
●違うばかりの糸なれど
――どうして、こんなことになっているのか。
確かに命を終えたはずだった。
最期にあいつの、思い出すだけでも吐き気がするほど悍ましい姿を目に焼き付けて、終わったはずだった。
死の間際に、死ぬほど悔しい思いをした。
それでも、まだ。そのまま終われたら、まだよかった。
『
――どう、して……ッ!!
そのまま終われずとも、その後があるとしても。屍人としてお前に『死』を送れるならまだよかった。
叶わずとも、お前の手で完全に殺されるならまだ、何とか諦められた。
それがどうだ。あいつに、使役される霊として?
いっそ自ら消えたいと思っても、あいつに残した執着が強すぎてそれすらもできない。
死んで尚、何もできないのか。殺すことも、殺されることもできないのか。
『どうした、苦しいのか。お前が苦しい原因は、今の俺にはわからないが……いつか昇華できるその日まで、共に在りたいと思う』
――巫山戯るな!!
お前に呼ばれさえしなければ、苦しまずに済んだ。思い出さずに済んだ。出会わずに済んだものを。
お前のせいで、お前のせいで俺は、俺は……!!
『凄まじい不協和音だな……それほど苦しいか。少しでも和らげてやれたらいいんだが……』
扱いに困るくらいなら何故呼んだ。何故望んだ。
何故使役しようなどと思った。
お前には理解できまい。一翼の加護を持つお前『だからこそ』できまい。
その加護をこそ憎んでいた俺にだけは、お前の手は及ぶまい。
――ああ、そうか。
一翼の加護が及ばぬものとして、お前を悩ませ続けるのは――それはそれで、いくらかの慰みにはなりそうだ。
その死の瞬間まで、悩み続けるがいい。
死すら温く思えるほど、悩み苦しめ。
『音が……少し落ち着いたか? 何か対価が欲しければ用意しよ――』
言い終える前にその首を傷付ける。
殺しはしない。こいつには長く苦しんで貰わねば困る。
簡単に死んで貰っては困る。俺以外の手にかかって死なれるのも。
『欲しいのは、お前の傷だ』