PandoraPartyProject

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傾く星見の塔と繋がれた男/String Hero

登場人物一覧

水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
水天宮 妙見子の関係者
→ イラスト

・スライダー・クランク

「この度は本当にありがとうございました……!」

「困った方がいれば助ける。人として当然の事をしたまでです」

 そう言って俺は頭を下げる爺さんの前から姿を消した。ローレットで受けた魔物退治の依頼をたった今終えた俺の懐には幾らかの報酬GOLDが入っている。

「このGOLDで何をしようか」

 そう思いながら大通りを歩いていると、店のショウケースが度々目に入ってくる。 この混沌へと召喚されて久しいが、月が変わるたびにケースの中で並ぶものが変わっている気さえする。

「……あの籠は小物入れに役に立つだろうか。 星の髪飾りはあの女に似合いそ……待て、あの女だと?」

 余計な思考・・・・・を振り払う。あの女など好きでもなんでもない。あの女は……

「俺の……俺の……ッ」

 そこまで言って、俺の口からは最後の言葉が出てこない。今にも喉から怨みの言霊を吐き出せばものを。

「……帰るか」

 妙に脱力した俺は空中神殿を通り、再び豊穣の地を踏んだ。

「この国は落ち着くな」

 元の世界と似た寝殿造の並ぶ漆喰の白壁と砂の道。 元の世界の宮廷に仕えていた頃を思い出す。 陰陽道に多少の心得はあれどもイマイチ才に恵まれず、俺の行く末を散る葉に擬えていた時の事。

『去る風の 木葉攫いて 吹く末は 遠き星見の 知らせやもせん』

 風に吹かれて何処かへと去る木々の葉よ。 お前らのように、俺も同じく役に立てぬまま宮廷を去るのだろうか。 そう思いながらほうと中庭の桜を見つめていると、後ろよりあの女が声をかけてきた。

『晴明様、このような片隅で何をなさっているのです?』

 ぽんぽんと叩かれて振り向き、声の方向へと目線を下げるとそこには美しき……あの女妙見子がいた。

『冬の訪れというものは早いものだということを歌に詠んでいました。 妙見子様こそ、何故ここへ?』

『それは勿論寂しそうな背中を追いかけて、です』

 その言葉に、俺は何も返せなかった。 確かにそうだったから。 同僚達は華々しい日々を過ごしているのに、俺は変わらず家と宮廷を行き来する日々。 たまにお呼ばれが掛かろうとも大きな活躍はこの方出来たことはなかった。 陰陽師の家系であるのに――などと陰口を叩かれた事も数えられない程にある。

『常に寵愛を賜っておられる妙見子様には関わりのない事でしょう』

 剣山のように鋭い言葉がつい飛び出してしまったが、あの女は変わらず微笑みながら語りかけてきた。

『──いえいえ、そんなことはありません。少々お手を拝借♪』

 俺が制止する前にあの女は俺の手を両手で握り、上目遣いでこう言ったのだ。

『私の"おまじない"は良く効きますから♪』

 あの女がそのままの体勢で少しだけ俯き祈ると、一瞬だけ大きな"狐"の妖気を感じた。 あの女の頭にも、今でこそ隠していない大きな耳が見えていた気がする。 その耳に気づいていられれば、俺の人生はどれだけ平和に終われただろうか。

『はい、終わりです♪ どうでしょう、よくが冴えて見えませんか?』

 なのに、俺は瞳をパチクリとさせるだけ。 いつもより色付いて見える光景に、俺は心奪われていた。 

『妙見子様、コレは……』

『晴明様のお仕事、頑張ってくださいね♪』

 御礼も疑問も投げる事も叶う事はなく。あの女はそれだけ言ってあっさりと去っていった。

 だが、それから俺の生活は一変した。 発端は妖怪退治の任を怪我をした者の代わりに受けた事。 現地に赴いた俺は、術の働きがこれまでよりも冴え渡り、妖の動きが手にとるように理解できている事に気づいた。

 これも全てあの女のお陰だと募る感謝の念と、漸く宮廷の役に立つことができたのだという歓喜の叫びが俺の心を埋め尽くした。

 俺が、あの女の"正体"を知るまでは。

「あらあらはるあきくん、奇遇ですね♪」

 横から聞こえる忘れようのない声。

「妙見子か」

 最早誤魔化しすらせず手触りの良さそうな獣耳と尻尾を晒す、着物を着た美女。

「私の姿見なくていいんです?ほら、美少女の笑顔ですよ、ニコ〜っ♪」
 
「……興味ない」

 水天宮妙見子。 その正体は故郷の伝説に語られる『傾国の狐』。 俺の運命を狂わせた……狂わせた…………とにかく、因縁のある化生おんな

「もっと笑っていてもいいんですよ?」

 妙見子はいつもなんてことの無いように俺を狂わせる。俺が混沌に召喚される前に、妙見子の身体へと必殺の札撃を喰らわせてやれていれば、こうして再び相まみえる事もなかっただろうに。

「誰のせいだと思っている、誰の」

「どこの傾国スマイルの似合う美少女でしょう?」

「オ マ エ だ ッ !」

 こちらの気も知らないで好き勝手に言う。

「妙見子のそういうところが気に入らない」

「その割にはちゃんと神社まで帰ってきてくれてますよね?」

「……宿代が浮くからな」

 何より、居心地は……悪くない。 布団はあるし飯は出る。 鬱陶しいほどに世話を焼いてくるからな。

「もうっ、はるあきくんは素直じゃないんですから〜」

「事実を言っているだけだ」

「ふふ、わかってます」

 それからも続いた横からのちょっかいに耐え、ようやく俺は鳥居を潜る。 神社の名前は水天宮神社。 妙見子自身と北極星を祀っているらしいが……何故か俺はこの離れに居候させられている。

「少し待っててくださいね、すぐに作っちゃいますから」

「……ああ」

 タタタッと妙見子が土間キッチンに向かうのを見ながら、俺は思う。 何故あの女はここまで関わってくるのかと。 元の世界より思っていたが、『傾国の狐』である妙見子は俺達人間と敵対する存在のハズだ。 それなのに俺が正体を知り仲を分つ前も、分った後も、変わらず俺に何かと関わってくる。 ようやく離れられたと思っていたのに、暫く経った今では元の鞘に収まってしまった。

「結局、お前はなんなんだ……」

 俺の力は"与えられた“ものなのか。 本当は"眠っていたもの"なのか。 『混沌肯定』の中ではもう確かめる術は妙見子に直接聞くしかないのだろう。

「……今更、聞ける訳ないが」

「何が聞ける訳ないんんですか?」

「うわっ妙見子急に出てくるなっ」

「ご飯できたので持ってあげたのになんですかその反応。少し傷つきました」

「っ……悪い」

「謝らなくていいですから、早く食べましょう」

 少しムスッとした顔で言われてしまえば従う他ない。 一汁三菜の夕食を手を合わせいただく。 妙見子の料理は癪に触るが相変わらず美味しい。

「……だが、お前は……」

 いつか、俺が……殺してやる。 お前の好きな北極星と同じく、二度と動けないように。 二度と、俺みたいな存在を産まないうちに。

「あ、はるあきくん、大根おろしが口についていますよ。拭いてあげますね」

「だ、やめっ今すぐ滅ぼしてやろうか水天宮妙見子ォッ!」

 一々近寄るなっ! 心の臓腑が落ちつかなくなるだろうがっ!

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