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雪夜に解ける
登場人物一覧
●雪夜もすがら
アイラ(p3p006523)は、冬空の下ペンを握ってせっせと手紙を書いていた。
できた。小さく呟いたアイラは、手紙を小さく折り畳み、封筒の中へそっと入れられる。
差出人がわかるようにそっと口付け魔力を込めれば、とろりと溶かした濃紺の封蝋の上から印面をのせて、しばらく待つ。
「……寒い、ですか」
アイラが発した言葉と白い吐息が混ざりあう。
自身の側に心配そうによってきた使い魔をたくさん撫でてやると、スタンプをそっと外して手紙をまじまじと見つめた。
雪の結晶の封。煌めく冬の破片、美しい小さな花。
憂鬱な気持ちを悟られないようにはぁ、とため息を吐けば、また白が漂うのだ。
「ねぇ、これを」
首を傾げた使い魔は、足元を不安げに彷徨く。
不安そうに鳴く使い魔に思わず笑みが零れる。
「……ふふ、心配してくれてありがとう。これ、彼のところへ、届けてくれませんか?」
アイラは微笑んで告げた。それから、ぎゅっと抱きしめておねがい、と呟くのだ。
もちろんです、と言うように使い魔がその手紙を口に咥えると、窓から銀世界へと飛び出した。
「……あぁ。また、冬ですね」
少女の悲痛な声は、誰にも届くことはなかった。
●Dear.
ボクの名前を呼んでくれるキミへ。
アイラです、こんにちは。
突然のお手紙、びっくりしてくれましたか?
蝶々を飛ばすか悩んだんだけれど、大きくなっちゃいそうだから、お手紙にしました。
驚いた顔が見られないのが残念です。
今日お手紙を書いてみたのは、最近少し会えなくて寂しいから、です。
向かい合ってじゃ言えないけれど、ボクは君のことが、とびっきり好きみたいなんです。
だからね。君に会えないのは、寂しいな。
書いていて少し恥ずかしくなったので、話題を変えますね。
冬がやって来ました。
この間のデートのとき……そう、お揃いを買ってくれたあの日。
手をつないでいたときに、ボクが寒さを感じないと話したら、キミが羨ましがっていたのを覚えています。
少し複雑でした。キミとおんなじじゃないこと。他の子は、キミとおんなじこと。……これは、ヤキモチです。
でもね。ここからがボクの偉いところ、ですよ。
寒いのを分かち合うことはできないけれど、キミに温もりをあげることはできるんじゃないかな?
と気がついたんです。
あのね、あのね。これは、とびっきりの、名案なのだけれど。
ああ、やっぱり恥ずかしくなったので、これは内緒。
また今度デートするときに、教えますね。
そうそう、シャイネンナハトの話題でしたね。
キミがボクと同じ気持ちならいいな、と思うのですが。
……その。デートを、しませんか?
キミが嫌なら、今度でいいのですが。
お家でシチューを作ろうと思って。
木陰での……あぁ、ボクが最初に告白したときのこと、覚えていますか?
キミがボクの料理、食べてみたいって言ってくれていたでしょう?
だから、お家デートはどうかなって思ったんだけれど。だめですか?
もしもキミが、シチューが苦手なら別のものでも構いません。
……白状します。キミに会いたいです。できることなら、今すぐにでも。
キミに重いと思われるでしょうが、それでもボクは寂しいです。悪い子、ですね。
あのね。
ボクが生きている限り、これから先も何度でも冬は来るでしょう。
冬は、苦手です。
先程も書いた通り、ボクが寒さを感じることはありません。
冬にだって、素敵なイベントがあることくらい、知っています。
でもね。冬は怖いの。またボクは一人になるんじゃないかなって。
またボクは、暗いところでずっと置いてけぼりにされちゃうんじゃないかって。
お友だちが、やさしいふゆを教えてくれました。
皆がボクの冬の色をした瞳を。漆黒とは言い難い半端な色のこの髪を綺麗だと。
優しいことのはで、祝福してくれました。
ボクは、冬の優しさを知りました。
ボクは、もうこの瞳や髪を忌むことはないでしょう。
でもね、やっぱりだめみたい。やわらかなしらゆきも、煌めく氷も、なにもかも。
ひとりになると、怖くてたまらないの。
平気だって、思えてたの。キミは、知っていますか?
冬の土蔵は、暗くて、寒くて、名前を呼んでも誰も来てくれないこと。
この手紙を書いている間も、キミの名前を呼んでいます。ごめんなさい。
だから、この手紙はそろそろおしまいにします。
だいすきです。愛しています。
だから、どうか。キミの元にこの手紙が届いたら、ボクの名前を呼んでください。
叶うことならば、会いに来て、抱き締めてください。
ボクの手を握ってください。ボクが眠るまで、ボクの側に居てください。
……わがままでごめんね。
いつもありがとう。これからもずっと、だいすきですよ。
Aira.