SS詳細
うちゅうけいさつにんじゃのにちじょう
登場人物一覧
●狂気山脈くぐり抜け、未知なるのカダスを夢見て
少女夢見 ルル家 (p3p000016)は宇宙警察の初任務を本日迎える。
宇宙警察とは宇宙を守る警備隊である。
悪を裁き、悪を討ち。
宇宙の正義。それが宇宙警察だ。
その栄えある職業に継いたルル家はその正義の希望に燃えていた。
悪を挫き、弱きを助ける。
それこそが宇宙警察。
しかし彼女が配属された場所は宇宙警察のなかでも暗部を担う宇宙警察忍者だったのだ。
法ではさばけぬ悪人の抹殺。それが少女ルル家に与えられた任務であった。
●ごーごーれつごー無名都市! ロバエルカリイエ行進だ!
簡単な仕事だと上司にはいわれた。
事実警備もない、人目もない。暗殺には最高のシチュエーションだ。
上司は上司なりに新人を大事にしているのだろう。
引き金をひけば終了。そんな簡単な簡単なお仕事だ。
ターゲットは自分に気づいてさえ居ない。まさか少女である自分が刺客であるなどと思いもしないだろう。
どくんどくんどくん。
心臓が跳ねる。
どくんどくんどくんどくん。
ごくりの唾を嚥下する。やけに喉がかわく。上司に渡されようとしたオレンジジュースを固辞しなければよかった。
少女の脳裏に殺人とは悪いことではないのだろうかというプリミティブな忌避感が到来する。
そのとおりだろう。殺人は罪だ。
しかして、その罪なくては法で裁けぬ悪を討つことはできないのだ。
だから、この殺人は正義であって罪ではない、はずだ。
震える指先がトリガーをひく。
たぁんと軽い音がして弾丸が発射され、ターゲットの腹部にあたった。
ああ、ああ
眼の前で血まみれの女が腹部を抑えてうめいている。
こいつは小物だが悪人だ。たくさんのひとを騙して悪い薬を売った。その薬のせいで何人もの若者の未来が失われたのか。こいつは悪人だ。
女の腹部は大きく膨らんでいる。臨月の近い妊婦だったのだろう。
ああ、あかちゃんが、あかちゃんがしんじゃうたすけてせめてこのこだけは。
こいつは悪人だ。悪人が騒いでいるだけだ。
だから――。
タァン、タァンタァン、タァン。
かち、かち、カチ、ガチ。
銃の中にある弾丸をウチ尽くしてトリガーが空打ちするまでうった。
そうしたら女は黙った。
顔もお腹もぐちゃぐちゃだ。まっかでぐちゃちゃ。
「あ、貴方が悪いんですよ……。こ、これは天罰なんですから……」
そう、天罰だ。悪人に罰を与えるのが私だ。
硝煙の匂いに鉄の匂いが交じる。
ヒトは血の匂いに催吐性を覚える。だから、その生理的な反応でルル家はその場に嘔吐する。
これは反射的な生体反応だ。
罪悪感からなんかじゃない。罪悪感からなんかじゃない。
●ハイパーボレアの暗黒に潜む悪をやっつけろ
殺しにはまあ、それなりに抵抗感はある。
だけど、悪はまるでブギーポップのように湧いてでてくる。
だから長い特訓をした。特訓により少女はこころと体を完全に切り離せるようにできた。
これぞ宇宙忍者流マインドセット。
今日のルル家の仕事は少々厄介だった。
今日のターゲットはマフィアの家族全部。
ターゲットの男性が父親、美しい妻、そして5歳位の幼い少年の写真を手元のタブレットに映し出す。
「まったく皆様に感謝です。宇宙刑事のみなさんの陽動が今日の暗殺をささえるのであります。
ここまでくるのに何人死んだんでしたっけ?
なーむーーーーーー」
事実厳重警備を抜けて、ターゲットの屋敷に侵入できたのは宇宙警察のおかげだ。
「ハッピーバースデイ、クトゥルー!」
裏の世界では何人の人間を絶望に叩き込んだかもわからない男が、まるで良い父親のように息子の名を呼ぶ。
母親もまたうれしそうにそれをみつめる。
眼の前のバースディケーキには5本の蝋燭。
わかりやすい幸せな家族。
母親は息子のために美しい声で誕生歌を歌う。
息子がこの世界に生まれたことを神に感謝して。
息子は笑顔で目の前の大きなケーキに歓声をあげた。
「さあ、ケーキの蝋燭をふきけして。そのあとにはプレゼントがある。
まえからお前がほしがっていたものだ」
言って男は部屋の照明を消す。蝋燭が淡く部屋を灯す。
かちゃり。
そんななかルル家はあたりまえのようにドアを開けて入っていく。
「おや、お前のお友達かい? お友達もよんだのかい。いいよ、歓迎しよう。君もクトゥルーの生誕を祝ってくれたまえ」
年の頃は息子よりは随分年上だろうがなんとも愛らしい少女だ。もしかするとガールフレンドがサプライズにきたのかなと男は思う。
なぜか少女は息子ではなく真っ直ぐに自分をみているのが気になるが。
「ねえ、おねえちゃん、だぁれ?」
息子がとてとてとあるいて、ルル家のそばに近づいた。
刹那。
息子の首から鮮血が吹き上がった。おって、まるでボールのように床にバウンドしてころころと頭が転がって、ソファにあたって止まった。
絹を裂くような悲鳴が響く。警備員は入ってこない。まあ全部殺しちゃったから。
ゆっくりとたおれていく息子を抱き上げ女が半狂乱で叫ぶ。
なんとなくいやな思い出が胸を伝うけれど、マインドセット。
なんてことはない。
そのまま返す刀で女の首を跳ねれば静かになった。いいことだ。
親子の鮮血がましろい誕生日ケーキにかかり朱く染まる。
「貴様、貴様っ!」
後ろ手に隠していた銃を男は乱射するが、だめですね。そんな動揺した状況で銃を撃っても――。
ほら、あたりませんし、ジャムるってもんであります。
拙者もやったわー、新人のときよくやっちゃったわーー。
ルル家は無言のまま、刀を構える。殺しに言葉は必要はない。
ただ悪に罪を償わせるだけの行動に言葉をかける必要性は感じないのだ。
踏み込めばさわぐターゲットは静かになるだろう。人の騒ぎ声というのはとかく耳にさわるのだ。じじつ騒ぐこのターゲットの男の甲高い声は煩わしくて仕方ない。
さっさと終わらせよう。
蝋燭の炎が血をかぶったにもかかわらず消えることなくゆらゆらと揺れているのが幻想的だった。
男を殺すことは容易かった。
心臓の位置はよおく、よおく理解している。
肋骨の3番目と4番目の隙間から通すのだ。失敗するときはだいたい2番めの肋骨に引っかかって跳ね返ってしまう。肋骨というのはわりとほんとに内蔵を守っているものなのだ。まあ拙者はその場所を突き刺すことは慣れているので目をつむっていてもできますが。
踏み込めば、すう、と刀の先が肉を断つ感覚を指先に伝える。
うん、かなりいいかんじ。右心房よりを突き刺して左側にひく。よしよし心臓スライス完了。
とぅるるるる、とぅるる。
静かな部屋に電子音。上司からの連絡だろう。
ちょっとまってくださいよ。仕事のあとのスイーツをたのしんでいる最中でありますよ。
ルル家は無造作に誕生日ケーキの血のついていないぶぶんを手づかみすると口にほおりこむ。
なんと! なんと! さすが金持ちの誕生日ケーキ!
これは美味しいであります!!!
もうちょっと血液が飛ぶ場所考えたほうがよかったであります。ひとの血はばっちいからだめでありますよ。
やがて電子音は止む。
あ、このジュースもなかなかのもの。くっきーは汚れてないからこれは持ち帰ってお土産にしよう。
とぅるるるる、とぅるる。
止まってすぐにまた電子音。
しかたないでありますな。
ルル家はゆびについたクリームを舐め取ると、上司からの連絡に応答する。
「はーい! お疲れ様で~す。夢見で~す。 ああ、はいはい、失礼しました。乙女のすいーつたいむでありました。 いえなんでもないです。お仕事はばっちりパーフェクトで終わりましたよ。ボス。
この館に生きてるものはもういないです。
で、ですね、今日はこのまま直帰でも良いですか?
……やったー! ボス大好きでありますよ!
え、ふざけるな?
この夢見ふざけたことなんてないでありますよー!」
●我ら宇宙警察。正義の宇宙警察忍者隊♪(宇宙警察忍者 隊歌)
少女夢見 ルル家は今日も宇宙警察忍者の任務を遂行する。