PandoraPartyProject

SS詳細

たまたま入った店でちょっとした知り合いに会った時のアレ

登場人物一覧

青雀(p3n000014)
可愛い狂信者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!


 ファーストフード。
 混沌において、再現性東京で見受けられる食事処の一形態である。
 安価でそれなりに肉の入ったサンドイッチを提供するため、ランチに利用するものは多い。
 今日のキドーも例外ではなく、『どれにしようかな』と指で示して行き先を決めると、特徴的な看板に足を向けた。
 空きっ腹をさすっていると、どうしてだか、とある情報屋の顔が頭に浮かんだ。基本的に人懐っこく、元気があって、それでいて、大問題を抱えたやつだ。主に宗教方面で。
 そいつが、普段は何をしているのか気になった。仕事で顔を合わせたことは何度もある。彼女の仕事に引っ張り出されたこともしばしばだ。そんな彼女がプライベートでは何をしているのだろうかと。
「つっても、直接聞くのもな」
 あの娘のことだ。セクハラ云々などと口にすることはあるまいが、そこまで聞くほどの仲になったのかと言われれば、よくわからない。
 嫌われてはいない、はずだ。しかし彼女はその特性により、本心をどこに持っているのか、いまいちわからないところがあった。
「ま、明日ンなっても気になってたらってことで」
 そういって、前に立つだけで自動的に開く硝子戸をくぐると、ちょうどサンドイッチに齧り付いていた情報屋―――青雀と目が合った。
 一瞬、きょとんとするお互い。ひとりで入った飯処で知り合いに会うと、実際こんなものだろう。
 ぱちくりと何度か眼を瞬かせると、青雀は元気よく腕を振り上げてこちらに声をかけてきた。
「あっ、ひほーへんはい。ほっひ、ほっひっふー!!」
 こいつ、チーズバーガーでほっぺいっぱいにしながら人のこと呼びやがった。
 幸い、何言ってるのかイマイチわからない。ひとまず他人のフリ、気づかなかったフリをしてさっさと注文の列に並んでしまおう。
「ほっひっふ、ほっひっふっへはー! ふんふふい、ふんふふはふ、ひは、ひは!!」
「くっそ、せめて飲み込んで言えよ! いや後半はやめろマジで!!」
 無理だった。席を立って駆け寄ってきそうなフレンドリーをキメられると、無視できるものではなかった。
「もぐもぐもぐもぐ」
「おーおー、それでいいんだよそれで」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「ほっぺぱんぱんにしてんじゃねえよ。もうちょっと食い方あんだろ……」
「ごっくん。こんにちはキドー先輩。とっても奇遇ッス!!」
「あー……うん、奇遇だな、ほんと」
 これ幸い、というべきなのだろうか。プライベートの青雀。ふと思いつき程度のものであったが、早速知ることができてしまった。いや、チェーン店でランチ程度、プライベートと呼ぶべきかは不明だが。
「向かい、空いてるッスよ」
「いや、つっても、ひとりで食ってたとこ、邪魔しちゃ悪ィしよ」
「そんなこと言っても、この時間、ダダ混みで座れないッスよ?」
「うっそ、うえ、マジじゃん」
 彼女に気を取られていたが、改めて視界を回せば、人、ひと、ヒト。
 たしかにこの中では、悠々とランチを洒落込む前に、気疲れしてしまいそうだ。
 ここは、相席という好意に甘えておくのがいいだろう。
 軽くため息をついて、青雀の向かいの椅子を引く。その時、大きめの咳払いが聞こえた。
 何事かと振り向くと、カウンターの向こうで、恰幅の良い店員がキドーを睨みつけている。なんだろうと首をひねっていたら、無言でカウンターを指差し始めた。「いいから注文をしに来い」ということなのだろう。
 とりあえず、「へへっ、すいやせんね」って顔しながらこそっと列に並んだ。


「んで、何してんの?」
 キドーは、鳥の揚げ物を口に放り込みながら訪ねた。
「何って、お昼ごはんッスよ?」
 小首を傾げながら答える青雀に、それもそうかとキドーは頭を掻いた。
「いやなんつーか、こういうとこでメシ食ってるのが想像できなくてよ」
 キドーから見て、この情報屋は良くも悪くも信仰に篤い。そのため、肉とか、油とか、もっと大まかに言えばジャンクとか、そういう食事とは縁遠いイメージがあったのだ。
「んー、今は大丈夫ッスねー」
「ふーん、そりゃ良かったな」
 それだけだ。彼女は、自分の境遇を理解している節がある。それ故に、その心境を測り知ることなどキドーにはできない。だから、返答はそれだけだった。
「こっちには仕事なのか?」
「んー、今日は完全にオフッスねー。服でも見ようかと」
「服?」
「服ッス。僕、前からこっちのカッコに興味あったんスけど、なかなか来れるタイミングがなくって」
「タイミング、ねえ」
 それは、彼女の本心だろうか。そんなことを考えてしまう。信仰が強制的に、かつランダムに変更される。青雀の持つ特異性は、彼女の趣味嗜好にもきっと関わってくるものだろう。再現性東京における服飾への興味。それは今の信仰がそうさせているのか、それとも彼女の持つ生来によるものだろうか。いいや、むしろ、信じるものが移ろい続ける中で、彼女の生来の精神性など存在しているのだろうか。
 ぱたぱたと、手首を振って思考を打ち払う。考えて答えが出るわけもなく、だからといって彼女を見る視線を変えるつもりもない。わからないことをわからないままにすべきこともあるのだから。
「それ、俺もついてっていいか?」
「え、いいッスけど……んー?」
 青雀は傾げていた首をさらに傾ける。その行為の真意はわからないが、問題はない。どうしてそんな提案をしたのか、キドー自身にもわからないのだ。
 なんとなく、だ。興味など、その程度で良い。なんとなく、この情報屋のショッピングに興味が湧いて、ついていきたくなった。それだけのことなのだ。
「キドー先輩……」
「ん?」
「あの、これ……デートッスか?」
 指先をもじもじなどさせず、一切顔なぞ赤らめずに、なんだったらちょっと低いくらいの声音で、紙ストローを逆手に持ちながら言っていた。
「いやいやいやいやいやいや、違う。断じて違う!」
 即座に否定する。たぶん、今のは信教上の理由でアカンやつだ。
 どうやら否定で選択肢は合っていたらしい。彼女はいつもの人懐っこい笑顔に戻ると、ストローをドリンクカップに戻していた。一体、紙ストローで何をするつもりだったのだろう。
「じゃ、僕このあとサンドイッチおかわりするんで。ちょっと待ってくださいッス」
「おーう、って、よく食うなあ」
「だって今日、お肉食べれない日ッスから。ほら」
 そう言って、食べかけのチーズバーガーのパンをめくって見せてくれる。そこにはハンバーグがなく、ピクルスと調味料が乗っているだけだった。
「なんだこれ? こんなの頼めんの?」
「嫌いなものとか食べられないものとか、みんな様々なんでー。言ったら作ってくれるッスよ。値段変わんないッスけど」
 そう言うと、ほぼパンだけのそれをまた口いっぱいに放り込んで、もごもごさせながらレジに並びだす情報屋。
「ひっへふふっふー」
「おーう、いってこい。あーあ、飲み込んでから行けっての」
 頬杖を付きながら、細く切られた揚げポテトをかじりつつ、キドーはその後ろ姿を見送った。

  • たまたま入った店でちょっとした知り合いに会った時のアレ完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2022年12月06日
  • ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244
    ・青雀(p3n000014

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