PandoraPartyProject

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誓い

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

 今でもはっきりと覚えている。あの男、キドー・ルンペルシュティルツとの出会いを。ベネディクトは葉巻の煙を口に含むと、あの時の屈辱を吐露するように口から吐き出す。
 ベネディクトはかつて海賊であった。誰かを殺し奪うことが常だった男にとって正義とは力だ。力のある存在だけが誰かの上に立つことが許される。だからこそ男にとってキドーの存在は許せなかった。
 ベネディクトは自分の同僚を殴り飛ばし気絶させると、仕事を放棄して派遣先のカジノを後にする。自分は強者だ。故に自分は誰にも縛られない。その誇りと自負を最弱であるはずのゴブリンがブチ壊した。奇襲と人質、弱者の姑息な手段によってこんな島に縛り付けられている。屈辱以外の何物でもない。
 ベネディクトの顔が憎しみで歪む。しかし、鬱陶しいほどにギラギラと輝く夜の街に照らされたその顔はすぐに笑みを浮かべた。
「今日でこんな日々ともおさらばだ」
 そう呟く男の目は、街の光と大差ないほどにギラついていた。

 人のほとんどいない島のはずれの建物でベネディクトは仲間と合流した。彼らも自分と同じ家族を半ば人質としてこの島に住まわされている者たちだ。仕事が入ってくるからと骨抜きになった奴もいたが、キドーを恨む人間もそれなりにいる。
 そんな奴らにベネディクトはとある計画を話したのだ。キドーを自分たちの手で潰さないかと。慎重に、だが根気強く説得するにしたがって否定的だったやつも次第に乗り気になり、そして今日がとうとう結構日になった。
「テメエら、なめた真似してくれるじゃねェか」
 ベネディクトが部屋に入った途端、低い声が辺りに響く。そこにいるのは縛り付けられた小鬼、キドーだった。
「あの時とは状況が逆転したなぁ、ゴブリン」
 ベネディクトは蔑みを込めた視線をキドーに浴びせる。だが、奴はまるで気にしてないように余裕の笑みを浮かべていた。それが無性に癪に障る。人質でしか自分を支配できないような男がどうしてこうも平然としていられる?
「テメエが頭だな。何が目的だ」
 ベネディクトの問と裏腹に、キドーはあの日と変わらず、まるで自分に主導権のあるような態度で話を進める。
「ゴブリン風情が、まあいい。俺の目的は一つだ。すべてを賭けて俺と決闘しろ」
 その言葉にキドーは眉を上げる。
「人を支配していいのは強者だけだ。仲間たちも俺の力に惚れ込んでここまでついて来てくれた。そして今日、俺はお前をこの手で倒し俺の力を証明する。負けたお前は惨めに俺に仕えるんだ」
 その言葉を聞きキドーはゲラゲラと笑い声をあげる。
「力だァ、笑わせてくれるじゃねェか。テメエは思ってた以上のマヌケらしいなァ!」
「どういう意味だ!」
 ベネディクトはキドーに向かって吠える。この男はどこまで自分をコケケにするのか。フツフツの胸の中に怒りが湧き上がる。それと同時に再び誓いを新たにする。今日ここでこの男のすべてを奪い取ってやろうと。この男がかつて自分にそうしたように。
「お前のギフトを使って拘束を解け。それくらいの時間はくれてやる。だがな、拘束が解けた瞬間がお前の最後だ」
「そいつはどうかな」
 キドーの言葉を無視してベネディクトはこぶしを構える。だが次の瞬間、その頭にガラス瓶が叩きつけられた。思わず前によろけると、後ろにいた仲間たちがベネディクトを蹴り飛ばす。
 倒れ込んだベネディクトを仲間であったはずの男たちが取り囲んで起き上がれないほど熾烈に痛めつける。頭を庇う手の骨は砕け口の中に鉄の味が広がる。そんな中、仲間であったはずの男の声が耳に入った。
「あんたには感謝してるよ。だがな、一騎打ちだ? 何でそんなことをする必要がある」
「何……を……」
 ベネディクトが戸惑いの声を上げるとキドーは鼻を鳴らす。
「だからマヌケだって言ったんだ。騙されたんだよ。テメエは」
 その言葉を肯定するかのように仲間だった男がしゃべり始めた。
「俺たちはな、金が欲しかったからあんたの計画に乗ってやったんだ。金づるをこうして捕まえた以上、あんたはもう用なしなんだよ!」
 男はベネディクトを馬鹿にするように叫ぶと、これで金は自分たちの物だと最大に歓声を上げる。
「小せェなァ!」
 その声を一人の小鬼がかき消した。
「チンケなモンだ。そんだけ頭数揃えて、金だけ取って終わりかァ?」
 ぎろりとした目でキドーは一人一人を睨みつける。
「その程度の半端な覚悟で俺に喧嘩売るとはいい度胸だ、タマナシども! 俺はいづれこの混沌さえも支配する男だ。俺のモンが欲しいなら、全力で来やがれ!」
 キドーはそう高らかに宣言する。ベネディクトは目を見開いた。声だけで分かったのだ。キドーが本気でこの混沌さえも支配しようとしていることに。
 弱者であるはずのゴブリンが本気で世界を相手取ろうとしている。自分では考えたことのない領域に手を出そうとあがいているのだ。
 ベネディクトは赤く染まった視界で小鬼を見上げる。体を縛り付けられており絶体絶命の危機。それでもなおキドーの顔には余裕が浮かんでいる。その姿が大きく見えるのはきっと自分が地に伏せているからだけではないのだろう。その瞬間、ベネディクトは察する。今目の前にいる男は決して弱者などではなかったのだと。
 その顔は数多の挫折や苦悩を乗り越えあがき続けた男の顔。打ち付ける荒波の中を進み続けてきた証。自分が間違っていたのだ。キドーという男は、初めて出会った時から遥かに自分を超えた強者だったのだ。
 キドーの挑発に、顔を怒りで染めた男が飛び掛かる。その顔をベネディクトは気づけば殴りつけていた。キドーを心の底から憎んでいた。自分の在り方を否定する男が憎らしかった。そのはずなのに、気づけばベネディクトはキドーの拘束を解いていた。
 解き放たれたキドーは凝り固まった体をほぐすように首を鳴らす。
「ゴブリンをなめるんじゃねェ!」
 小鬼は拳を握りしめると、敵の顔に拳を沈めた。

 殴り合いが始ってからどれほどたった頃だろうか。異変を察知したキドーの部下たちが騒ぎを聞いて駆けつけて来ていた。キドーを人質にし対抗するはずだった計画は途端に破綻し、反乱に参加した者たちは次々と制圧されていく。
 そんな中、床に倒れ込むベネディクトを緑の足が蹴り飛ばした。
「反乱の頭はテメエだったな。落とし前はキッチリつけてもらうぞ」
 その言葉にベネディクトは口角を上げる。
「今日は失敗した。だがな、俺は必ずあんたを超える。あんたの上に立つ」
 その言葉に嘘はない。だが、一つだけ前と決定的に違うことがあった。それは理由。最初は憎しみからだった。だが、今のベネディクトにそれはない。キドーは強者だった。なら恨む理由などない。故にキドーに向ける思いはこいつよりも強くなるという野心だった。
「必ずお前の全てを奪い取る。だから、それまで誰にも負けるんじゃねぇ。お前を倒すのはこの俺だ」
 その返答にキドーは目を細める。
「その立場で俺に命令とはな。おもしれェじゃねェか、やれるモンならやってみろ」
 そう言い残してキドーはその場を後にする。そんな二人を朝日が照らす。長い動乱の夜が終わり新たな一日が始まる。どんな処分を受けようが、自分がキドーを超えるその日まであいつには誰にも手出しさせない。そんな生き方をしようと誓いながら男は一人意識を手放した。

  • 誓い完了
  • NM名カイ異
  • 種別SS
  • 納品日2022年11月24日
  • ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244

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