PandoraPartyProject

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例え幾千経ようとも

登場人物一覧

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

 時は過ぎる。砂時計の様に。

 今からおおよそ五年前。ヨゾラがまだ混沌世界に召喚されるより前の事――
 彼は『魔術紋』と呼ばれる存在であった。
 ……そう。『魔術紋』であり、まだ『名前』すら定まっていなかった時代、だ。
 その折、彼は一つの部屋にいた。混沌で言えば幻想王都風の建物――或いは中世欧州風の――とでも称そうか。ともあれこの世界における貴族に位置する者の屋敷に彼はいた……一つの手紙に導かれて。
「……ここかな? ここだよね? 今度こそ、そうだよね?」
 幾度も目線を手紙へと落とす――その先に在るのは、一つの梯子。
 とある『貴族青年』の秘密基地である隠し部屋への入り口だ。たしか彼によれば、ずっと使われていない物置小屋……の更に先に屋根裏部屋へと続く梯子があるのだと。そっと、誰にも見つからぬ様に隠されていた手紙の通りに進めば――実際、あるものだ。
 埃被り蜘蛛の巣も張っている代物が。
 ……ここまで来るのは長かった。なにせ自らに宛てられた手紙の通り進んだのはいいのだが――一発で辿り着いた訳ではない。一回目は古時計の前に導かれ、そこにもまた隠し手紙があって、更にその内容を見て別の場所に進んで……と、なんぞや誘導されてきた。
 おかげで屋敷各地の探検の様な事は出来た訳だが――途中で使用人に見つかりそうになった時は流石に危なかった。やれやれ『彼』の出来心かもしれないが、割と道草も食った気がする。悪くない充足感も、どこかにあるものだが。
「よっと……うわ。結構古い梯子だ、大丈夫かな」
 ともあれ……成程。『これ』は他の者が知らぬはずだ。
 隠し部屋へと通じる梯子――己だって事前に聞かされ注意深く目を凝らしていなければ分からない。屋敷の使用人だって用がなければこんな所には来ないだろう。だからこそ今まで見つからず秘密基地足りえたのだろうが。
 ――手を掛ける。木の軋む音がすれば、折れるのではとも思うものだが。
 ゆっくりと足も委ねれば少しずつ、少しずつ――昇っていけるものだ。
 天上付近へと至れば其処には扉もある。
 何かに引っかかっているのか押し込んでも中々に開かぬ、が。幾度も力を込めていれば……
「わっ」
 やがて勢いよく開くものだ。激しい音が鳴れば、誰ぞに気付かれぬか微かに慌てるが、気付かれた様な気配はない。であればと気を取り直して奥に視線を。埃を吸い込まぬ様に服の首元を鼻の所まで押し上げて――進む。
 あぁもう、なんて場所だ。秘密基地にするだけの事はある……と。
 想いと視線を屋根裏部屋へと巡らせれば――其処は小さな空間だった。小さな、と言っても動き回るに不足はない程度の広さはある。本棚の中には書物が列を成しており、地図や薬草の見分け方、山における心得など様々あるか。
 更にその果てには何やら冒険の為の小道具が置かれていた。持ち運びしやすそうなリュックに手袋、ちょっと傷はあるが長めのロープに、これは双眼鏡……? ともあれ視線を巡らせる中で特に興味深かったのは。
「これは……手紙、と。箱?」
 明らかに『違う』代物であった。
 なんだろうかこれは、と思いて開くも。
 なんとなし『魔術紋』は分かっていた。これは『彼』が残したものだろう。
 きっと――いつか来る己宛てに。
 ……ゆっくりと手紙の一枚目を手に取れ、ば。

『この部屋はね……冒険前の秘密基地として作ったんだ。
 使用人の皆にも見つからない様に少しずつ色々運んでね。良い所だろう?』

 やはり自らに読ませるために残していたのだろう――明らかにソレは誰ぞと知らぬ者へ読ませる一文ではない。然らばやれやれと……吐息を一つ零しかけるものだ。隠し手紙で導いて、更に其処にも言を残しているなんて。
 些か遊び心が過ぎるな――なんて。まぁ、彼らしくもあるのかもしれないけれど。
『なにより、天井に近い窓から夜空が綺麗に見えるんだよ』
 と、その時。
 彼は『見た』。手紙に書いてあった通り、天へと視線を向ければ。
 其処には天窓が一つあったのだ。恐らく位置的に外からは見えぬ。
 此処からでなければ見えない。月の光が差し込む、天窓が――
「――あっ」
 そして『見た』。本来、この隠し部屋の主であった彼だけが知っていた光景を。
 その瞬間に――己が瞳にも刻まれる。
 在るのは星空。夜の闇に浮かぶ煌めき。これが……
「『夜空』……? これを、夜空って言うんだね?」
 ……『魔術紋』はその時『夜空』の意を知らなかった。
 東方の島国の言葉らしいが、東方との交流すら無い時代だ。偶然か、興味深かったが故か、ともあれ遠方の国の言葉をなにがしかの理由で知った『彼』がいなくば、そもそもこの刹那に縁が紡がれる事も無かっただろう。
 だけど。『彼』がいたから紡がれた。
 今この一時に。確かに、魂の奥底へと。
 こんな……こんな世界を、知っていたんだね?
『僕は行くよ。きっとこの手紙を読んでる時、僕は此処にいないだろうね。
 だから――是非、受け取ってほしいんだ。箱を開けてみてほしい』
 そして。続け様に箱の方へと視線を落とせ、ば。
 在りしは一つ。眼鏡である。いや、度は入っていないが故に伊達眼鏡という代物か。
 ……サイズの合う物だ。
 彼が残していったのか。己の為に。プレゼントとして――
 体を置いて魂だけで出奔した――彼が。
『体は、君に託すよ』
 この眼鏡はその意思か。
 自らが身に着けるモノではないとして残していったのか。あぁ……
 ……そして、それ以降の手紙には彼自身の想いが紡がれていた。
 冒険への切望。夢見る未来への喜び。魔術紋である『君』との語らい。
「うん」
 いつかまた会えるだろうか? いつかまたどこかで君と語らえるだろうか?
 『魔術紋』たる彼は身に宿す。彼の託してくれた、眼鏡を。
 大切に。肌身離さぬ様にと――決意しながら。

「――大切にするよ」

 きっと。胸に抱いたこの想いが君に通じる事を願って。
 彼は天窓を見据えながら言葉を零すものだ。
 ……時は過ぎる。砂時計の様に。
 あれから五年。世界を渡る事となり、日々に新しき出来事と共に『魔術紋』はある。
 だけれども彼は――いや『ヨゾラ』は。
 あの日の事を永久に忘れる事はないだろう。
「だって、あぁ」
 見上げた窓から見えた夜空は、とても綺麗だったなぁ……
 混沌世界に訪れたヨゾラは記憶を想起しながら、再び言を零すものだ。
 あの日の様に。なぜならば、今日も。

 満天の煌めきがある『夜空』が――其処にあったのだから。

 彼の託してくれた眼鏡と共に天を見据えながら、ヨゾラは在り続けよう……

  • 例え幾千経ようとも完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2022年11月16日
  • ・ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916

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