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SS詳細

故郷のない軍医

登場人物一覧

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ヨハンナ=ベルンシュタインの関係者
→ イラスト

名前:ニフリート・リエース
種族:人間種
性別:男
年齢(或いは外見年齢):30代
一人称:私
二人称:貴方、~さん
口調:温厚なる医師(です、ます、ですか?)
特徴:長身で色白の優男。森の樹々を想起させる緑色の眼。同じような緑色の服の上から白衣。
設定:
 ニフリート・リエースは、ヴィーザル地方ワトーの街で生まれ育った。
 ワトーの近くには広大な森林があり、そこの精霊達は幼い頃からニフリートを愛した。故にニフリートは精霊の声を聴けて、その力を借りて治癒の魔術を行使できた。長じては呪医として魔術で癒やしを施しつつ、薬師として薬草についても造詣を深めている。
 だが、ニフリートの運命は、ノルダイン襲来により変貌した。ワトーの街が、壊滅したのだ。
 この日、多くの住民を――何より、父母と妻子と妹を――救えなかったニフリートは、魔術と薬草に頼る自身の医術に限界を痛感。外科の知識・技術を習得するため、スチールグラードに移住して鉄帝軍の軍医となった。

 ワトー壊滅以来、ニフリートの胸の内には医師でありながら肉親や住民を救えなかった無力感、自分だけ生き残ってしまった罪の意識サバイバーズギルト、暴力を以て他人を虐げる者への憤怒が激しく渦巻いている。それ故に、ニフリートはスポンジが水を吸うかの如く外科の知識・技術を会得できた一方で、精霊の声が聞けなくなった。
 しかし、ニフリートはこれらを表に出すことはなく、柔和で温厚な軍医としての仮面を被り続けている。だが、医師同士として交流を持ったレイチェルと飲んだ際には酷く泥酔し、仮面の下を見せてしまった。ニフリートは泥酔した事実しか覚えておらず、レイチェルもこの夜については何も言わないまま、互いに付き合いを続けている。

 新皇帝バルナバス即位の後は、帝政派としてサングロウブルクに移った。暴力によって肉親と故郷を喪ったニフリートにとって、力ある者の自由を謳うバルナバスの勅命はノルダインの所業を想起させ、到底受け容れ難い故だ。
 ニフリートは現在、軍医として忙しなく活動している。一方で、レイチェルに『国境(派閥)無き医師団』の構想を語られた際には大いに共感し、助力を約した。

 ニフリートには、今後二つの声を聴く可能性がある。一つは、かつて聴けた精霊達の声。もう一つは、心に抱く憤怒に働きかけて魔に誘わんとする声。どちらを先に聴くかによって、ニフリートの運命は再び変貌するだろう。

おまけSS『あの日の夢』

 街が燃える、人が死んでいく。それは、家族も例外ではなかった。
 往診から戻った時には、自宅は既に血の海になっていた。最早生存は絶望的だが、それでも生きていてくれればと、家族の姿を探す。
(父さん、母さん、ルビーン、アダマス、フローライト……!)
 父母が、妻子が、妹が、血塗れになって倒れていた。母さんとルビーン、アダマスは既に事切れている。辛うじて生命の感じられる父と妹の傷口に薬草を塗り、魔術による癒やしを施す。
「儂は……もう、助からん……無駄なことは、するな……」
「何を言うんです! 父さん!?」
 治癒の魔術で意識の戻った父が、治療を拒む。そんなこと、聞けるはずがない。精霊達が力を貸してくれれば、治せないことはないはずだ!
「ここは……もう、危ない。お前……だけで、も、逃げ……延びろ。
 お前は……ここで、死んで、いい奴じゃ……ない。儂は、救えなく、ても……生きて、いれば……もっと多くの……」
 だからと言って、見捨てられるはずがない。魔力の続く限り、治癒の魔術を施していく。
 父さんが力を振り絞るようにして片腕を上げ、掌を頬に当てる。頬を張ろうとしたのだろうが、その力も残っていなかったのだ。
「聞き、わけろ……助かる、お前を、道連れ、に……したと、あっては……。なぁ、どうせなら……お前だけでも、逃がせたと……満足して、死にたい、んだ……」
 父さんが語る間にも治療は続けているが、一向に回復する気配はない。そうしているうちに、周囲が騒がしくなってきた。
「……父さん、ごめん。ごめんよ」
「それで、いい……行け……」
 父さんもフローライトも、もう助けられそうにはなかった。このままノルダインに私まで襲われては、父さんは悔やんでも悔やみきれないだろう。
 涙ながらに父さんに謝ったが、父さんは微かに笑みを浮かべてくれた。その笑顔に送り出されるようにして家族に背を向け――私は、自宅を出た。

 はっとして、ベッドで身を起こす。
「また、あの日の夢ですか……」
 以前から時々見ていた夢ではあったが、バルナバスが新皇帝に即位したとの報を受けてからは、ほぼ毎日だ。
 寝汗を拭いて目覚ましの水を飲み、鏡を見る。
「ははっ。酷い、クマですね……」
 不思議と込み上げてくる笑いを堪えながら、目の下のクマを隠して血色が良いように見せるべく化粧を施す。医師が、患者に心配をかけるわけにはいかない。
 もう手慣れきった化粧を終えると、寝室を出た。やるべき事は、山積している。


「ニフリート、大丈夫かなぁ」
「不安、だよね……」
 いつものようにあの日の夢を見て、ニフリートは目覚めた。心身共に消耗しているのは明らかだけど、ニフリートは決してそれを見せようとしない。
 あの日からぼくらの声が届かなくなって久しいけど、この国に魔の気配が強く漂いだしてから、ニフリートの雰囲気はさらに険しくなった。ぼくらはもう、鬼気迫るニフリートに怯えさえ感じている。それでもニフリートの側を離れないのは、みんなニフリートが好きだからだ。
 だから、ぼくらの声がもう一度届くようにと、そしてニフリートが魔に取り込まれないでいられるようにと、ぼくらは願わずにはいられなかった。

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