PandoraPartyProject

SS詳細

きみとふたり、ならんであるく

登場人物一覧

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾

 きらきらの太陽。気持ちよさげな雲。葉っぱとヒゲをくすぐる風。縄張り巡回にはもってこいな青空は今日も今日とて高くて、遠くて、そして——ひらひらと視界に映り込む『それ』は赤い。
 蝶々のような。花びらのような。リンゴのような。苺のような。こそばゆくて飛びつきたくなる気持ちと闘っては前足を舐める。子猫じゃあるまいし。
「猫隊長! いる、した!」
 タッタッタッと足音も殺せない子供のご登場に、尻尾をゆらりと翻して耳だけを向けてやれば影が落ちる。
「今日もいい天気、するから、日向ぼっこ?」
 にゃ。そこまで暇じゃねぇぞ、と伝えても伝わらない。猫とそれ以外は意思疎通が難しいことだってとっくにわかって——
「よし。それじゃあ、街行く、するぞ!」
 ——それにしたって酷くないか。抗議しようと振り返った先、降りそそぐ視線と顎の下を滑った白い指がそのまま首の赤色に触れる。ぐるりと結ばれた『それ』は元々はコイツが身につけていたリボンで、『首輪』と呼ばれるものだということも知っていた。飼い猫になんかなったつもりはないが。
「……また、お魚おごる、するから。ね?」
 額が狭いと言われようと心は広く、子分のワガママのひとつも聞いてやろうか。なら先陣を切るのがボスの仕事だ。
「にゃあ」
 カルウェット。名前を呼んで促せば、太陽よりも眩しい笑顔が瞬いた。

 新しい首輪を作るのだ、と。町の人間たちに話して回る内容から本日の目的を知る。
「ならこれ持っておいきよ。たくさん余っているからね」
 まず、材料を買うつもりで入った布や糸の店。
「針で縫うの難しくない? でも接着剤は猫の体によくないか……」
 次は人間が読み書きに使う筆や鋏を売っている店。
「うちのミケにも作りたい! 僕も一緒に、だめかな?」
 なぜかお供が増えた、甘いおやつの店。
「ほら、こういう金具でさ、引っかかった時に外れるようになってるんだぜ」
 よくわからない金属がたくさんある店。
「これも、これも! ついてたらかわいいとおもう! ぜったい!」
 いつまでも木の実探しが終わらない公園。
「なあ。それ、全部持って帰るの大変だろう。うちで作業してくかい?」
「とかなんとか言って、猫ちゃん触りたいだけでしょー?」
 ゴールは仲のいい番がやっている飲み食いの店だった。

「いっぱい集まる、したなぁ……」
 手提げカゴに詰まった材料はテーブルの上にとても並べきらない。首輪ひとつ分どころか、なんならこの町中の猫にも作れそうだ。
「あっ、隊長だめ、転がるしたら大変!」
「これはビーズっていって、食べられないんだよ?」
 なんでも口に入れるような子猫じゃねぇぞ。ひと鳴き文句を入れても、すっかり仲良くなったお子様ふたりは聞いちゃいない。テカテカと光る赤い木の実は没収されてしまった。
 そんなら巡回にでも行くか。一段高くなったカウンターの上に跳んで、ぐるり、見渡せばすぐその気も変わった。
 あーでもないこーでもないと悩む声に、店中から答えるお節介たち。この町はカルウェットの辿々しい言葉にも世間知らずな行動にももう慣れっこだ。少し歩いただけでこんなにも善意が集まるくらいには。
 丸くなって耳を澄ませば、笑い声、はしゃぐ声、騒がしくてやさしい音色。今までは近づかないようにしていたのに、どうしてだろう。ここなら遅めの昼寝にも悪くないと思えて——



 ——歓声がふたつ、重なった。淡いオレンジに染まった店内にあたたかい拍手が満ちる様を、くああ、と大欠伸をした茶虎の猫が見下ろしていた。
「隊長、隊長。おいで」
 興奮を押し殺して遠慮がちに差し出された手の中へ、足音もなく着地してみせる猫隊長。
「嫌するしたら、教えてね?」
 どうやら気に入らなかったらどうしようという不安の表れだったらしい。
「にゃあう」
 『仕方がねぇな』と宥めるような瞳と見つめ合ってから、そろりと赤いリボンを解く手。次に取り出したのは三角の布、ペイズリー柄の小さなスカーフだ。
「金物屋さん、これなら隊長、狭いところ通っても安心って」
 噛み合った金具を外せば、既に作られていた結び目はあくまで装飾だとわかる。位置を調整したそれがカチリと嵌まる。
「苦しい、しない……?」
「にゃ」
 コスモスに似た桃色とも紫色ともとれる布地。細い革紐に通され、どんぐりと共に首元で揺れる黄金色のビーズ。秋らしい組み合わせの中にそれぞれの色がしっかり取り入れられていた。
「はい、鏡をどうぞ!」
 卓上鏡に全身を映した猫が、くるり、モデルさながらの堂々としたウォーキングで支障はないと示す。それから、端切れの欠片や失敗作と思しき山を振り返って何かを咥えた。
「んなう」
 それは首輪には大きすぎる木の実とビーズを革紐で括った余り物だ。
「猫隊長?……これ、付けろ、言ってる?」
「にゃう、にゃ」
 てし、てし。やわい前足が、顔を合わせるべく屈んだカルウェットの角に触れていた。

  • きみとふたり、ならんであるく完了
  • NM名氷雀
  • 種別SS
  • 納品日2022年10月14日
  • ・カルウェット コーラス(p3p008549
    ※ おまけSS『猫の独白/褪せない今日から未来へ』付き

おまけSS『猫の独白/褪せない今日から未来へ』

 人間たちがたまに口にする『カゾク』という不思議な言葉が気になっていた。
 遠く薄れた記憶のどこかで知っていた気がしても、本当の意味はわからない。
 だから、カルウェットがくれるものや欲しがることを側で見ては考えてきた。
 そして、自分なりの結論は『美味しいや楽しいを分け合うこと』だったんだ。
 それなら、この嬉しさも分け合いたかった。プレゼントのお礼をしたかった。
 同じものを身につけていれば、離れていてもきっと駆けつけられると思った。
 ほんわりぽかぽか、あたたかくてねむくなる、ぬくもり、ひだまりのかおり。
 なあ、『カゾク』ってのは目の前で咲いた満面の笑みと同じ意味なんだろう?



お昼寝日和、お散歩日和
今日の君はどこへ行く?
大切な君へのプレゼント

秋めいた道、飽くなき道
今日はどこまで行ける?
大切な日々を踏みしめて

秋桜、木の実、銀杏の葉

大切な日々は色鮮やかに
ボクらは重ねていける?
きっともっと、記憶より

大切な君とでお揃いの色
ボクらは家族に見える?
きっともっと、昨日より

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