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ふわふわカフェに行こう(初対面)
登場人物一覧
●幻想にて
『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)はその日、幻想の町中を歩いていた。
天気は晴れ。雲一つ……というわけではないが太陽がさんさんと照らし、この季節にしては比較的気温も高めだ。
街歩きをするには丁度良く、ジェラルドは特に何の理由もなく町に出てきていた。
そう、何の理由も目的もない。それは「何でもできる」と言い換えることもできるが、逆に言えば「何もない」のだ。
実際、ジェラルドは何をしようか決めかねていた。
遊ぶにせよ買い物をするにせよ、特に何も思いつきはしない。思いつかないなら思いつかないなりに、何かをしようとは思うのだが……。
「どっか行くかな」
そう思い付きのように呟くが、実際悪くないようにジェラルドには思えた。
なら、何処に行くか。そう考えた時、ジェラルドに声をかけてきた者がいた。
「暇なら遊び行く?」
それは『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)だった。
どうやらランドウェラも暇で町に出てきていたようだったが、丁度暇していそうなジェラルドを見つけたので声をかけたのだ。
「一応言っとくが、男だぞ」
「うん、分かる。半裸だし」
今のジェラルドを見せて10人に聞けば9人くらいは男と答えるに違いない。
「ナンパみたいとか気のせい気のせい。聞こえたんだから仕方ないもん。さ、ふわふわカフェにGO!」
「いや、いいけどよ……」
特に行く場所も思いついていなかったのだ、ジェラルドとしてもランドウェラのお誘いは渡りに船であった。
まあ、「不思議なやつに声をかけられたなぁ」とは思っていたのだが、特に敵意もなさそうだしいいか、と思ったのである。
そうしてランドウェラの案内で辿り着いたのは「ふわふわカフェ」なる場所であった。
「ようこそ、ふわふわカフェへ! お二人様ご案内でーす!」
そんな元気な店員に店内に案内されると……そこは実にふわふわな空間だった。
床は弾力のある素材でふわふわしていて、テーブルも端っこがふわふわしていて安全設計。
クッションもふわふわした素敵な心地で、ふわふわした生き物も店内を歩いていたり寝ていたりしている。
「僕もここ行ってみたかったんだよね!」
ランドウェラから見てジェラルドは戦いなれてそうな見た目……つまり戦闘を見るのもやるのも飽きているだろうと思いイメージとは真逆のふわふわな場所をチョイスしたのだが、ランドウェラ自身も来てみたかった場所ではある。
想像以上にふわふわしているが、ジェラルドもこんな場所に来るのは初めてだ。
なんというか、普段であれば来ないような可愛らしいカフェだ。
思いっきりはしゃぐような性格でもないが、物珍しさに目を輝かせてしまうのはどうしようもない。
「ほー!」
床のふわふわ素材は何で出来ているかもサッパリ分からないが、非常に心地よいし、クッションのふわふわも長時間寄りかかっていれば人としてダメになってしまいそうな触感だ。
更にあのふわふわしている生き物は……うん、どうやら猫のようだ。ジェラルドの手を舐めてスリスリしていく。
「なるほどなあ……」
要は猫カフェの亜種……というわけでもなさそうだ。ふわふわの一環として猫もいる、といった感じなのだろう。
事実、カフェのメニューも通常のカフェとは違うものばかりだ。
「綿菓子にふわふわジュース、ふわふわアイス……ふわふわしたもんばっかりだな」
「あ、見て。綿菓子にはパチパチ入れられるって」
「パチパチってなんだ……?」
覇竜でそんなパチパチなるものを食べたことはジェラルドはないが、ランドウェラは楽しそうに「パチパチ」を注文していた。
まあ、さておいて……ふわふわのクッションもふわふわの猫も、どちらも可愛らしく何とも愛おしいものがある。
覇竜にもドラネコはいるが、あれとは別のベクトルの可愛さがある。
それに、クッションや床のふわふわも……とても安らぐのだ。
「ふわふわはすぐ壊れるものだとかで少し苦手意識を持っていたが、こういうのも悪くないな!」
実際、そんな簡単に壊れるものではないのだとジェラルドも実感できた。
「なら良かった。うん、此処を選んでよかったなあ」
ランドウェラは言いながら、口の中で弾けるパチパチを楽しむ。
綿菓子が口の中で溶けていく途中で現れる、口内を弾け飛ぶパチパチ。
飴なので次第に溶けていくのだが……それもまた愛おしい、そんなパチパチだ。
背中においたふわふわクッションも、いつまでも寄りかかっていたい心地だ。
「ところで、そろそろ聞こうと思ってたんだが」
「あ、僕もなんだ。君、名前は?」
言われてジェラルドは、深い……深いため息をつく。
「だよな。俺とアンタは初対面だし自己紹介もしてねえよな」
「まあね。でも初対面でもカフェくらい一緒にするさ。あ、僕はランドウェラ。ランドウェラ=ロード=ロウスだよ」
「俺はジェラルド・ヴォルタだ」
そうして、初めて互いの名前を知った2人だが……この広い世界、そういう出会い方もアリなのだろう。
そんなジェラルドとランドウェラの今後の関係がどうなっていくかは……今のところ、天のみぞ知る……のかも、しれない。