バトルオブソード

登場人物一覧

●１つの決闘
　『黄昏夢廸』ランドウェラ＝ロード＝ロウス（p3p000788）には、気になることがあった。
　具体的には『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト（p3p010126）のことが気になって仕方がない。
　今も、とある町の屋根の上で、たまたま下を歩いていたムサシを見かけ呟いていた。
「保安官殿かっこいいよなぁ……ヒーローってやつなんだろ？」
　そこまでなら、まあいいだろう。ヒーローへの憧れというものは、男ならば幾つになっても持っているものだ。
　だから、そこまでなら問題ない。そこで済んだなら……あるいは、穏当な手段で距離を詰めようとしたならば。
　しかし、ランドウェラはそうしなかった。
「そうだ！　戦えばもっとかっこいい所が見つかるはず！　保安官殿ー！」
「フォッ！？！？」
　刀に雷を纏わせ襲い掛かるランドウェラだが、決して武蔵を殺したいと思っているわけではない。
　急に斬りかかるという、やっていることは辻斬りだし一声かけたっていっても「斬り捨て御免」や「天誅」と何も変わらないのだが、まあさておいて。
「奇襲攻撃対応かっこいいよな……まあ、保安官殿なら余裕で切り結べるだろって信頼もある」という、まあそんなランドウェラなりの倫理観と考えと結論の上で斬りかかっている。よし、あんまり擁護が不可能だ。
　しかし普段は遠距離タイプだが近くでかっこいいとこ見たいため刀を使って至近、近距離位置で戦っているのも。
　壊れるのが怖くて滅多に使わない刀を使ってるのもそうだ。この戦闘で壊れるならまあ良いかなと思ってるが、壊したくないのが本音のところだ。
　その辺り「保安官殿なら大丈夫だろ」という謎の信頼があったりする。
　しかしまあ、目と目で通じ合えるわけでもない。いきなり斬りかかられたムサシとしては「何事⁉」って感じではある。
「ちょっ…ちょっと！？！？」
　中型のビーム・リボルバーであるR83GUARD CUSTOMを構え撃つが、そのカッコいい動作はランドウェラの「男の子の琴線」に非常にくるものがあったようだ。
「なにそれかっこいい！　真似するね！」
　なるほど、ビームも男の子が憧れるものの１つだ。
　自分に出来る手段でランドウェラも……ビームこそ出ないが、それっぽいもので迎撃する。
「今のビームっぽくないかい？！」
「誰かと思えばランドウェラさん……何事でありますか⁉」
「いやあ、ちょっと保安官殿のカッコいいところ見たいかなって！」
　このくらいではまだまだ満足しない。
　ランドウェラは再び刀に雷を纏わせ、ムサシはサプレッション・ユニットの警棒を引き出しレーザーコーティングする。
　そう、レーザーソードだ。ランドウェラはこれと切り結んでみたかったのだ。
「いくよ、保安官殿！」
「意味が分からないであります！」
　一撃、二撃、三撃。切り結ぶ度にバヂッと音が鳴り、ブオンと剣を振るう音が響く。
　ムサシの顔からは戸惑いが抜け、ランドウェラに殺意がないことに気付く。
　ああ、これはつまるところ立ち合い稽古のようなものなのでありますな……と、そう悟ったのだ。
　一方のランドウェラは、楽しくてたまらない。
　ああ、やっぱり保安官殿は思った通りにカッコいい、と。そう再確認できたのだ。
　それは、なんと素晴らしいことだろうか？
　憧れが現実を前に冷めることは、よくあることだ。
　それは別に裏切りでも何でもなく「そういうもの」だからだ。
　しかし、ムサシは……「保安官殿」は、ランドウェラの理想通りに、やはりカッコよかったのだ。
　今もどうだろう、先程まで受けに回っていたムサシはランドウェラの意図を見抜き、攻めに回っている。
「よーし、やるよ保安官殿！」
「何をしたいかは分かったでありますが……！」
　ムサシは腰に下げたビームのリボルバー銃と腕を十字に交差させ、ランドウェラは腕から刀に雷を経由させて。
　そして爆発が起こった、その余波が収まった後。
　２人は同時に武器を収め……ムサシがツカツカとランドウェラの眼前まで歩いてくる。
「こらっ、人に軽率に斬り掛かっては駄目でありますよ！！！　辻斬りでないと気付いたからよかったでありますが……他の人なら監獄送りでありますよ？　やるなら闘技場などでしっかりとルーツに則ってやるであります」
　その正論な𠮟りつけに、ランドウェラはすなおに「ごめん」と謝る。
　衝動も収まり憧れも再確認できたからこそ、自分のやったことがあんまりよろしくないことは冷静に判断できたのだ。
「なんかテンション上がってて調子に乗ってしまったよ。次やるときはちゃんと闘技場に誘うね、保安官殿」
「ん、それなら大丈夫でありますな」
　これでめでたしめでたし……とは、そうはいかない。
　通常であれば町には警邏がいて、街中で切り結んでいる連中がいれば当然警邏に通報がいくわけで。
「暴れてたのは貴様等か！」
「やばっ」
「逃げるでありますよ！」
　さしもの宇宙の保安官といえど、現地の法律には敵わない。
　ムサシとランドウェラは屋根を跳んで逃げて……そうしてバッタリ合流した後、楽しそうに笑い合ったのだった。