PandoraPartyProject

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鳥獣歌いて、龍は未だ眠る

登場人物一覧

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ゴリョウ・クートンの関係者
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 ──豊穣、ゴリョウ亭本店。

 時刻は夜もとっぷり、とっぷりと更け、飯処たるゴリョウ亭もとっくに店仕舞いとなっている。……ところが、閉店時刻を過ぎたにも関わらずゴリョウ亭の店内ではまだ複数の人影が留まっているようだった。その数、計5人。すわ強盗かと思いきや、どうにも様子が──

「「「「かんぱーーーーーーい!!!」」」」

カーーーーーーンッ!!!!

 店内でジョッキを鳴らす音が響く。乾杯の声は4つ。意気揚々と麦酒ビールを喉に流し込む面々をざっと見たところ、獣種ブルーブラッドの集団に見える。しかし、身体の一部が明らかに獣種とかけ離れた異形であったり翼が生えている者もいる事実が、彼らが旅人ウォーカーであるということを指していた。

「……おい。おい。オメェさんたちよぉ……」

 唯一、ジョッキを手にしていない人物……この店の主人であるゴリョウ・クートンは眉間に皺をきゅっと寄せて( ‘ᾥ’ )美味そうに麦酒を流し込む面々を眺める。
「俺にも明日の準備ってモンが、」
「あっ、ゴリョウちゃーん。オレ、エビチリ追加ねー」
「あっ、わたしも! わたしも食べたーい!」
「拙者は次に熱燗を」
「私は蓮根の挟み揚げで」
「話を聞けえーーーーーーぃ!!?」

 わちゃわちゃと喋り倒して注文する四人組にゴリョウは叫ぶが、その手は既に注文票にオーダーを書き込んでいる。哀しきかな、料理人の性である。

「何回目の乾杯だよ!? 来てから数時間経ってるのによくその宴会始まりのテンション保てるな!?」
「ええとぉ……5回目くらい?」
「多いわ。ラストオーダーとっくに過ぎてんだよこっちは! 片付け終わってんのに揚げ物注文するのはやめろ!」
「ままま、固いこと言うなよゴリョウちゃん。オレたちの仲だろ?」
「深夜料金はきちんと払うぞ」
「そうだぞゴリョウ、拙者たちの腹を満たせるのは貴殿しかいない」
「複雑だなぁオイ、他の店じゃ出禁モノだからな!?」

 見るとテーブルの上には既に空になった皿とグラスの夢の跡。ゴリョウも閉店作業の合間に片付けてはいるが、この4人は話をしながらでもわいわい注文を追加するものだからゴリョウは大忙しである。
 この腹ペコ四人組……動物と竜のキメラの様な彼らはゴリョウ亭の店主、ゴリョウと出身世界を同じくする旅人ウォーカーたちである。

 虎の獣人を彷彿とさせる姿に龍の左腕を持つ男──トラウ。
 犬の獣人に翼を生やした様な姿に龍の右腕を持つ男──トリィヌ。
 羊の獣人を彷彿とさせる姿に龍の右脚を持つ女──ヨウエン。
 蛇の獣人に大きな角を生やした様な姿に龍の左脚を持つ女──タツミ。

 その正体はかつて元の世界で『世界の敵』としてゴリョウと相打ちになった『黒龍』から別たれしたちであり、『世界の敵』としての要素が抜けた彼らは旅人として世界を巡りながら、欠片彼ら全員を束ね、再び『黒龍』に戻れるようにするための『何か』を探しているのだが、時折こうして定期的に集まりを開いて情報共有を行っている。その会場として専ら利用されているのが同郷のゴリョウが開いているゴリョウ亭本店というわけだ。
 ゴリョウとしても知らぬ仲ではなし、混沌この世界をかつての世界ではできなかった様な楽しみ方ができている彼らを邪険にする気にもなれない。──なれないの、だが。

「ゴリョウさ〜ん、麦酒追加でお願いしまーす。あっ、なめろうもお願いしますぅ」
「私は芋焼酎で頼む」
「オレ地酒ー」
「今度は米酒を」
「オ〜〜メ〜〜ェ〜〜ら〜〜!!!」

 何せ彼ら、揃いも揃って大食漢の大酒飲みなのである。1人でも数人前ぺろりと平らげちゃいそうな奴らが、4人も揃っているのである。貪る様な食べ方はしないが、こういう風に長らく会話をして楽しみながらたっぷりと食事と飲酒をする。これが平時であればゴリョウも両手を広げて歓迎した可能性もあるが、敢えてもう一度言おう。時刻は夜もとっぷり、とっぷりと更け、飯処たるゴリョウ亭もとっくに店仕舞いとなっている。正直、ゴリョウ・クートンという男でなければとっくに彼らは店から叩き出されていたに違いない。

「そういや最近、鉄帝ゼシュテルに行ってみたけどヤベェなあそこ。国中が世紀末真っ最中」
「ああ、皇帝が変わったらしいからな。国内も派手に分裂しているらしい」
「拙者も行こうかと思ったが、トラウが居るのは把握していたから見送った」
「すっごく物騒な雰囲気って聞いてますよぉ? どこもかしこも武装してるって」

 ヒーヒー言ってるゴリョウを他所に、その時、彼らの話題にあがっていたのは鉄帝国ゼシュテルのことだった。"自身と同じ『黒龍』の欠片の位置が分かる"というギフトを持ち合わせているがゆえに、基本的には各国にバラける様に活動を続ける彼らだったが、その時、奇しくも全員が鉄帝国ゼシュテルの情勢に興味を持っていたらしくその話題は大いに盛り上がっていた。実際に内部を見てきたトラウはニヤリと笑って酒を呷る。

本当本当マジマジ。あんだけ鉄帝の兵器の横流しやら軍事力の取り合いやらやってるんだったら、その内ポロッと『オレたちを補うパーツ』も出てきそうだよな。ま、その前に冬が来てゆるーく滅んでも可笑しかねえが」
「えー、嫌ですねぇ……あそこの元気のいい食材を使った料理、結構好きなんですよぉ。そうだ、料理といえば海洋の、」
「シレンツィオ・リゾート?」
「そう! そうなんですよぉ! 凄いですよ彼処!! 美味しいご飯も綺麗な景色もいっぱいで!!」

 興奮した様子のヨウエンが今度は海洋の話題を口に出す。風光明媚な景色と美味しいご飯は鉄帝の情勢よりも更に彼らの関心を引いた様で、やれ二番街の飯屋が美味しかっただの、四番街のアジアン・カフェのスイーツが美味しかっただのカジノが凄かっただの先ほどより余程、熱のこもった情報のやりとりが交わされている様だった。

「……私は竜宮城に興味があるな」
「えっ! 意外……トリィヌさんも男の子なんですねぇ……」
「違う。海の底はまだ私たちにとって未知の場所だからだ。『パーツ』があるかもしれん」

 はわ……と驚いたヨウエンにトリィヌは顰めっ面をして静かに反論した。それに手を叩いて面白がったのはトラウだ。

「はっはっは! オレは普通にバニーちゃんたちに興味があるがな! 男ならああいう場所は一度は行ってみてぇって思うだろ、なぁゴリョウ!!」
「思わねえよ!?」
「あ、ゴリョウさんもどぉぞぉ。お疲れ様で〜す」
「えっ、お、おう。どうも……いや俺、オメェさんらの料理作ってたんだが?」

 ちょうど追加のツマミを運んできたゴリョウの手にさっとグラスを持たせ、(タツミの頼んだ)米酒を取って新しいグラスに注いだのはヨウエンだった。彼女には猿の因子も入っているせいか、おっとりした見た目に反して器用というか妙に手際がいい。タツミはタツミでゴリョウが話に加わるのは歓迎しているのか、特に文句も言わずに米酒の残りを自分がさっきまで使っていたグラスに注ぎ込んで飲み始めた。

「私たち以外に他の客も居ないんだ。多少はいいだろう」
「そりゃあ閉店時間だからだよ……いや、いいけどよ」
「うむ、いい飲みっぷりだ」

 トリィヌが促すままにぐいーっとグラスの中身を飲み干したゴリョウに満足そうに頷いたのは、四人組の中で1番飲兵衛のタツミだった。自身もグラスの米酒を飲み干し、自分とゴリョウに新たに酒を注ぐ。

「ゴリョウはいい酒を仕入れる。……相打ちになった者同士、こうして酒を飲み交わすとは数奇な巡り合わせだな?」
「……ぶははっ、ありがとうよ。確かになぁ、ゼンシンも同じようなこと言ってたぜ」

 自身の弟子を思い浮かべながらゴリョウは豪快に笑う。かつての仇敵同士で酒を酌み交わし、なんなら自分が作った飯を食わせてやる──なんともこそばゆくもたまらなく愉快なことで、それがゴリョウが彼らを毎回迎え入れる理由でもあった。

「あー、流石にいい時間だなぁ……そろそろお開きにしようぜ?」
「賛成でーす……」
「うむ、実りの多い時間だったな」
「拙者はまだまだ飲めるが」

 それから暫くして。時計を見たトラウがお開きを提案し、ふわぁ……と欠伸をしたヨウエンがそれに賛成した。トリィヌが難しい顔をしながらきっちり端数まで飲食代を出し、タツミはまだ飲んでいる。

「おう、毎度あり。ったく、ようやく店の電気を消せる……」
「んじゃ、続きはゴリョウの家の方で飲むかぁ〜」
「……なんて!?」

 ゴリョウが驚いている間に、四人組は各々酒を担ぐとずんずんとゴリョウの生活スペースの方に進んでいく。ちょっとの間、あっけにとられたゴリョウだったが慌てて四人組を追った。

「っておいコラお前らまさか泊まる気か!?」
「お世話になりまぁーす」
「そういうことははよ言え! 寝床の準備もあるんだぞ!?」
「それくらい私たちも手伝うに決まっているだろう。こんな時間まで世話になってるんだ、皿も洗う」
「手伝う? いやお前ら客人手伝わすのは流石にって待たんか!」

──ガチャッ。

「よぉーし、勝手知ったるゴリョウちゃんにお邪魔しまーすっと」
「勝手知ったるじゃあねぇんだよ!? ってかその鍵どうした!?」
「合鍵作った」
「怖っ!? 勝手に作るな!!」
「ほらヨウエン、貴殿の寝衣だぞ」
「タツミさん、ありがとうございますぅ!」
「……待て待て、どこから出した!? その寝衣うちになかったはずだよな!? いつの間に置いてた!?」

 もうゴリョウのツッコミも追いつかない。トラウは保管庫から乾き物のツマミを追加で持ってちょろまかしてくるし、トリィヌは広い部屋にテーブルを置き酒を並べ、ヨウエンとタツミはまるで修学旅行の様にてきぱきと布団を敷いていくのだ。元がひとつだったせいか非常に連携が取れているのだが、その様子は嵐というにふさわしい。

「ちょ、お、おっ……オメェらーーーーーー!!!」

 ──静かな夜の闇をつんざく様にゴリョウ亭からゴリョウの怒号とも悲鳴ともつかない叫びが聞こえてきたが、幸いにもそれを聞いていたのは夜の虫たちだけである。



 ──翌朝。

「うぉえ……気持ち悪っ……トリィヌ……水……」
「だから貴公はあまり飲みすぎるなと言ったろうトラウ」
「zzz……」
「ヨウエン、起きろ。朝だぞ」

 部屋に入ったゴリョウを出迎えたのは中々に惨憺たる有様だった。部屋には酒瓶がゴロゴロと転がり、布団は乱れ、トラウは二日酔いで苦しみ、ヨウエンはすぴすぴと安眠している。はしゃぎまくった大学生が旅館に泊まった時の様である。比較的しっかりしているトリィヌやタツミがしゃっきりとしていて、部屋の片付けや仲間の介抱をしているのが幸いか。……1番酒を飲んでいたタツミがけろりとしているのがちょっと怖いくらいだが。

「あー……オメェさんら、朝飯は、」
「あさごはん!!!!」
「ガッ」

 「朝飯」の単語に反応してヨウエンが飛び起きてタツミの額と鉢合わせする。タツミは額を抑えてその辺を転げ回るが、ヨウエンはなんともなさそうに布団から這い出てきた。相当丈夫な額を持ち合わせているらしい。

「ゴリョウさぁん、おはようございます!朝ご飯はなんですか!」
「……和食でいいよな?」
「わぁい、ゴリョウさんの和食!」

 完全に朝食を貰う気でいるヨウエンに苦笑しながらゴリョウは尋ねると、にこにこしながらヨウエンは飛び跳ねた。元々食べさせる気で用意はしたのだが、そんな風に喜ばれると『図々しい』という感情などどこかに吹き飛んでいってしまう。

「ほら、みんな……というかトラウとヨウエン! 朝飯は身だしなみを整えからだ!」
「おーぅ……わかった……」
「では拙者とトリィヌが手伝おう」
「いいっていいって! オメェさんらは客なんだからよ!」
「私たちとて、それくらいはしなければ礼を失するというものだ」
「そうか? ……んじゃ、配膳を頼む!」

 トラウ、ヨウエン、トリィヌ、タツミ。かつての仇敵、『黒龍』から別たれた個性豊かな四人組。自由奔放で、無邪気で、時にはむちゃくちゃなことをする悪ガキ共。ゴリョウにとってそんな印象ではあるが、こんな風に世話を焼く程度には彼らのことは好きだった。きっとまた、彼らが集まる会合があっても場所を、酒を、料理を提供するくらいには。

「うっぷ……吐きそ……」
「えー! トラウさん、ここで吐いちゃ駄目ですよぉ!!」

 ……でも後で合鍵は取り上げねえといけねぇな。
 ゴリョウは静かにそう決意した。

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