PandoraPartyProject

SS詳細

かみ合わない歯車、されど其もまた友情

登場人物一覧

アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)
茨の棘
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

 幻想のとある喫茶店にアレン・ローゼンバーグ (p3p010096)とヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム (p3p010212)はいた。
 喫茶店といっても最近は色々ある。
 食事にこだわっている店、スイーツにこだわっている店、あるいはワインなどのお酒も楽しめる店。
 そしてアレンたちが今いるのは、スイーツもワインも楽しめる、そんな店だった。
 飄々とした好青年風なアレンと、明るいヘルミーネ。
 その話は弾んでいるように見えるが……2人の会話をよく聞いてみれば、何処か微妙に変であることに気付く。
「やー、美味しいパフェなのだ!」
「うん、美味しいね。これ、お持ち帰りできないのかな……」
「そんなに気に入ったのだ?」
「まあね」
 そう頷くアレンだが、自分が気に入ったというよりは姉のリリアに食べさせてあげたいな、といった風なことを考えている。
 美味しいものがあるなら姉に持って帰って食べさせてあげたい。それがアレンの基本的な思考だ。
 ヘルミーネもアレンがシスコンであると知っているので「どうせ姉ちゃんのこと考えてるのだ」と口には出さないが思っている。
 まあ、流石にアレンの言う「姉のリリア」がアレンの幻覚であるとまでは知らないが。
 知ったところでヘルミーネがどう反応するかは……これまた読めないところがある。
 アレンから見たヘルミーネは「何となく近いものを感じる」とか「僕と一緒で普段見せない一面があるのかな?」程度の認識だ。
 しかし、アレンは知らない。
 ヘルミーネの内心は完全なる人間不信。「人は醜悪」という持論があり、どのような人物であれ常に警戒心を抱いているなどということは。
 また「愛」に関する事柄は理解できない……と言うか、信じていない。
 この辺り、姉が大好きで自分の全てだと思っているアレンとは全く相容れない精神構造であるとも言えるだろう。
「しかしこの店、こんなに良いモノ出すのに流行ってねーのだ。ヘルちゃんなら星1つくらいはあげるのだ」
「そうだね。まあ、人の好みは多種多様だから、そういうこともあるのかもしれないね」
「せちがれーのだ……」
 言いながらもヘルミーネは「たぶんワインがダメなせいだろうな……」などと考えていた。
 この店、パフェはまあまあだがワインがよろしくない。
 多種多様なワインがある中で、ソムリエのセレクトがどうしてこのワインなのか。
 もっと合うものがあっただろうに……と思いつつも、そんなことは口に出さない。
 対するアレンはアレンで「早く帰りたいな……」と思っている。
 とりあえず付き合いでこの場にいるが、アレンにとっては姉のリリアこそが大切だしそれ以外はどうでもいい。
 先程から言っている台詞もヘルミーネに合わせてはいるが、心がこもっているかというと話は別だ。
 互いに全く正反対とも言える内面を持ちながら外面が「社交的」だったり「明るいお調子者」であったりするため、まさに上っ面の言葉が飛び交っている。
 人間関係に対する感度が高い者であればこの会話が「何かおかしい」ことに気付くかもしれない。
 しかし互いに被った外面は非常に分厚い。そういう域まで達したものをペルソナとか呼んだりもするらしいが、まさにそれだ。
 しかしまあ、今のところは何の問題もない。ないのだ。
「お客様。追加のワインは如何でしょうか?」
「うーん、ヘルちゃんは別のが欲しいのだ」
「僕は同じ物でいいかな。あ、いや。オススメのはあるかな?」
「はい。それでは……深緑産の白などは如何でしょう? 今年の出来はかなり良いものとなっておりまして」
「じゃあヘルちゃんはそれで」
「僕もそれを」
 これまた気が合っているように思える。しかしながら当然のようにヘルミーネとアレンの考えていることは異なる。
 ヘルミーネは「まあ、このワインよりはマシだろう」と考えているし、アレンは「美味しければ姉さんに持も買って帰ろう」と思っている。
 そう、驚くべきことにこの2人。
 楽しげに談笑しながらも全く相手に踏み込まない。
 いや、そこまでは普通だろう。今時のコミュニケーションはそういうものだ。
 しかしヘルミーネはアレンとの距離を常に警戒しながら測っているし、アレンはアレンで「姉>その他」の方程式が全く崩れない。
 しかもそれで互いの印象が「似ている、かも……?」になるのは、まさに奇跡的なミスと言えるだろう。
「どうせまた姉ちゃんのこと考えてるのだ」
「よく分かったね」
「分からないはずねーのだ」
 ヘルミーネには、愛が分からない。
 だから当然、アレンの言う「姉への愛」も理解できない。
「まったく理解できねーのだ」とすら考えている……まあ、流石に言わないが。
 アレンは、ヘルミーネには優しくしているし対応も誠実だ。
 しかし、自分の深いところを晒す気は一切ない。
 互いに自分ではない、しかし確かに自分である……深いところの隔壁の「こちら側」の自分で、同じ「こちら側」の相手と談笑している。
「アレン君をあんまり独占してても姉ちゃんに悪いのだ。次の酒呑んだら帰った方がいいのだ」
「そうかな? なんだか悪いねヘルミーネ。気を使わせちゃってるみたいだ」
「気にしねーのだ。今日は存分に遊んだし、ヘルちゃんは大満足なのだ」
「うん、僕もだよ。今日は楽しかった」
 それは、嘘などではない……真実だ。
 確かにヘルミーネは楽しかったと思っているし、アレンも楽しかったと思っている。
 この友人関係は中々得難いものであるし、きっとなんとなくそれなりに続いていくだろうな、という予感はヘルミーネにもアレンにもある。
 ただ「人は醜悪」という持論があるヘルミーネの警戒心はヘルミーネの根深いところにあって。
 アレンの「姉が大好き。自分の全て」という思考と、外に出ているのは姉に面白い話を持ち帰ってあげたい、という行動理由。
 互いの「それ」が不変であるという、ただそれだけの話だ。
 世の中、互いに深く踏み込むことだけが友情を育むということではない。
 互いに楽しげに見えながら歯車のかみ合わないヘルミーネとアレンの友人関係もまた「そういったもの」の1つであるという……これは、ただそれだけの話なのだから。

  • かみ合わない歯車、されど其もまた友情完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月24日
  • ・アレン・ローゼンバーグ(p3p010096
    ・ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212

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