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おきつね日和:2nd season.

登場人物一覧

長月・イナリ(p3p008096)
狐です
長月・イナリの関係者
→ イラスト
長月・イナリの関係者
→ イラスト

休日出勤ボーナスタイム
 交代制の狐兵には、当然ながら非番の日もある。一日中日向ぼっこをするも良し、趣味に耽るも良し、仲が良い者同士で休日を合わせて混沌外の世界に遊びに行くことだって事前に申請すれば許されている。もし一度でも戦いが勃発したら暫くそんな娯楽や遊興にふける暇も余裕もなくなるので、こういう時にしっかりと精神メンタルを癒しておくのが良い。
 ――というのは、現状ほぼほぼ建前と形骸化している。万が一の争いは今のところ起こる気配は無いし、イナリ様もそれを望んでいないように見える。少なくとも末端の狐兵たちから見てそうだし、のほほんとした日々が続いている。勿論、多くの狐兵は『死にたくないし、殺したくない』と思っているのでこの状況は有難い話だ。

●前準備
「みんなぁ、忘れ物ないかー!?」
 戦車の操縦を担う狐兵が展望塔キューポラから顔を出し、手持ちの荷物を整理する他の狐兵たちへ問いかけた。彼女たちはこれから二泊三日の外泊キャンプに出かける最後のチェック。現地に行ってからアレが無いこれが無いと言い出すのは嫌なので、最低限必要な道具を先に戦車の中に持ち込み、個人の趣味の類は自力で持って行くことになった。
天幕テント、寝具、調理道具、食材……救急箱も入れたし、其々の武器エモノもあるわね。他は――」
「待って待って! あとはこれ、これだけ入らない!?」
「何それ」
「お絵かき道具一式! 皆で思い出を残そうよ」
 嬉々として掲げるお絵かき道具一式は、顔彩に筆に小皿に画用紙が揃っている。色数が多いのでそれなりに大きい。すかさず「どごっ」と鈍い音を立て、掲げられた腕の脇腹に肘鉄を喰らわせる別の狐兵。
「それ必要!? キャンプって言ったら魚釣ったり川遊びでしょ!?」
「まぁまぁ、いいよいいよ入るから! ここをこうして……あ~この箱はパンパンかぁ。ならこの隙間に縦に入るんじゃない?」
「ありがとっ!! 『轟躙丸ごうりんまる』って積載量すごいよね」
 戦車兵にお絵かき道具一式を渡し、さすさすと戦車を触る。銘を『轟躙丸ごうりんまる』。狐兵たちに与えられている全ての戦車に言えることだが、魔力炉心に蓄積された魔力で動く特殊なエンジンを使用し、機能の後付け可能な設計の為に内部・装甲共にやや余裕がある。対戦車戦闘は考慮されていない分、車体の上に狐兵たちが乗れるので、足の疲れない快適な旅になるというわけ……転げ落ちなければだが。
「『轟躙丸この子』は補給台だからな、どれだけ物を積めるかって大事なのさぁ! 積み込むのが弾薬じゃないなんて変な感じするケド」
「良いじゃない、平和な証拠だわ」
も最近はこの世界の事で手一杯みたいね。ウッ、そんな中私たちはこんな風に遊んでて良いのかな!? 後で怒られたりしないよねっ!?」
 ピンを立てた耳をしおしおと垂らす歩兵の一人に、あははぁ~とのんびり笑う戦車兵。
「ボクらが本気で出動する時って、との戦闘になるだろうから……こうやって英気を養うのも仕事のうちっ!」
 そうは言うが実態はただの遊びだ。名目上『野戦演習』ということになって鬼ごっこやかくれんぼで遊ぶ事もあるくらい。遊びも本気でやるとかなり疲れるし鍛えられるので善しとされているようだが。随分と放任主義もとい、主体性重視の教育方針な様子。
 なら良いか、と納得した風に頷いて、鞄だけ抱え車体前方に乗った。主砲を跨いで隣にもう一人、機関室に操縦者とその隣にもう一人。合計4人で野山へ向かってゴトゴト、轟躙丸ごうりんまるは走り出した。

●お昼ごはん
「着いたー! お尻いたーい」
「何もしてないのに既に凝った……」
 固い車体の上に乗っていた二匹は腰や肩や尻をさすさす。いくらフカフカの尻尾を座布団変わりにしていても、それなりの時間同じ体勢で安全帯シートベルトもない状態でガタガタの道を移動していたらそうなる。
「操縦お疲れ様、大丈夫?」
「このくらい朝飯前! んや、朝食は食べてから出たし昼飯前?」
「お弁当出すね。お夕飯からは自炊だから、しっかり味わうように」
 機関室の中でしっかりした椅子に座っていた二人は消耗ゼロで、地元から持ち込んだお弁当を取り出す。この入れ物は後々お皿としても使うので単なる場所取りにはならない。使い捨ての紙製品を使うのもアリだが、式として『使い捨て』というところに想うところがあったようだ。
「二人とも! 道中も景色が良かっただろう!」
 機関室から顔を出した操縦士が展望塔キューポラから顔を出し、ギギギと身体をくねらせる二人を見て笑う。
「そりゃ景色は文句なく良かったけども」
「おしりが8つくらいに割れるかと思った。こんなに揺れるんだね」
「本来座るところじゃないからなぁ、其処は。こっちは快適だったよ、元々ボクは慣れているし」
「私はこの子が中で一人じゃ寂しいかと思って……でも、こっちを選んで正解だったみたい?」
「あっはっは! 今日はこれでもゆっくり走ったんだ。本来は中も相当揺れるさー!」
「あらそうなの? はい、みんなお弁当」
 目的地までもう少し掛る。そこも良いところだが、折角なら開けた場所でお昼ご飯を食べようという話に。

 お弁当を出す歩兵は赤い結紐を髪につけた『みーちゃん』、寝る時もヘルメットを外さない戦車の操縦士『ゆーちゃん』、車体に乗っていた歩兵の二人は、珍しく狐耳にピアスをつけた『しーちゃん』と眼鏡をかけた『ふーちゃん』だ。
 狐兵は兵士としての担当は分かれても見た目は皆そっくり。なのでこうやって外見から個性を出している子もいる。斥候の子なんかはむしろ「同じ姿かたちの方が都合が良い」と言って声質から口調まで意図して揃えているが、狐兵もお洒落や美食を味わう楽しみ感情を持っている。

 茣蓙ござを敷いて、その上に自分のふっくら座布団を置いて座る。お弁当を中央に配置し、箸・水筒が全員の手元に行き渡ったら、手を合わせて「「「「いただきます!」」」」。お弁当は定番のお重。みんなで仲良く突く。
「ん~~~~、おいしいなぁ!」
「やっぱり事前に栄養科に頼んでおいて正解だったわね」
「本当英断だよっ。私はお料理自信ないし……」
「あっちは「お前らの休日のメシまで私たちがつくるのかーい!」って笑ってたよ」
「どっちにしろあっちは仕事の日だし、遠慮しなくていいわよ。あ、この出汁巻たまご美味しい。ほらゆーちゃん、あーん」
 箸で摘まんだ出汁巻たまごを器用に口元まで持って行けば、ゆーちゃんは口を大きくあけて「あーん」。ぽいっと口の中に入ってきたものをすかさずもぐもぐ。車体に仲間を乗せている状態に一応緊張感を持って操縦した為、集中力を消費したので塩分も糖分も両方欲しい。この出汁巻たまごは適度にしょっぱい。
「んむんむ、これ好き」
 尻尾をぱたぱたさせてご機嫌な様子のゆーちゃんに、しーちゃんとふーちゃんが声を揃えて「「ずるーい!」」と叫ぶ。
「みーちゃん、ゆーちゃんにだけ甘くない?」
「私も食べてやるー!!」
「あなた達乗ってただけでしょ……」
 お重の中身は流石栄養科が作っただけあり、栄養満点で彩りも最高。そして景色も素晴らしいときた! 深い森の中でひっそりとしているより、やはり陽の光を燦々と浴びながらたまに吹く風にそよそよ・ぽかぽかしている方が狐らしい。
「食べたらちょっとお昼寝していきたいわ」
「ボクもそうしようかな。これからもっと道が険しいからなっ、二人を落とさないように気をつけないといけないから!」
「いざとなったら中に入れてよ!?」
「そんな隙間あったかしら……しーちゃんはどうする? 午睡するなら皆の分のひざ掛けを持ってくるわ。……、……しーちゃん?」
 お重を片付けつつ、みーちゃんはお茶だけ残して戦車荷台に戻る前にしーちゃんに尋ねる。しーちゃんは景色をうっとり眺めていて、中々声に気付けなかったらしい。ハっと気付いててへへ……と照れる。
「私は起きてる。この景色を見てたいな」
「……こういう時に使うんじゃないの? お絵かき道具一式」
「あーっ!! 忘れてた!」
「しーちゃんうるさい、もうゆーちゃん寝てるよ」
「う、ごめん。ふふ、やっぱり疲れてたんだね……ありがと」
 丸くなって眠るゆーちゃん運転手の頬を、尻尾で撫ぜた。擽ったいのか、まだ先程のお弁当の夢を見ているのか、ムフフと尻尾の毛をはむはむしている。可愛い。
「それなら、私はお絵かき道具持って来てもらっても良いかな?」
「ええ」
 それから1時間程、お昼寝とお絵描きを堪能した4人は再び戦車に乗り込んだ。楽しい休日はまだ始まったばかり、ゆっくりとこの日常を味わうとしよう!

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