SS詳細
教えて☆ギル♂教祖 ~ナイチチンゲールを添えて~
登場人物一覧
いきなりだが、パンツとは何だろうか。
それは下着であり人類の衣類の一つであり。
永き歴史の積み重なりの果てに生み出された技術と知識の結晶である。
世にはいわゆる裸族――服を着ない事で、衣類による身体の締め付けを和らげストレスを軽減するという……一種の健康法を実施する者もいたりはするが。それでも世の大多数はぱんつを着用する。
それは何故なのか。聡明なる貴方ならばもうお分かりだろう。
そう――ぱんつは偉大だからである!
「そして」
この世界、混沌。
その中の幻想にあるローレットには『ぱんつ』が集まる人物がいるという。
『集まる』であって『集めている』ではない。ここが重要な点だ。
如何なる技能か、如何なる手段か。情報屋でありぱんつコレクターでもあるリュグナーにとって――己が握らぬその未知は決して無視できぬ、或いは許しがたい事象であったのだ。
だから!
「自ずとぱんつがその手に舞い込んでくるその現象……
神の寵愛。ギフトでないとするならば、一体なんだというのだ? ――答えろギルオス!!」
「こっちが聞きたいわ――ッ!!」
リュグナーはローレットの情報屋の一人――ギルオスとの対談に臨んだのだ。
ほとんど半ば強引に、とかいう前置きが付くかは秘密にしておこう! ともあれリュグナーは己が信義に懸けてこの機会を逃すつもりはない。どのようにしてぱんつを集めているのだ。それを吐かす!
「調べは付いているのだぞ。貴殿のクローゼットの中にあるぱんつの山々……
某暗殺令嬢や各国の首脳陣クラスのぱんつまであるではないか。これが偶然とは言わせん」
「偶然だよ」
「世には無数の道具が集まる闇市がある。1つや2つであればそういうぱんつが集まる事もあるかもしれん……だが貴殿の持つ量は全ての種類を含めれば、もう100や200ではない事も調べてある。言え! ギフトでないなら誰の、どんな弱みを握って集めているのだ!!」
「だから集めてないって言ってるでしょ聞きなよ――ッ!!」
対談の内容は一歩進んで一歩下がる。
ギルオスはしらばっくれているのであろう。情報屋として『情報』とは己が命にも匹敵する商売物……リュグナーもその点はしかと分かっている故に。成程、やはりそう簡単に明かす訳はないかと思考して。
されど諦めるかは別だ。次々と責め立てるかのように提示されるは、彼が調べた証拠の数々。
ぱんつを受け取った日の記録。ぱんつを保管している場所の記録。
ぱんつを仕舞っているクローゼットの鍵の保管場所。ギルオスの家の間取り。
――いやちょっと待て個人情報でしょなんでそこまで知ってるの。
「ここまで見せても真実を語らぬとは……ああ無論、タダでは無い……語ってくれた暁には情報屋として我も相応に、対価の情報を支払おう。それでどうか?」
「いや、だから。いつの間に僕の個人情報を」
なまじ全部合っているのが怖い。
ふざけているように見えて、これも一つの情報屋としての会話術である。他愛なく情報としては軽い、しかし間違っていないモノを先に提示した上で『対価の情報を払おう』と繋げるのは対象へ『もっと重要かつ何か、正確な情報を持っているのでは?』という印象を自然に抱かせる。タダで情報を渡しながらタダで渡してはいない――という事だ。
でも個人情報暴露されるのは普通にこわいよぉ! と、思った次の瞬間。
「――ダメですよリュグナーさん!! そんな取り調べじゃ甘いんです!!」
強烈な破砕音。ギルオスが出られないように封鎖していた扉がいきなりぶち破られた。
あ、しまった立て付けが! と焦りながら半分ぶっ壊れた扉をなんとか直そうと揺らす女性の声がする。ハッ! こ、この声は!
「き、貴様は! なぜここに!?」
気付くはリュグナー。その人物の、名は。
「ハイ・ウォール(物理・前面・まな板)リリフ……ナイチチンゲール!!
永遠の0の称号を持ちし者よ――ッ! ナイチチの果てにいる一人が何用か――ッ!?」
――只今映像が乱れております。暫くお待ちください――
●ドカッ! バキッ! ボコ! メキッ! ギャアアア!!
さて、とてもお見せできない惨状が広がっている間に注釈を入れておこう。
パンツとは二つの意味を持つ。そのままの意味での『パンツ』と『ズボン』という意味だ。
ズボンとはパンツの上に履く物であるが、これを指して『パンツ』と呼ぶ事もある。いやむしろそういう意味でこそ使っている者もいるだろう。しかしこの場におけるパンツとは前者――つまり肌着としての『パンツ』の事である。おパンツ。
下半身に身に着ける短い肌着。ショーツ、パンティー、アンダーウェアなどとも呼ばれる種類。
ズボンよりも肌に密着する衣類であり、故にこそおパンツはあまり外に晒されぬ物である――
「そんな! そんなモノの対談をするだなんてこの変態共がぁああああ!!」
「ま、待て! 待つのだリリファ!! 我らは変態ではない――ただこの世の謎を解き明かす為!」
「御託をほざかないでくださいよ、ペッ!!」
殴打しながら唾を吐く。心底見下げ果てるかの様な侮蔑と共に。
それは床を狙った――筈なのに。
「――生唾ッ!!」
リュグナーは驚くべき速度で反応。どこに隠し持っていたのか硝子瓶を取り出して。
床に落ちる前にその中へと生唾を回収。
硬い床をスライディングする形になりながらも即座に蓋をして懐に仕舞えば。
「ふぅ。危ない所だった……貴重なリリファの生唾だ。これも一部に需要があってだな――」
「ひッ……」
まぁ当然として。
「うぇ……うぇええええん! ヤダ――! この人達怖いよ――!! びえええ――!!」
「やめろ僕も含めるな!! 僕は何もしてないだろ!!」
「往生際が悪いぞギルオス――それでもぱんつコレクター界で有名な者かッ!」
「知るかなんだその業界はッ――!!」
リリファちゃん19歳、泣いちゃう。ガチ泣きである。
ちなみにこれも注釈……注釈すべきかどうか悩むが、リュグナーは決して『嘘』はつかない。
それが彼の信義であるのか、はたまた何ぞの理由でもあるのかは定かではないが。真実を明言しない事はあっても、嘘を述べる事だけは決してないのがリュグナーと言う一個人の在り方である。と言う事はつまり――生唾に需要があるというその――ええっと、それも嘘ではない訳で――
「ころすしかない……」
リリファちゃん19歳、ギフト状態と言う名の鬼神モードへと変じる。
ハイルール? なにそれ美味しいの? とばかりに黒き闇が彼女を包んで。
彼女なりの戦闘モードだ。目が赤く染まり、まるで魔物の如く……!
「うわああああヤバイ! あの状態は本気だ!! 殺される!!」
ギルオスは何度か見た事のある姿を前に恐怖で慄いていた。
あの状態になったリリファはそう簡単には止まらない。何せ凄く雑に言うと『ブチ切れている』状態である。リリファに限らずだが怒りに身を委ねている状態の相手を説得するのは至難の業だ。何せ損得どうこうで動いている状態ではないのだから。
すわ。これはなんとか一刻も早く逃げねばと――ギルオスは思った、のだが。
「待つのだリリファ嬢。殺すのはともかく、その前に成すべき事がある筈だ」
「あ”っ?」
柄が悪いよリリファちゃん。
しかしリュグナーは臆さない。いざとなればパンつドラも使用する心算で……パンつドラ?
「無論。ギルオスのパンツ収集能力の事だ――
考えてみて欲しい。もし、これがギルオスの死後も発動し続けパンツが収集され続けたら……?」
何言ってんだコイツ。
「いずれはリリファ――貴様のパンツも、ギルオス宅に届く可能性があるだろう!
ギルオスが死ねばそれを知る方法も失せてしまうのだぞ、それでいいのか!!」
「――ッ!! ま、まさかそんな悪夢の様な出来事が!!?」
「僕にとってはこの出来事が現在進行形の悪夢だよ」
リリファのパンツは、少なくとも現時点では出回っていない。
しかし将来的にはどうだ? ギルオスの能力か何らかの手段か……
それを判明させ、対策を講じねばいずれ出回りギルオス宅に届くかもしれない。リリファも知らぬ内に、リリファのパンツがだ。縞々なのかクマさんなのか分からないけれど。
「いや届くのはともかく闇市に出回ってるのは僕の責任じゃないでしょ話のすり替えでは!?」
「『届くのはともかく』? 届く方には心当たりがあると? 尻尾をあらわしましたねこの変態が!!」
「リリファ。それは『馬脚を現す』か『尻尾を出す』の間違いだ」
細かい事はいいんですよ! と殺気がギルオス一人に向く。嘘でしょ誰か助けて。
しかし本当にどうしようもない。パンツが届く理由? そんなの知らないよ!
リュグナーがその手法を欲しがっても、手法なんてないのだから説明のしようもないのだ。どうしてこんな事になったのだろうか。モノによっては何故かノービスパンツがレリックパンツになって帰ってきたりしてこの世の謎である。
にじり寄るエネミー二体。完全になんか力尽くの気配を醸し出している。
「ちょっと待って。今回の件は始まりからして完全にリュグナーの所為なのになんで僕が」
後退せしギルオス。しかし荒ぶるリリファの方は特に話を聞くつもりがなく。
問答無用とばかりに影が襲う――
●お好きな脱出BGMをかけてお楽しみください。
幻想は今日もいい天気だった。
晴れ晴れとした青空。雨の降る気配は遠く、洗濯物がよく乾きそうな程で。
ある家の住民はそんな陽気な外を眺めながら珈琲を口元へ運ぶ。
よい香り、よい味だ。ううん至高の一時。
昼下がりのティータイムとして存分に休日を楽しんでいた――ら。
「ぎゃああああ――殺されるぅ――!!」
外が騒がしい。
なんだろうかこんないい日に、賊でも出たか通り魔か。
声やこちらの側へと近付いてきていて。ふと気になり、窓から少しだけ外を覗いてみれば。
「待てぇええええ逃げるなぁああああ!!」
男を一人、追っている少女が。
――バズーカを構えて連打しながら駆けていた。
直後、幻想の通りに弾が着弾。炸裂し爆風巻き上がって。慌てて住民は窓から離れれば。
「私のパンツをどうやって手に入れるつもりだあああああッ!!」
「人聞きの悪い事を往来の場で叫ぶんじゃな――い!!」
「往来の場でなければ良いというのか!? やはりギルオス、貴様元々手に入れるつもりがあって……!」
揚げ足取りだ――!! と、一人の男は叫びながら必死に走って逃げていく。
そう。聡明なる皆さんならばもうお分かりだろう。ギルオスは壊れた扉からなんとか逃亡し、リュグナーとリリファルゴンが奴を追っている真っ最中である!! ぱんつぱんつ叫びながら幻想の街中を駆ける様はもはやなんと形容したものか、地獄である。
進むたびに爆風が上がる。目印かの如く、等間隔で黒煙が発生し。
「ギルオス、止まれ! これ以上は幻想の街に被害が拡大する! その前に止まるのだ!」
「止まったら死ぬじゃないかヤダよ! パンツの話題が原因で死ぬなんて一生の恥!!」
「安心しろ。どの道貴様の家のクローゼットはギチギチでそろそろ限界が近かった筈だ! 遠からずパンツに埋もれて窒息する可能性が高かかったのだ――末路は一緒だ気にするな!」
家に無事に帰りつけたらクローゼットの整理を始めよう。
リュグナーの言にギルオスはそう思ったのでした、まる。
とかいう冗談はともかくとしてもホント勘弁して殺される。
「はっ、そ、そういえばこっちの方角は……!」
と、その時だ。自らが逃げている方向に対して、気付いた事がある。
別に意識していた訳ではなく。とにかく脅威から逃げる為に走っていただけなのだが――
「この先は――幻想の闇市の方向ではないか!!」
多くのイレギュラーズがよく行くブラックマーケットである。
特に決戦とか大きな戦いが起こった後は特にね。なんでだろう。
ともあれ闇市。そう全ての元凶。全てはここから数多のパンツが出た事から始まった……!
「うおおおお死ねえええギルオスゥ――!!」
リリファの一撃がギルオスを掠める。掠めて先へまで投じられれば、闇市で軽い爆発が怒って。
「うわああああなんだああああ!?」
商人が竦む。爆発が生じれば爆風も生じ、伴って商品を纏めていた場所が舞い上げれば。
幾つかの商品が空を舞う。
あれはなんだ――剣か――盾か――いや、あれは――
「――パンツ」
リュグナーの目にしかと映ったのは、まごう事無きPANTUであった。
包帯越しの目でも確かに確認できたソレは、黒き下着。某暗殺令嬢のパンツ。
いやそれだけではない。緑のあのパンツはギルオスのパンツであり。
おっさんのパンツも見えるし貴重品の乙女のパンツもあるし――いや待てそんな馬鹿な!
「幾ら闇市とはいえ、確実に誰ぞのパンツが引ける訳ではない!
なのにこれはなんだ? なぜギルオスが通っただけでパンツが舞う……?!」
数多のパンツが爆風と共に舞い上がって。
幻想の空を埋めている。
こんな、こんな光景があり得るのか? リュグナーは今回の対談を経て、半ばギルオスのパンツ収集能力は『偶々』の産物なのではないかと思い始めていたのだが。
やはり考えを改めざるを得まい。こんな夢幻が如き、しかし現実に発生した景色を見せられて。
「やはり――ギルオスには秘密がある!!」
「無いっつってんでしょ――がッ!!」
『偶然』の一言だけで片付けられる程、情報屋としての器は浅くなかった……!
闇市に生じる爆発は無数。リリファルゴンは暴れ続けて。
もはや収集着かぬ。その内なぜか辛うじて生きているギルオスには逃げられるかもしれない。
「だが、我は諦めぬぞ……!」
我は追おう。
貴様の秘密をこの目に確かめるまで。
自らが動かずとも収集し、自らが動けばパンツを動かすその手法を。魔法を!
「必ず貴様が隠している秘密に辿り着いてやるぞ――ギルオスッ!!」
直後。リリファの一撃が偶然リュグナーの足元に炸裂して。
「あっ」
リリファが気付いた時にはもう遅く。リュグナーの身が衝撃で天へと吹き飛ばされた。
混乱せし闇市。その地上の在り様をリュグナーは空を舞う多くのパンツと共に眺めながら。
「ああ――」
思うのだ。
ああ、幻想の空は今日もパンツに埋もれていた――などと。