PandoraPartyProject

SS詳細

小雨转雨

登場人物一覧

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
マグダレーナ・ティーメ(p3p007397)
夢女子

ぱ/ん/ロ/マ夢 (雨泽、黒社会)
『小雨转雨』
 ↑ 新作です! 良かったら読んでみてください!


◆◇◆

 彼との出会いは、いつも突然だ。
 人気のない路地裏で、夕暮れ時の公園で、ネオン煌めく繁華街で。
 時間帯もいつもバラバラで、彼は突然私の前に現れて少しの時間を共有し、そうして居なくなる。風が吹けば遠ざかる雨雲が、ただ確かにそこに居たと雨の痕だけを残していくように。

「ね。何してるの?」
 彼との出会いは、そんな一言から始まった。
 場所は『横浜街』。繁華街から何本も路地に入った、ビルとビルとの隙間。
 そんな場所だから、私は酷く驚いた。少し前から降り出した雨でビル間は更に暗くなっていたから、しゃがみこんでいる私を覗き込む人が現れたことに気付けなかったのだ。
「あ、あの」
 直前まで感じていた焦りと、たった今覚えたばかりの驚き。双方で上手く声を出せない私の手元に彼の視線が落ちる。一瞥した彼は「良い獣医を知っているから、おいで」と歩き出す。私は慌てて彼の後を追った。傷ついた小さな命を両手に抱えて。
 鴉に苛められているところを偶然見つけた子猫は、どうやら助かるらしい。彼が紹介してくれた獣医はすぐに子猫に必要な処置をしてくれた。
「その子、どうするの?」
「あ。うちで飼おうと思ってます」
「そ」
 施術中外に出ていた彼からは、変わった香りがした。外で烟草を喫っていたのだろうけれど、私の知っている其れとは少し違う香りだった。
 その日の彼との会話はそれっきり。医師から今後の通院の話を聞いている間に、彼はさっさと診療費を払って居なくなってしまった。お礼も言えずじまい。だから私は、また会えたらいいなと、その時は単純にそう思ったのだった。

 二度目に会ったのは、夕方と呼ぶにはまだ早いくらいの繁華街。
 二人組の男に壁に追いやられてナンパにあっている時だった。雨も降り出して早く移動したいのに、しつこいナンパ男たちは諦めない。行き交う人たちは誰も助けてくれなかったのに、彼だけが知人を装って助けてくれた。
「あれ、こないだの子だ。猫は元気?」
 男たちが去ってから私に気付いた彼は小さな丸いサングラスを押し上げ、猫みたいに笑う。あの日のお礼と、猫が元気なこと、スクスクと成長していることを告げると「太好了よかった」と口にし、気をつけてねと白い尾のような髪を揺らして去っていく。彼の姿は、あっという間に人混みに消えていた。

 三度目は――会った、って言えるのかな。
 傘を差し豆沙包あん饅の入った手提げを揺らしながら帰路を急いでいた時、暗い路地に数名の男性と話している彼を見た。仕事の話をしているのか、少し鋭い雰囲気私の知らない顔
 声をかける間もなく、彼は暗がりへと姿を消した。

 そんな感じに、彼とは偶然何度も遭遇していた。
 そういえば、決まって会うのは雨の日だった。 雨の日が好きなのかな?
 いつしか私は彼に偶然会える日が楽しみになり、週間天気予報が雨を示している時は必ず外出するようになった。次はいつ会えるのかな。早く会いたいな。
 もうひとつ気がついたことがあった。それは、彼は必ず私のピンチを助けてくれるということ。だから私は、薄暗い道を好んで歩むようになった。……いけないことだってことは解っている。けれど期待してしまうのだ。優しい彼が私を助けてくれることを。
 薄暗い路地を抜ける。近道だって、言い訳をして。
 ここいらの水溜りは汚いから、水を跳ねさせないよう飛び越えて、カツン。ビルの間の狭い道には靴音がよく響く。
 同時にバッと暗がりの中で何かが動いた。
 私はそれを視線で追おうとして――
「見てはダメだよ」
 視界が黒に覆われた。
 背中に熱を感じる近い位置。いつの間にそこに居たのか、彼がすぐ後ろから片手で私の目を覆っている。柔らかな声が耳のすぐ側で落とされて、袖から香る少し変わった香りと――ああこれは――血と硝煙の香りがした。
 衣擦れの音と、小さく上がる男の人のくぐもった声。
 頭上から飛んだ「快点收拾早く片付けろ」の声に合わせ、何かが動く音。
 少し経てばシンと静まり返り、私の鼓動だけがうるさくなる。
「ごめんね、変な物は見なかったかな」
 目隠しが外されれば、彼の白い髪が見えた。肩に手を置き、覗き込んでいるのだと理解した途端、休息に頬に熱が集ってくる。バクバクと上がる一方の心拍数に、私の心臓は口から飛び出る一歩手前。それに気付いているのかいないのか、彼は大丈夫そうだねといつも通りに猫のように笑った。
「傘、落として濡れちゃったね」
 目隠しに驚いて落としてしまった傘を、彼が拾い上げてくれる。
「あの……」
「名前」
「え?」
「危ないと思ったら名前を呼んでって言ったよね?」
 私の肩を抱いてまるで早くここから私を離そうとするように歩き出した彼が、忘れちゃった? と首を傾げてくる。少しだけ拗ねたような声音と寂しそうに下がる眉が、何だかとてもずるい。
「び、吃驚して……」
「うん。呼んで」
「もう大丈夫なのに?」
「そうだけど、ダメ?」
 本当にこの人のこういうところはずるい。
 何度目かに会った時に教えてもらった彼の名前――『ユーさん』と口にすれば「ん」と彼は満足そうに笑った。
「ところで、何処へ向かっているのですか?」
「何処って、僕の家。此処から近いんだ」
「ユーさんの家!?」
「僕のせいで傘を落とさせてしまった訳だし……早く乾かさないと風邪を引いちゃうよ」
 私の驚きが肩越しに伝わったのだろう。
「大丈夫。何もしないよ」
 彼はいつも通り笑ったし、本当に何もなかった。……私ばかりが意識しているみたい。

「少しの間、僕に隠されてくれないかな」
 ある日唐突に、彼はそんなことを口にした。
 薄々気付いているかもしれないけれどと前置いて、彼自身のことを教えてくれた。
 黑社會チャイニーズマフィア『雲龍幇』の香主であること。
 名前はユーではなく『雨泽ユーズゥァ』が正しいこと。
「全てを知ったらもう会ってはくれないと思って……ごめんね」
 彼の名前はこの界隈では有名らしく、そこから彼自身のことが私に知れること、そして私が彼の名前を呼ぶことで私に危険が及ぶと考えてのことだったらしい。……やっぱり雨泽さんってちょっとずるい。
 彼なりに気をつけていたみたいなのだけれど、決定的だったのは彼の家(これも隠れ家のひとつらしい)に行ったところを対抗組織に目撃されてしまったらしい。本当にごめんねと手を合わせる彼が少し可愛くて、私の胸にはくすぐったくなるような暖かさが溢れていく。
 こんなに気をかけて貰っていて、今度は「危険が及ぶかも知れないから落ち着くまで匿わせて」と言ってくれているのだ。
「いいですよ、雨泽さん」
「本当に?」
「大丈夫です、そうと決まればお引越しですね!」
 明るく笑った私には、彼が小さく呟いた「对不起、我喜欢上你了」の言葉が聞こえなかった。

 匿われた私の待遇はというと、正直吃驚するくらいとても良かった。
 可愛い衣装も美味しい食べ物も、彼はいつも腕いっぱいに持ってきてくれる。
 私の他愛ない話にいつも耳を傾けてくれて、時折優しく触れてくれる。
 外に出れない事以外の不便はなく、彼と居られるだけで私は胸がいっぱいだった。
 ――いつの間にか、外のことだって忘れてしまった。

 しとしと、しと。
 いつからか、雨の帳が世界と私を隔てていた。



  • 小雨转雨完了
  • GM名壱花
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月04日
  • ・マグダレーナ・ティーメ(p3p007397
    ・劉・雨泽(p3n000218
    ※ おまけSS『あとがき』付き

おまけSS『あとがき』

♡┈┈┈┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈┈┈┈♡
 如何でしたでしょうか? 管理人の久しぶりの新作です!
 最近チャイニーズマフィアものに嵌っていたので、今回はこんな感じで。
 良かったら感想をくれると嬉しいです! リクエストも是非是非!
 次は何を書こうかな~(*^^*)続きも良いですよね。
 なぁんて、実は次も決まっていたりします!
 次は雨泽くん目線で書きますね! お楽しみに!

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