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美味しいおにぎりを作ろう!~アークライト母娘の場合~
登場人物一覧
「ほかほかご飯、ぱりぱり海苔。鮭に昆布! 後何が良いかな?」
「たらこと栗ご飯に変わり種も用意したから十分だろう」
「よーし! じゃぁパパに美味しいおにぎり作るぞー!」
揃えた材料を前に、ノーラは勢いよく右手を振り上げた。
事の発端は昨日の夕飯中のこと。
明日は少し遠くまで出かけて来ると言うリゲルに、ポテトが昼食にお弁当を用意しようかと聞いた。リゲルはその申し出に嬉しそうに頷いて、ポテトと一緒にどんなお弁当が良いか話し始める。
チーズ入りハンバーグを食べながらそれを聞いていたノーラは、おにぎりを入れると聞いて目を輝かせた。
まだ一人で包丁を使わせてもらえないが、最近ノーラのマイブームは料理。
もちろんママは当然、パパにも遠く及ばないけど、作るのは楽しいし、ノーラが作ったりお手伝いしたりした料理を美味しいと言って食べて貰えるのが嬉しいお年頃だ。
「ママ! 僕も作る!」
おにぎりなら火も包丁も使わないし、今までノーラも数回作ったことがある。ノーラの小さな手で作ったおにぎりは、リゲルには一口だったけど。
わくわくきらきら、期待に満ちた眼差しにポテトは苦笑しながら小さく頷いた。
「その代わり、つまみ食いはほどほどにな?」
「味見だもん!」
ぷくっと頬を膨らませるノーラを見て、リゲルは美味しいおにぎり期待していると言ってさらさらの髪を撫でた。
翌朝いつもより早く起きてきたノーラは、愛用の赤いチェックのエプロンを付けてやる気満々だった。
冷蔵庫の中からおにぎりの具になる物を取り出すと、次々とテーブルの上に乗せて行く。
卵焼きを作っていたポテトは、その様子を見て思わず苦笑してしまった。
「これは、大量のおにぎりが出来そうだな」
なにせノーラは作るのが楽しいお年頃。放っておくと、材料が尽きるまで作り続けるのだ。
「ママ! 何から作る?」
だけどこのきらきらした目で見つめられたら、作るのはほどほどに。なんて言えなくなってしまう。
アークライト家は褒めて子供を伸ばすのだ。
「じゃぁ、まずは昆布からお願いしようか」
そう言ってお茶椀二杯分のご飯を渡すと、ノーラはボールに入れた水で両手を濡らし、ホカホカのご飯を左手に乗せた。
「火傷しないようにな?」
「はーい!」
火傷しないようにポテトが少し冷ましていたご飯は、ホカホカあったかいけど火傷するほどじゃない。
真っ白いご飯の上に、昆布の佃煮を乗せる。つやッとした黒い照りが白米に良く映える。
昆布の上から少しご飯を乗せて、ぎゅぎゅと握っていく。崩れないようにしっかりぎゅっと。
「おにぎりぎゅっぎゅー♪ 三角おにぎりぎゅっぎゅー♪」
綺麗な三角には程遠いし昆布がはみ出ているけど、それでも一つ目のおにぎり完成。
はみ出した昆布は海苔でそっと隠してしまおう。
残りのご飯も同じように握って、合計三つの昆布おにぎりの出来上がり! 一つは大きくて、残り二つは小さめ。小さいほうはノーラだって二口で食べてしまえる。
「ママ! 昆布さん出来た!」
「前より上手に握れたな。大きいのはリゲルの分か?」
「うん! パパにいっぱい食べて貰うんだ!」
にこにこ嬉しそうなノーラに、ポテトは次のご飯を渡す。
「じゃぁいっぱい作っていっぱい食べて貰おうな」
「うん! 次は鮭おにぎり作る!」
再度手を濡らしてご飯を手に取る。塩気の効いた鮭と、噛めば噛むほど甘味の出る白米の組み合わせはノーラも大好きなのだが、今日はパパの為のお弁当作り。大好きな組み合わせだからこそ、大好きなパパに沢山食べて貰うのだ。
「ぎゅっぎゅっぎゅー♪ 美味しいおにぎりぎゅっぎゅっぎゅ♪」
美味しくなぁれと心を込めて、美味しく食べて欲しいなと期待を込めて、小さな手で一生懸命おにぎりを握る。
やっぱり三角には見えないけど、丸くてころんと可愛いおにぎり。
朝食もまだなので作っているうちにお腹が空いてつまみ食いしたくなるけど、パパのお弁当だからとぐっと我慢!
鮭おにぎりを握り終えたら次はたらこ。ぷちぷちした食感が楽しくて好きな具だけど、握るのは大変だ。昆布や鮭とは比べ物にならないぐらいあちこちにくっついて、ご飯がたらこ色になっていく。
「んー……」
「中に入れるのが難しいなら、いっそご飯に混ぜたらどうだ?」
難しい顔をしていると、ポテトがおかずを用意しながら小さく首を傾げる。
「混ぜちゃって良いのか?」
「構わないぞ?」
「じゃぁ混ぜるー!」
握りかけのおにぎりと残りの白米にたらこを混ぜれば、淡いピンクの混ぜおにぎり。今度ははみ出たり、混ざることを気にしたりせず握って行ける。
「ママ、ピンクのおにぎり!」
具がはみ出さないことを気にしなくて良い分、形は一番三角に近い。
「今までで一番上手に出来たな。リゲルもきっとびっくりするぞ」
「パパの反応楽しみー!」
楽しそうに笑うノーラにポテトは栗ご飯を渡す。
「じゃぁ、リゲルをもっとびっくりさせるためにも残りも頑張ろうか」
「任せろー!」
栗がたっぷり入った栗ご飯はほんのり甘いから、仕上げにゴマ塩をぱらぱらと。
栗がでこぼこしてさっきより上手に握れなかったけど、愛情はいっぱい。これだけパパの分が少し小さくなったけど、他が大きいからきっと大丈夫。
「ママ、変わり種って?」
「枝豆とチーズの混ぜご飯だ。塩昆布も入ってちょっと面白い味だな」
むいた枝豆と、枝豆に合わせて切ったチーズ。それだけだと味が弱いから、塩昆布を足して味を付ける。
一口分摘まんでみると、枝豆とチーズの食感が面白くて、塩昆布の味を引き立てている。「ママ、これ美味しい!」
「つまみ食いはほどほどにと言ったはずだぞ?」
「味見だもん」
ふふん。と笑うと、ノーラは早速混ぜご飯を握っていく。
やっぱり少しでこぼこになるけど、他のおにぎりと違って枝豆の緑が見た目にも楽しい。
昆布、鮭、たらこ、栗ご飯に枝豆とチーズの混ぜご飯。テーブルに並んだおにぎりを見てノーラは大満足だ。
「おにぎりが大きいから、おかずは控え目になりそうだな」
弁当箱におにぎりを詰めながらポテトが苦笑する。
ノーラが握ったおにぎりは、普段ポテトが握るおにぎりよりずっしり大きい。
何とかおにぎりを詰めて、その隙間におかずを詰めていく。残りのおにぎりとおかずはポテトとノーラのお昼ご飯だ。
「ママ、僕もお弁当が良い!」
折角おにぎりとお弁当用に作ったおかずがあるならとノーラが主張する。
「そうだな。お弁当にして外で食べようか」
「やったー!」
「でもその前に、ノーラはリゲル呼んで来てくれるか? そろそろ朝食にしよう」
「はーい!」
元気よくノーラが走っていき、ポテトは残りのおにぎりとおかずにラップをかける。自分たちの分を弁当箱に詰めるのは、朝食の後で良いだろう。
「いってらっしゃーい!」
ずっしりと重いお弁当を持って愛馬で駆けて行くリゲルを見送ったノーラは、横に立つポテトを見上げた。
「パパ喜んでくれるかな?」
「どれぐらい美味しかったかは、夕飯の時に沢山語ってくれると思うぞ?」
可愛い娘が愛情いっぱい込めて握ったおにぎり。どのおにぎりがどう美味しかったか、笑顔いっぱいで話して褒めてくれるに違いない。
「パパの感想楽しみー!」
わくわく期待に満ちた笑顔。夜はきっともっと嬉しい笑顔になるだろう。
「ママ。今度はパパとサンドイッチ作りたい!」
それはまぁ、また別の機会に。