PandoraPartyProject

SS詳細

Summer Refrain

登場人物一覧

ざんげ(p3n000001)
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

●デ・ジャ・ヴ
(暇、ではねーでごぜーますね?)
 似ても似つかない。
 レオンルカは全く違う――
 レオン・ドナーツ・バルトロメイはひねくれた意地悪ばかり言って、ルカ・ガンビーノ (p3p007268)は何時も優しくしてくれる。
(ああ。やり方は兎も角、色々教えてくれようとするのも同じでしたか)
 一致している事なんて何故か自分に構いたがる物好きで、良く空中神殿にやって来る事位。
 何もかも違う二人だが、『元より大した人間関係を作った事が無い』ざんげ (p3n000001)からしてみれば印象に焼き付く珍しい相手である事は間違いない。
「……どうしたんだよ」
「はい?」
「何か、すごいじっと見てくるじゃねーか」
 眉根を寄せて難しい顔をして。何の臆面もなく真っ直ぐに顔を見つめてくるざんげの様子にルカは正直幾分か面食らっていた。
 暑い日。青空、白い入道雲。爽やかな風。
 訪れた空中神殿の風景は何時もと変わらなかったけれど、その主の所作は何時もとほんの少しだけ違う。
 如何せん、口下手を通り越して必要な事をまともにしゃべらないざんげが相手では、何かを察するのは難しい。
「見ていますが」
「いますが」
「……駄目でごぜーましたか?」
「いや、そういうんじゃなくてよ……」
 思わず頬を掻いて視線を逸らしたルカはこの浮世離れした神託の少女に何と言って良いのかと言い淀んだ。
「……」
「……………」
 ルカが上手い切り返しを思いつかない間、ざんげは行為が是認されたと認識したらしい。
(勘弁してくれ……)
 ルカ・ガンビーノが(自己は兎も角)他者がそう囃し立てる砂漠の王子様と言えども
(……本当にコイツは……)
 苦笑したルカは彼女と初めて出会った時の事を思い出していた。
 あれは確か、そう。冥刻のイクリプス――ベアトリーチェ・ラ・レーテとの決戦を控えた頃の事だった筈だ。

 ――お前さ。

 ――はい?

 ――怒ってる? それとも何か、退屈してるのか?

 ――いいえ。極々通常営業でごぜーますけど。

 ――表情筋死んでるのか? 大丈夫か?

 ――ああ。そちら様は、稀に居る超失礼な奴でごぜーますね。

(どっちもどっちだが、ありゃあ酷かった)
 思い出すに悲惨なやり取りだったが、記憶は比較的確かな筈だ。
 ……最初はちょっとした好奇心だった筈なのだ。
 仏頂面の退屈そうな女の違う表情が見てみたかっただけ――
(……そりゃ、笑えば可愛い筈だろ?)
 ――相変わらず自身の顔を穴が開きそうな位に見つめてくるざんげにルカは内心だけで言い訳めいた。
(だから、少しだけ。少しだけ構ってやろうと思ったんだよ)
 ラサの仕事、特異運命座標の活動の合間にほんの少しだけ。
 仕事帰りに土産を持っていってみたり。
 各地に『飛ぶ』際に神殿を覗いてみたり。
 少しだけ付き合えと無駄口を叩いてみたり。
 ……時には理由をつけて一時を付き合わせてみたり。
 ざんげという女は決して万華鏡のように表情を変える可愛い女ではなかったが、短くない時間を共に過ごせば見えてくるものは確かにあった。
(やれやれ、だ)
 呆れるような内心が果たしてざんげを向いたのか、自分自身を向いたのか――ルカは正直分からなかった。
 ただ、思い出すのだ。暫く前の出来事を。
 手が届きそうな位の満天の星と夜に抱かれたあの日の事を。

 ――Shall we dance?

 気取って誘っても「はあ。構いませんが」の塩対応。
 それでも手を取り過ごした誕生日の時間の事を。

 ――本当に、物好きでごぜーますね。

 言葉尻だけ聞けば悪態に近いが、果たして言葉通りの意味だっただろうか?
 言動の一つ一つがズレにズレ、或る意味で突拍子もない彼女は一筋縄でいくようなタイプではなかったが、決して完全な無表情でも無感情でも無いのだ。『それ』に気付いた時、ルカは遅れ馳せながらに自覚したものだ。『それ』に気付いているのは恐らく自分だけなのだろうと考え――嬉しく思ってしまえば、後はあんまりにも語るに落ちる。
「……」
「……………」
「……おい、こら」
「はい」
「流石にもう十分だろ? どうして急にじっと見てくるんだよ」
 長いようで短い沈思黙考が雲行きの危うさを見せたタイミングでルカは咳払いをした。
 ざんげは尋ねれば答える事は多いが、自分から口を開く事は多くない。
 受け身のコミュニケーションをしていては、静かなるジャイアントスイングに振り回されるのは目に見えていた。
 ざんげとのやり取りは自分が主導権を握るに限る。ルカはそれを良く知っている。
「何となく、思い出したでごぜーますよ」
「思い出した……?」
「昔の事でごぜーます」
 やはり当を得ないざんげの答えにルカの眉がほんの少しだけ動いた。
 それは恐らく野生の動物めいた所もある彼の本能的な直感だったと言えるのだろう。
 ざんげに悪びれた風は無く、表情も声色も何時ものまま。
 
 ルカがルカでないのなら、聞く必要は無かったのかも知れないが――
「……誰の事を?」
 ――明敏で且つ自信家で、一本気で強気な彼はそれ以上に若かった。
 平然と返るざんげの言葉が余り嬉しいものにならない予感を感じながらも、尋ねざるを得なかった。
「昔、レオンが良くここに来たでごぜーますよ。
 お土産を持ってきたり、おかしな話をしたり。お祝いをするとか言い張ってみたり……
 ……特に夏は。ルカを見ているとそれを思い出したです」
「――――」
 分かって言っているのであらば、百年の恋も醒める性悪ファム・ファタルに間違いない。
 だが、ルカはざんげという女が百年を微睡む無垢ファム・ファタルである事を知っている。
『当時』と『今』を重ねてその時間を懐かしむ彼女には一分の他意もない事を知っていた。

 ――ルカ、お前、女の趣味悪そうだからな。気をつけろよ。

 ――兄貴、何唐突に酷い事言ってくるんですか。

 ――『知り合い』にねぇ。ちょっと女関係でやらかした奴が居て、これがまあ不幸そうなんだわ。
   可愛い弟分に似たような思いはさせたくねぇからなあ……

(……成る程ね)
 珍しく歯切れの悪いディルクとのやり取りは何時の事だったか。
 
「……どうかしたでごぜーます?」
「何でも」
「あいた!」
 頭を振ったルカは近付いて顔を覗き込んできたざんげにデコピンをした。
「なにするでごぜーますか……」
「昔と今の借金分だ」
 伊達男は何時死んだのか。
『アレ』がそうなら自分はどうだ?
 自問自答してからルカは頭を振った。
 馬鹿馬鹿しい程この季節は繰り返す残響だ。
 もう戻らない夏、未だ顔も見せない夏は――考えても余りに詮無い。

「……はい?」
「俺はずっと来るよ。お前がずっとここに居ても――ここに居る限りは」
「ずっと居るでごぜーますよ」
「『神託』が過ぎても?」
「……過ぎた事がねーので」

 ――分かりません。

(希望かもな。唯一の)
 その先がざんげ自身にも分からないのであれば、或いはそれは物語に書かれるような『救い』の類であるかも知れない。
 意地の悪い神様とやらも、その位の粋は見せても良いだろう?
「ずっと、来るよ」
 根拠のない言葉も、口にすれば自分を強くする魔法になるような――そんな気がした。

  • Summer Refrain完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月01日
  • ・ざんげ(p3n000001
    ・ルカ・ガンビーノ(p3p007268

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