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幻想種エイルの手記

登場人物一覧

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

 良い天気だった。

 其れだけの文章を日記に書いて「今日の日記はお終い!」と勢い良く引き出しに仕舞い込もうとしたエイルにヴィオレット・フォンティーヌは渋い顔をした。
 エイル・フォンティーヌは深緑に生まれた幻想種である。姉のヴィオレットは霊樹を祀る聖堂の聖職者になるべく日夜勉強をしているが、対するエイルは魔法や魔術にばかり興味を惹かれていた。代々は霊樹を祀る司祭を担う家系であった父方、フォンティーヌの血筋の宿命は姉が継ぐであろうし、母方は普通の幻想種だ。葡萄等の果樹園を営む側がエイルの継ぐべき道なのだと幼い頃からエイルも考えていた。考えてはいた、が、其れは非常に詰まらぬ『未来』であるように彼女は感じていたのだ。
「姉さん、私は思ったの。
 此の儘田舎で果樹園のお世話をするとか、人生がパッとしない気がすると!」
「……しなくてもいいのでは?」
「姉さんは霊樹を祀るお役目があるじゃない。選ばれたって感じで良いじゃない。でも、私は何もないもの。
 だからね、魔法を研究して……ついに、思いついたの。旅に出るわ!」
「えっ、エイル!? 母様、父様、エイルが――!」
 暴走台風系幻想種エイル・フォンティーヌは止まることはなかった。生家を捨てる勢いでをし、深緑をさっさと後にした。
 最初に辿り着いたのはラサのオアシスである。そこからパカダクラ(適当に捕縛した)に跨がって砂漠を流離った。現地の住民達には覇竜領域には行くなと口を酸っぱくして忠告された――因みに、普通に入り口まで辿り着いて当時の覇竜観測所の面々に制止の声を掛けられながらワイバーンの狩猟を命懸けで冒険者達と行ったらしい。
 破天荒な彼女は其の儘、ネフェルストに至り商人達に冒険で得た物資を販売してキャラバン隊の護衛役(と、言いながら意気投合したために半ば行商人の一人のような扱いで)として幻想へと渡った。其の儘商人達は天義へと向かうらしい。幻想王国での冒険も心惹かれる物があったがエイルは一先ずは行商人達と天義に向かう事にした。理由は、一人で訪れれば何らかの粗相をし断罪されかねないと商人達に説得されたからだ。

 そこから先の話は簡単だ。当時のヴァークライト家は子爵に相当する家門であった。現在はヴァークライトを取り巻く一連の悲劇でその爵位も喪われてはいるのだが……。
 子爵家の主人が息子と娘への贈り物を探していると聞いた行商人はエイルと共にヴァークライト家へと訪れた。その贈り物の相手の息子というのがエイルにとってのことアシュレイ・ヴァークライトであった。それはそれは破天荒なエイルだ。子爵家の跡取り息子と知りながらもフランクに話しかけ、半ば相棒気分で連れてきたパカダクラに跨がって出掛けることを提案し、やりたい放題の有様だ。だが、アシュレイはそんな彼女を気に入ったらしい。
 当時の使用人達は凜とした騎士として知られ、堅物だとされていたアシュレイを射止めたのが暴走台風系幻想種であったことには驚いたが良いバランスなのだと喜んだものである。其れだけ明るく破天荒であったエイルは天真爛漫であり、エミリアも非常に好いていた。氷のような令嬢として知られた彼女はひだまりのようなエイルを甚く気に入ったのだろう。
 それがエイルの嫁ぐ前までの――一寸した彼女の冒険のお話なのだ。

  • 幻想種エイルの手記完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2022年08月27日
  • ・スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034

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