PandoraPartyProject

SS詳細

真夜中のサーカス。或いは、緋蠍たちの謀…。

登場人物一覧

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ピリム・リオト・エーディの関係者
→ イラスト

●真夜中のサーカス
 きっかけは1通の招待状。
 スラムの少女の手によって、それはピリム・リオト・エーディ(p3p007348)へ届けられた。
 曰く「このスラムの有力者へ、この手紙を届けてください……と頼まれました」とのことだ。報酬のパンと引き換えに、少女は手紙をピリムのもとへと運んだそうだ。
「んー? こんなスラムの有力者なんて招待して、一体どうするつもりでしょーねー?」
 招待状の送り主は「緋蠍サーカス団」の団長だ。
「あーはー? もしかして、スラムの有力者が、どこかの犯罪組織だとでも思ってたんでしょーか? だとすると、サーカス団の目的はショバ代の交渉とかですかねー?」
 現在、サーカス団はアーベントロート領郊外の荒野にテントを張っているらしい。
 大規模なテントを張るには土地がいる。
 そして、土地を確保するためには、土地の権力者から許可をもらう必要がある。
 普通であれば、治安の良い土地で興行するものだが……どうにも「緋蠍サーカス団」はそうじゃないらしい。もしかすると、団員の多くは元犯罪者や指名手配犯なのかもしれない。
「んふふ。まぁ、せっかくのご招待ですし、断る理由もないでごぜーますね」
 白い頬を紅潮させて、ピリムはじゅるりと唾液を啜る。
 手紙に書かれている「当団は女性のみで構成されたサーカス団であり……」の一文が、彼女の琴線に触れたのだ。

 指定席は最前列のど真ん中。
 ステージまで、ほんの数メートルという位置だ。
 夜も深まったころに始まったステージは、ピリムにとってまるで楽園のようだった。
 しなやかな筋肉を纏った女性たちの芸を、ピリムは心行くまで満喫したのだ。
 その途中で、団員の1人……手品を披露する車椅子の女性団員が、ピリムの手へと紙で仕立てた真っ赤な薔薇を握らせる。残念ながら、車椅子の女性は太ももから下を失っていた。その白い肌と細い体を見れば、彼女の脚がいかに美しいものであったかが良くわかる。
「あぁ、惜しいですねー」
 手品師の脚を奪う機会が訪れぬことが、ひどく惜しくて仕方なかった。
 しかし、奪うべき“脚”はまだ多い。
 受け取った造花を懐へと仕舞おうとして……ピリムは花弁に書き記されたメッセージに気付く。
「閉幕後の退場はせず、そのまま暫くお待ちくださいー?」
 声を潜めてピリムは「おや」と首を傾げた。
 終幕と同時に刀を抜き、団員たちの脚を斬ろうと計画していたピリムだが、メッセージを見て予定に少々の変更を加えることにした。
 先方から、テントに残る許可を得たのだ。
 脚を斬るのは、邪魔な客たちが全員去ってからでも十分に遅くない。

●カーテンコールの先
 万雷の拍手で、楽しい時間は幕を降ろした。
 ステージに人はいなくなり、客たちは笑顔で去っていく。
 薄暗い客席に1人、ピリムだけが残された。
 彼女はどこかそわそわとした様子で、足元に置いた太刀を手に取る。
 にぃ、と知らずに口角があがった。
 ここで待っていれば、誰かが声をかけてくるはずだ。まずはその者の脚を斬る。息の根は止めなくてもいいが、他の団員たちの居場所を訊きだす必要はあるだろう。
 もしかしたら、悲鳴を聞きつけて団員の誰かが様子を見に来るかもしれない。
 その時は、その団員の脚も斬る。
 今日は何ていい日なのだろう。
 何本の脚が手に入るだろう。
 それを思えば、想像だけで絶頂しそうだ。
「よぉ、*幻想スラング*! 手配書を見たぜ! 相変わらず吐き気を催すにやけ面をしてやがる!」
 カツン、と硬質な音を響かせ現れたのは、オレンジ髪の女であった。
 頭の後ろで3つ編みにした長い髪の先端には、鋭い針が付いていた。おそらく蠍の獣種だろうか。身に纏う軍服に、両手に下げた大型の銃火器。
 右手にはガトリング。左手にはショットガン。
 左足は存在しない。太ももの位置で、すっぱり斬られて無くなっている。
 失った左足の代わりに、ショットガンを杖のようにして体を支えているようだ。
「舐め回すように女たちの脚を見てたな? サーカスとストリップ小屋の区別もついちゃいねぇのか?」
 コツコツと足音を鳴らしながら、女はピリムの前へと立った。
 客席に座るピリムと、ステージ上からそれを見下ろす蠍の女。ピリムは上体を折り曲げて、女の脚の付け根をローアングルから覗き込む。
「話聞いてんのか? その耳は飾りかよ?」
「おやー? 脚が喋ってる? いい声で喋る脚でごぜーますねー?」
 蠍の女は舌打ちを零した。
 ピリムの額にガトリングの銃口を突き付け、血走った目で睨みつける。
「なァ……クソムカデ、オレを忘れてねーよなァ?」
 隠そうとしても隠せないほどに強い殺気を叩きつけられながらも、ピリムは笑みを崩さない。女がトリガーを引くよりも、自分が刀を抜き打つ方が速いことを理解しているからだろう。
「はて、どちら様でしょーか。その脚の断面は、たぶん私の太刀筋だと思うんですがー」
 チャリ、と。
 ピリムの手元で鍔が鳴る。
「何せ斬った方は脚しか覚えていねーもので」
 嘲るようにピリムは口角を吊り上げる。
 瞳を細めて、銃を構えた女の見返す。
 ギリ、と女が歯を噛み締めた。すぐにでも叫び出したい衝動を、必死に抑え込んだのだろう。
「ハッ! 相変わらずムカつくイカレクソビッチで安心したぜ! 元から逃がすつもりはねぇが、これで心置き無くぶっ殺せるってもんだ!」
 女の瞳の奥に燃えるは、激しい憎悪の炎であった。
 その声と、その目と、そして残った右足にふと思い当たる節がある。
「あー、その脚は……! カミーラたそでしたかー」
 カミーラ・レンティーニ。
 ピリムの古い知り合いだ。
 出身はピリムと同じ、猟奇的孤児院「フリーデンゼーレ」。ピリムの同期として、ともに過酷な訓練の日々を過ごした友人である。
 ピリムが孤児院を脱走する際に、確か彼女の親友を殺めた記憶があった。その時、カミーラの左脚も斬り盗ったはずだ。
 カミーラの左脚は、初めて自分の意思で斬った“コレクション”である。いわば、ピリムの原点とも言えるものだが、当時のピリムでは腕が足りず、片脚しか斬れなかったのだ。
 ずっと、ずっと……長い年月、奪い損ねた右脚のことが心の隅にひっかかっていた。
 いつか必ず、もう片方の脚も手に入れたいと、カミーラの左足を見る度にそう思わずにはいられなかった。
「懐かしいですねー。カミーラたその左脚とは何度も褥を共にしましたがー」
 その柔らかさと、滑らかな肌触りは、例え“脚”がそこになくとも思い出せる。
 カミーラの脚を抱く度に「片足だけでは寂しそうだ」と思っていたのだ。
「わざわざ私に右脚も届けに来てくれたんですかー? フフフ……相変わらず優しい方ですねー」
 しゃらん、と。
 ピリムが刀を抜く。
 ベタリと這いつくばるように上半身を床へと伏せた。
「Fu〇k!!! コイツやっぱり話が通じねぇ!」 
 ガトリングの射線から身を躱しながら、ピリムは低く刀を一閃。
 けれど、ピリムの刀がカミーラの脚を切り裂くことはなかった。
 反射的にピリムは体を横へと投げた。
 背後から響く銃声。
 次いで、肩に走る激痛と頬を濡らす赤い鮮血。
「……わかってんだろうな? 楽に死ねると思ってんじゃねェぞ!?」
 姿勢を低く保ったまま、ピリムは視線を背後へ向けた。
 そこにいたのは、ライフルを構えた1人の女性。車椅子に乗った彼女は、先ほどのステージで観た手品師では無かっただろうか。
 否、手品師だけではない。
 いつの間にか、客席の各所やステージの端、果てはテントの天井付近に至るまで、10数名を超える団員に囲まれていた。
「あはー? 脚ぃ」
「脚じゃねぇ。復讐者だ」
「復讐者ぁー? 一体どこの誰に復讐するっていうんですかー?」
 煽っているわけではない。
 ピリムは“本当に”理解できていないのだ。
 殺気だった復讐者たち。その銃口は、すべてピリムに向けられている。
 状況から判断するなら、彼女たちの復讐対象とはピリムであろう。
「傭兵部隊『緋蠍』。てめぇの被害者とその遺族で構成された傭兵団だよ」
「つまりー、カミーラたそは私のために“脚”を沢山、集めて来てくれたんでごぜーますかー?」
 繰り返すが、決して煽っているわけでは無いのだ。
 ブツン、と。
 カミーラの中で、何かが切れた。一般的には“堪忍袋の緒”と呼ばれる何かだ。
「撃てぇ! この腐れ〇〇を蜂の巣に……いや、肉塊に変えちまえ!」
 号令と共に、カミーラはガトリングのトリガーを引く。
 緋蠍の団員たちも、一斉に銃の引き金を引いた。
 火薬が爆ぜる。
 マズルフラッシュが、暗い客席を白に染めた。
 降り注ぐ無数の弾丸を、ピリムは転がるように回避する。
 けれど、しかし……。
「んぐっ!?」
 細い腰を弾丸が抉る。

 疾走。
 低く滑るようにして、ピリムは手品師の前へと駆けた。手品師はライフルをピリムに向けるが、直後に短い悲鳴をあげる。
 手品師の顔を濡らすのは、振りまかれたピリムの血だ。
 目を潰された手品師の首を手で掴み、強引に車椅子から引きずり下ろす。
「や、やめ!」
「やめろと言われてやめたことはないですねー」
 手品師の体を幾つもの弾丸が撃ち抜いた。
 人間1人を肉の盾へと変えたピリムは、再び“空”を蹴って跳躍。
 事切れた手品師を背負ったまま、ピリムは虚空を疾駆する。

●閉幕
 手品師の首を路傍へ投げた。
 身体の方は、カミーラの宣言通りにすっかり肉塊と化してどこかに落ちているはずだ。
 それでも10発近い弾丸を浴びただろうか。
 血を流し過ぎたか、意識が朦朧としている。
 しかしピリムは生き延びた。
 真っ暗闇へ身を潜らせて……途切れ途切れの意識の中で、ピリムは一つ、溜め息を零した。
「あーあー。今日は脚が手に入らなかったでごぜーますねー」
 なんて。
 彼女の胸を締め付けるのは、ご馳走を前にお預けされた悔しさばかり。

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